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第四話 初勝利は代償も大きいようです

 引き金を引いた瞬間。

 一瞬、世界から音が消えた。


 続いて、大地を振るわす衝撃波と轟音が響き渡る。


 もう一度言うが、この魔法の爆発威力は注ぎ込んだ魔力量に比例する。

 ただでさえ魔法の攻撃力は銃などとは比べものにならないが、俺の保有魔力量は常人の十倍。

 ゆえに。


 銃口から放たれた弾丸は、突風と衝撃波を纏い、ゴブリン・キングの胴体をぶち抜いた。

 その威力は凄まじく、ゴブリン・キングの硬い肉体に大穴を開け、瞬時に絶命させた。


 そんな特大威力の攻撃を放って、無事で済むはずもない――主に、俺の腕が。


「いっだぁああああああ!!」


 最大威力の射撃をぶっ放した反動が、全て腕にきたのだ。

 そもそも、爆裂魔法の威力が高すぎて発砲と同時に火打石式拳銃フリントロック・ピストルは粉々に砕け散ってしまった。


 俺の腕が残っているだけでも、儲けものかもしれない。


「折れた! 絶対折れた! 俺のスローライフはハードモード(鬼)からのスタートですお疲れ様でしたぁああああ!!」


 折れたであろう右腕を押さえて、それはもうギャンギャン喚きながらのたうち回る俺。

 

「あ、あの……!」


 そこへ、やんわりとした声が投げかけられた。

 声のした方を見ると、太陽を背にして一人の女の子が俺を覗き込んでいる。


「た、助けてくれて、ありがとう」

「ぶ、無事で何より。怪我はない?」

「おかげで。でも……き、君がそれを言う?」


 少女は、腫れ上がった俺の右腕を見ながら言った。

 男ならもっと華麗に女の子を助けたかったが、仕方ない。

 所詮俺は一般人モブA。

 お互い生きていただけでも奇跡というものだ。


「だ、大丈夫。こんなこともあろうかと、回復薬を作っておいたから」


 もちろん、腕がボッキボキに折れる展開なんて予測してたはずもない。

 たまたま試しに作った回復薬を、たまたま即消費することとなっただけである。


「そうなんだね。よかった」


 ほっとしたように胸をなで下ろす少女を尻目に、俺は回復薬を折れた腕にぶっかけた。

 腕全体が淡い緑色の光を発し、たちまち腫れがひいていく。


「これでよし、と」


 立ち上がり、ズボンについた土をはらう。


「とりあえず、大事に至らなくて安心し――」


 改めて少女の方を見て、俺は言葉を失った。

 ピンチでちゃんと少女の容姿を確認していなかったが、これはとんだ美少女だった。


 年齢は、十五歳くらいだろうか。

 金色の瞳と、尖った犬歯をもつ小柄の少女だ。

 が、それ以上に目を惹くのは小麦色の鮮やかな耳と、ふさふさの尻尾だろう。


 まあいわゆる、獣人というやつだ。

 彼女の見た目から察するに、たぶん狐の獣人だ。


「あ、あんまり見られると……恥ずかしいよ」


 少女は、少し照れくさそうに目を逸らしながら言った。


「ご、ごめん!」

「別にいいけど……獣人って珍しいみたいだし」


 たしかに獣人自体は珍しいけど、そういうことじゃない。

 けど、まさか「見とれていたから」なんて言えるはずもない。


「あ、あの……あなたの名前は? よければ教えて貰っても……」

「え? ああ。俺の名前はカイルだよ。君は?」

「私はスー。見ての通り、狐の獣人だよ。よろしく」

「よろしく」


 微笑みかけてきたスーに、軽くお辞儀をする。


「ところで、こんなところで何してたの?」


 俺は、何気なくその質問をぶつけた。

 悪気があったわけじゃない。ただ、「昨日の晩ご飯何?」と聞くような、何気ない質問。

 ――が。


「……え?」


 スーは、掠れた声を上げる。

 瞬時に顔から血の気が引いていき、ぴんっと立っていた尻尾がだらりと垂れ下がった。


「も、もしもし? どうしたの?」

「……った」

「え?」

「こんなことしてる場合じゃなかった!!」


 スーは、切羽詰まったように叫んだ。

 

「一刻も早く、薬草をたくさん探して村に持ち帰らないと!!」

「薬草? 怪我人でもでたの?」

「うん。このままじゃ……村のみんなが死んじゃう!」

「なっ!?」


 俺は、思わず言葉を失ってしまった。


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