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おばあ様、お元気ですか?
死んでからその後、お変わりはありませんか?
バカな事を言って、なんでそんな質問を? って?
何故なら僕は今、ゾンビを見てるからです。
どこで見たの?って?
はい。僕の足下、5メートルくらい下です。
あなた浮いてるの?って?
えぇ仲間うちで...って、そうじゃなくって、僕も幽霊になったので…
あ、はい。そうですね。幽霊が足下っておかしいですね。
おばあ様、こちらのゾンビはすごいです。剣を振り回して、敵と戦ってます。
僕の死体は、敵を圧倒しています。
(がんばれ死体!)
ええ、戦いはよく見えています。音が無いなのと、ポテチが無いのが残念ですが…
死んでるのに、危機感がない!って言われても、それは、さっきまで自分が戦ってたのを一歩下がって、もとい数歩上がって見てるからです。まさにそう、これが戦いを俯瞰で見るというやつですね。
ただ、俯瞰で見るというのは、主につむじしか見えないんですね。とても勉強になります。
それではまた、お便りします。
なんて、小坊主ごっこしている場合じゃなかった。
さっきまで優勢だった僕の死体は、ジジィに何か言われると、急に膝をついた。
(がんばれ死体!←コピー)
魂の声援が届いたのか、死体は、力なさげながらも立ち上がり、剣を構えた。
ジジィはまたしても、懐から短剣を出し、逆手に構えた。
(見えた!ジジィは短剣を運動会の万国旗みたく肩からぶら下げてる!!)
なんて、どうでもいい情報を交えながら実況を続けていると、二人の間に砂埃が渦巻き、CMでみた時代劇さながらの決闘シーンの様になった。
先に、動いたのは死体だった。
こういう場合、先に動くのは死亡フラグだぞ!なんて魂の叫びは届かず、二人が交錯する寸前、なんと、二人は………… 寝た。
唖然としていると、足下の木陰から何かが、飛び出した。
それと同時に、僕は、“魔封じ”と書かれた壺に吸い込まれる顔色の悪い宇宙人の様に、死体に吸い込まれた。
(鼻からはやめてー!)
「ママー、やったね!」
男の首を咥えていた、スリーパーワイルドキャットは、我が子への返事のために、首を林に放り投げた。
「ねぇママー、こっちの奴の首もチョンってしちゃおうよ!」
「でも、坊やのことを騙したのは、こっちの男なんでしょ?」
「…うん、だけどコイツ、僕の魔法は「効かない」なんていって生意気だよ!」
「でもね坊や、人間は追い込むと面倒くさい相手よ。敵対もしてないこの国の人間を殺めると大変な騒ぎになるわ」
「でも…」
「坊主、ママのいう通りだぞ!」
僕、あ、俺は、頭の上で交わされる物騒な会話に、たまらず声をかけた。
「ソナタ! 何故、眠っておらぬ? 我の魔法も効かぬのか?」
「ママー!」
子魔獣は、慌てて母魔獣の後ろに隠れた。
「効かないみたいですね。それよりどうして?」
まるでこちらの味方をする様な魔獣の行動に、真意を聞かずにはいられなかった。
「いや、山に帰るつもりだったが、坊やが臭いを察知してな。
ふざけた行為には落とし前が必要だろうと来てみれば林を焼く暴挙まで…
自然を護るものとして当たり前に制裁を科したまでじゃ」
「では?」
「あゝ、先程も言った通り、ソナタと敵対する気はないわ!」
「では、その亡骸は頂いても…」
「…まぁ我の獲物とはいえ喰らうわけでもなし…いいだろう。だが、首はそこらに投げてしまったぞ」
「はい、探しますので… ありがとうございます」
「フン、我らは今度こそ帰るわ。以後、関わりなきを望む!」
母魔獣は、デジャヴの様に子魔獣を咥え、一筋の矢の様に去った。
俺は、連続した死闘、魔獣との対峙、急な長距離移動、初めての臨死体験により、ベリータイヤードだった。
「駄目だ、疲れた。寝よう」
俺は、手頃な木に登り、魔法を掛けて、自分の意思で眠りについた。