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「どう見ても三十は超えてるよなぁ…
この世界の人達を知らないが、四十代とは思いたくない…」
窓からさす月明かりの中、鏡に映る髭面は、日焼けのせいもあって年齢不詳だった。
「まぁ、オッサンには違いないか…」
俺は、(結局、見た目に合わせて僕は辞めた)なんとなくベッドを避けて、部屋の隅にあるイスに腰掛けた。
改めて部屋をみわたすと、家具の類は全て木製で、燭台の様な物だけが、金属製品だった。
燭台には、ロウソクが刺さっていないどころか
手に取りよく見ても、ロウでよごれた形跡は無かった。
「置き場所といい、形といい、照明器具だと思ったが…」
暫くの間、ひっくり返したりして、スイッチらしきものを探したりしたが、何も変化はなかった。
「魔法のある世界って言ってたから、魔道具なのかも…って、ウワあぁーーー!」
もとの場所に戻そうと、魔法の事を考えながら、燭台を持ち直した時、燭台の剣先に(剣先といっても、刺す前提では無いようで尖っていないが…)強い光が、一瞬だけ灯った。
一瞬の強い光に、リアル「め、目ガァー!」のチャンスは逃したが、おもわず発した叫び声と強い光に、ベッドサイドの女性が、身動ぎをしたので、慌ててイスの上で寝た振りをした。
暫く様子を見たが、起きる気配のない彼女に、毛布を掛けてそっと部屋を出た。(ベッドに横たえる事も考えたが、関係性がわからなかったので触れるのは止めておいた… そう、ブルったんですが何か?。)
廊下へ出ると、やさしく光る燭台が一つと、いくつかのドアが並んでいた。
なんとなくまだ室内を想わせる廊下の造りに、アパートではなくホテルの雰囲気を感じた。
廊下の突き当りに階段があり、下をのぞくと灯りのついた部屋から、何かの作業の音がしていた。
階段を降り、灯りのついた部屋をのぞくと厨房だった。
「おい、ドブ もう大丈夫なのか?」
急に後ろから声がかかり、ビックリしてふり向くと、洗い終わった桶を片手に、厳ついオッサンが立っていた。
「おいおい、冒険者がそんなんでどうする? もう少し、ローラ嬢ちゃんのベットで寝かせてもらったらどうだい?」
ニヤニヤしながら、俺の横を抜けて厨房に入るオッサンに、イラッとしながらも、適当に相槌をうちながら、話しを合わせた。
オッサンのからかいに、耐えながら情報収集したところ、やっぱりというか、俺は街で突然、倒れたらしい。
俺は冒険者で、一緒に依頼を受けていた女性と、このオッサンに運ばれて、ローラさんの部屋で寝かされていたらしい。
「明日の仕込みが終わったら俺は寝るが、ドブはどうするんだ?」
(俺ってドブって名前なの? ちょっと酷くない?)
「俺は、少し外の空気を吸いたい。」
早めに魔法の確認をしたいし、ここまでの情報整理などもしたくて、そう言ってみた。
「なら中庭に行け。そこなら、この部屋の灯りが見える。灯りが消えたら部屋へ戻れよ。閉め出されたくなければな!」
俺は、オッサンのそんな言葉を背中で受けながら片手をあげて、オッサンが、指差す厨房の奥のドアから、庭に出た。
頬をなでる澄んだ空気は、少しだけひんやりとしていたが、考えることの多い頭には、かえって心地よかった。
「魔法があるって言っても、使い方を教わってないからな…」
一人呟きながら思うのは、管理人との出会いと会話だった。
「文明を真似てって、魔法なんて地球には、無かったんだから、マンガかアニメ、もしくは小説からだよなぁ…」
そんな事を思いながら、とりあえず実験をと思い、手のひらを上に向けた。
「ウォーターボール! おっビンゴ!」
俺の手のひらの上には、野球ボール大の水の塊が、浮かび上がっていた。
「うーん、出たけど、どうやって消すんだろう?」
すると、消すという言葉なのか、消えるイメージを持ったからなのか、水の塊は、あっさり手のひらから消えた。
その後、何度か試してみたが、イメージが重要な様で、細かければ細かい程、効率よくできている気がした。
「教わって無いのにできるなんて、なんか簡単設定だけど、みんなそうなのかな? うーん、異世界チートの気がするな… あぁ、記憶が無いだけで元々、魔法使いかも知れないのか…」
そんな事を考えながら、更に数回、属性を変えたりして試していたが、厨房の灯りが消えたので、部屋へ戻って眠った。
(もちろん、自分の部屋でだよ…)