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29

 

 リチャードがギルドの戸をくぐると、冒険者達が起こす、朝の騒乱の跡が彼方此方に見受けられた。


 まだ齢が足りない冒険者志望(こども)達が、ホールを掃除し、今日の仕事にあぶれた冒険者(おとな)が、併設のバーカウンターで酒を酌み交わしていた。


 受付で、書類と格闘している女性の髪は、早くもほつれ、まさに鬼の形相とかしていて、その迫力(オーラ)に、リチャードは声をかけるのを躊躇っていた。



「リチャード! こっちに入ってこい!!」



 そんなリチャードを見つけてくれたか、受付の奥にある執務室からダナンが呼んでくれた。


 リチャードが、執務室に入ると、ダナンの他にギルド長がいた。



「やぁリチャード、報告にきてくれたのか?」



 一連の林の調査のあらましは、ダナンから受けたギルド長だったが、リチャードが朝から来たことに少し驚き、声をかけてきた。



「はい、ちょっとトラブルに巻き込まれて…」



 リチャードは、ギルド長とダナンに、昨日ダナンと別れてからのことを話した。


 グレイの部屋で魔術師らしき男から襲撃を受けたこと、その際、鳥カゴに捕らわれたスリーパーワイルドキャットの子どもがいたこと、例の林で、その男と戦闘になったことなどを報告した。



「それは明らかに繋がりのある話じゃないか!」



 リチャードの報告にダナンはおどろいて椅子から立ち上がった。



「まだ、あるんだろ?」



 ギルド長の冷静な言葉に、リチャードは背負い袋から、拾っておいた男の所持品と首を出して机に置いた。


 二人は、一瞬息を呑んだようだが、すぐに気を取り直し、所持品を見分し始めた。



「帝国のものだな…」



 ギルド長の意見は、リチャードと一致していた。



「ギルド長、グレイにも来てもらって、あの話をした方がいいのでは?」



 魔獣の捕獲筒を手の中で遊ばせていたダナンが言った。



「ダナン、あの話ってなんだ?」



「あゝ、昨日少し探るって言っただろ?

 帝国側に近い支部にそれとなく探りを入れたら、帝国の一部の貴族が、かなりきな臭い動きをしてるって効かされてな」



「ダナンに言われて、私も調べたが、帝国の魔術師がこちらに来ているらしい。

 グレイはギルドに所属している。なら守るのに理由はいらん。それに私の管轄区域を荒らす不届きな奴は…」



 ダナンに加え、ギルド長も調べたようで、帝国のやり方に腹を立てているようだった。



「では、グレイを呼んできます」



 リチャードは二人に会釈をして、席をたった。






 ギルドを出てから数分後、リチャードは、グレイの部屋の扉の前で逡巡していた。すでに何回かノックをしたが、返事がなかったからだ。。


 思えば、宿の一階も、ゼアスはおろか人の気配がなく閑散としていたが、それでも女性(グレイ)の部屋へ踏み込むには、自分の中の理由が足りなかった。


 ただ、いつまでもこうしていられないとノブに手をかけると、カギが開いたままなのに気づいた。


 “襲撃の後”に対しての違和感に、これで何もなければ土下座案件だと思いながらもグレイの部屋へと入った。


 部屋(そこ)に、グレイの姿はなかった。


 ベッドのシーツに縒れはなく、使った形跡が見当たらなかった。


 “拉致”という言葉が頭を過ぎったが、グレイの荷物もないことに気づいた。


 その中で、机の上に二組の便箋があり、その一つが自分宛なのを見て手にとって目を通した。


 手紙には、協同依頼を報告前に去る事、襲撃に巻き込んだことへの詫びと、事情を察しながらも自ら話すまで待ってくれた気遣い、何度も救ってくれたことへの感謝の言葉が書かれ、そして何より、リチャードと出会い、ともに行動できたことへの喜びが綴られていた。


 リチャードは、もう一つの手紙、ギルド(ダナン)宛の手紙を握って部屋を出た。


 宿を出ようと会計所の前を通る時、いつも後ろの壁に飾ってあった両刃斧がないのに気付いて、ゼアスの同行を知り、やや安堵した。


 宿の外に、見知った冒険者がいたのでギルド(ダナン)への手紙を託し、二人を追うと決めて街の門へと向かった。





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