見かけによらなすぎる過去
「考古学者?」
「似合わなっ!!」
「う……うっせーよ」
ラムロンが考古学者。これまでの繋がりからは想像もつかない彼の過去に、イズミは思わず直前までの心持ちを忘れて驚きの声を漏らした。
だが、彼女がラムロンの過去について興味を深掘りする間もなく、ギダムが強引に話を元の軌道に戻す。
「四年前、お前はトムラビ近郊の遺跡を調べるために、あの里に滞在することがあったようだな。その間、お前はトムラビの里長とその周囲に取り入った」
「人聞きが悪いな。あそこはアンタらほど偏った頭してなかったから普通に接してたってだけだ」
「普通に、か。ただ多少の日々を共に過ごしたというだけで、あんなことをするものか」
言葉を切って、ギダムは懐から一枚の紙を取り出す。端々の劣化が数年の経過を感じさせるそれを、彼はラムロンに突きつけた。
「トムラビが滅ぼされる直前、こちらに送られてきた書状だ」
「あん? そんなん知らねえぞ」
「戯言を。中にはトムラビがお前やその他の者達に対して大きな恩を受けたこと、それにより里全体で人間やその他亜人に対して融和的な方針を取っていくという宣言について書かれている。里長トウジとその息子、加えてトムラビに属する武家の当主の連名でだ」
ギダムが差し出す書状の文言、その終わり際には、彼の言うようにトムラビの里で発言力のあったであろう者達の名前が朱印と共に記されている。トウジ、フィー、カルハ。それらの名前を見たラムロンは、目を細めてその内容を精査する。
「……あいつら、こんなもん出してたのか」
「白々しいな。トムラビは我々と志を同じく、他の亜人や人間とは交わらない道を選ぶ里だった。それがこうまで軟弱に、隙を見せるような選択をするなど本来あり得ない。お前が、彼らに取り入ったのだろう」
書状を握る手を震わせ、ギダムは声を張り上げる。
「こんな惰弱に身を落としたがために、トムラビは一夜にして終わったのだ!! 外界への警戒を怠り、協調する姿勢など見せるからこうなる。お前がいなければ、トムラビは終わっていなかったかも知れない」
「……そうかもな」
ラムロンはギダムの言葉を否定せず、受け入れてため息をつく。彼とトムラビとの親交が里を弱体化させ、結果破滅を招いたというその考えはほとんど八つ当たりのようなものだ。ラムランはそれを理解しながら受け流し、後ろの二人を振り返る。
「まあ好きに思ってくれてかまわねえけど、もうイズミ達に関わるのはやめろよ」
「いいだろう、同胞のよしみだ。しかしお前は……」
背を見せたラムロンの後ろで、ギダムがゆっくりと横に一歩動く。すると、彼の背に隠れて見えていなかった背後の畳、そこにあるものが露わになった。
「ちょっ、それどういうつもりですか……?」
「……あん?」
ギダムと正面から向き合ったままだったイズミ達が先にそれに気がつき、立ち上がって後ずさる。二人の異様な反応を目にしたラムロンが眉を寄せて振り返ると、ギダムの手には刀が握られていた。鞘に覆われてこそいるが、ギダムは既に柄に右手を置いている。
「マジか。ここまでするか普通?」
「尋常でないことが起きたのだから、こちらも平生ではいられない。安心しろ、傷つけはしない。不要な心配を少なくするために、この里で大人しくしていてもらうだけだ」
「大人しく、ね。俺がジッと抑えられんのを待ってるような奴に見えんのか?」
「見えないな。が、抵抗は推奨しない」
ギダムは言葉を切ると手に持っていた刀の石突で床を軽く突く。その瞬間、広間の四方に位置する襖が一気に開け放たれた。どの襖の奥にも、刀を腰に佩いたエルフが座っている。一息の間に囲まれたその状況を前に、リンは大きくため息をつく。
「これはまた随分な歓迎ぶりですね、ラムロンさん」
「……ああ。どうにも長くここで暮らすことになるっぽいし、先にエルフの飯でうまいもんがあったら教えてくれねえか?」
「味噌汁と白米が一番です」
「二人ともそんなこと言ってる場合ですかッ!!? なんとかして逃げないと、こんな人達に捕まったらいつ何をされるか分かったもんじゃありませんよ!!」
呑気な会話を交わす男二人にイズミが一喝を飛ばす。刀を持った者達に周囲を囲まれた際の反応としては当然のものだ。しかし、ラムロンは彼女の必死さには合わせず、辺りを見渡して頭を掻く。
「いやだってどう考えても無理だろこれは。暴れたりしてどっか斬られるのは嫌だし、ここは大人しく飯のことでも考えた方がいいってもんよ」
「そんなことで諦めちゃっていいんですか!? なんかほら……またお金ばら撒くとかして逃げましょうよ!」
「いや持ってきてねえし……それにそんなことしたら尚更斬ってきそうじゃん」
「た、確かに……うぅ、一体どうすれば」
自分たちを囲む20人弱のエルフ達を見回しながら、イズミは弱々しい声を上げる。武器を持った相手に囲まれていては、多少の実力では打開できない。自分に端を発するこの現状を前に、流石のラムロンも冷や汗を浮かべている。
しかし、そんな時だ。広間の外から激しい駆け足の音が響いてくる。次いで廊下から顔を出したのは屋敷の従者らしきエルフだった。その顔は蒼白に染まっている。
「里長! 来客です!」
「一体何だというのだ、こんな時に。何者だ?」
「それが、その……」
従者の動揺をよそに、彼の背後から件の来客らしき人影がぬっと姿を現す。三角形に尖った耳、エルフの若い男だ。腰に刀を提げている。彼はゆるりと広間を包囲するエルフ達の間を抜け、注目の中心となっているラムロンとギダムの間に立った。
「トムラビの代表、カルハだ。有事に際し里長及びその血縁が全員亡くなられたため、彼らに代わり、里を守護する武家の当主だった俺がこの席につく」
「……カルハ」
ギダムは来客の名を聞くと、手に持っていた書状に目を落とす。そこには確かに眼前の男の名が記されていた。
一息の間に場の注目を集めた男、カルハ。彼はギダムに対しての形式的な挨拶を済ませると、すぐ後ろに立っていたラムロンの方へ振り返る。
「久しぶりだな、ラム」




