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18

 

「はぁ~、面倒臭いですねぇ〜 誰ですか、この男は?」



 浴室のドアが開き、灰色のローブを纏った、痩せこけた男が出てきた。


 ローブの袖から出ている腕は筋張り、目は窪んでいた。



「まぁ、いいですか。浴室での事故死より、痴情の縺れの方が、ワタシも、偽装の手間が省けるというものですね」 



 ローブの男は、どこに仕舞っていたのか、袖口から二本の短剣を取り出した。



「まずは、散々迷惑を掛けられた、小娘からにしましょう」



 そう言うと、短剣を持ってグレイに近づいた。



「背中に刺しては、相対死に、見えませんね」



 そう言うと、グレイの身体を足で蹴り上げ、ひっくり返した。


 グレイの金色の髪が流れ、その横顔に、何に反射したのか、短剣の光が当たったが、それでもグレイが起きる事はなかった。


「なるほど、あの方が、ご執心になるはずですね。だが、ワタシにとっては、ただのガキですね」


 フン!と興味なさげに、鼻を鳴らすと、グレイの胸に突き立てるべく、短剣を振りあげた。




「お前、その短剣をどうするつもりだ?」



 ローブの男の首筋に、いつの間にか、剣があてられていた。



「き、貴様!、何故、目を覚ましている?!」



 ローブの男は、剣が食い込むのも気にもせず、首を回して振り返り、叫んだがために、首に線が浮かび、血が滴った。



「「何故、目を覚ましている?」だって? いや俺からすれば、大分、寝過ぎた気分だが?」



 男の首に、剣をあてたままのリチャードは、不気味な雰囲気を漂わす男に、臆すことなく答えた。


 リチャード自身、何故、林にいたはずの自分が、グレイの部屋にいるのかが、分からなかったが、ローブの男とグレイの尋常じゃない様子に、介入したのだった。



「いえいえ、そう言わずに。もうしばらくお眠りになったら、どうですか?!」



 幾分、冷静さを取り戻した男は、足下で眠るグレイから、距離を取るように、部屋の端にある椅子の側まで、駆け足で行き、座面に置かれた鳥カゴを持ち上げた。



「鳥カゴ?」



 リチャードは、ローブの男の、するがままにさせていた。


 別に隙を見せたわけでは無く、男が、何者だとしても、いきなり首を刎ねる訳にはいかないので、泳がせたのだ。


 男の動きからしても、自分の剣技からは、逃れようが無いのは明白であったし、部屋のドアは、自分の後ろにあるので、逃げられる心配もないと思っていた。


 それは、ひとつの油断だったのかも知れない。




「こいつの為の餌に、魔鳥まで取らされましたからね。さあ存分に、働いてもらいますよ」



 そう言って男は、リチャードに、鳥カゴを掲げて、見せつけた。



「ニャー!」



 男が、掲げた鳥カゴを、大きく揺らすと、突然の揺れに、おどろいた子猫が鳴き声をあげた。



「ネ、ネコ?」



 その鳴き声を聴くと、リチャードは、いきなりその場に膝をついた。



(ま、まさか!あれはスリーパーワイルドキャット、ま、まずい意識が…)



 剣を支えに、男を睨んだが、遅かった。



「ハハハッハ、無駄に時間を掛けて、用意した甲斐があった様ですな」



 男はそう言って、手に持った鳥カゴを、無造作にベッドの端に放った。



「ギャー」



 子猫は、抗議の声をあげたが、男は意に介さず、眠りについたリチャードに迫り寄った。



「フム、待てよ。小娘が寝てから、時間が経ちすぎていますね。やはりここは、小娘から始末するべきですね…」



 男は、背中をベッドに持たれかけさせて、床に座るグレイに近づき、先ほど落とした短剣を拾いあげた。



「フフフフ、相対死なら、やはり胸ですか?」



 男は、そう言って一度、短剣のはらで、グレイの胸を叩く仕草をしてから、再度、振り上げた。



「では、さようなら、お嬢さん」



 そう言って、ローブの男は笑った。



「あぁ、さよならだ、ジジィ」



 声と一緒に、何かが床を転がる音が、部屋中に響いた。


 ローブの男は慌てて振り向いたが、そこに転がっていたのは、氷のなかに閉じ込められた人間の手だった。


 その手は、小娘の胸に、突き立てるはずだった短剣を握った、男、自身の手だった。



 男は、それを成した人物を見て、驚愕した。



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