ガチガチ偏見凝り固まり閉鎖村
二時間に渡る車での移動の後、三人はハクシの里があるという森に辿り着いた。太陽が頂点に輝く真昼頃、風に揺られる木の葉や虫の鳴き声が騒がしい森林を行くと、三十分ほどで件の場所が見えてきた。イズミ達の案内の後ろで虫に怯えながら歩いていたラムロンだったが、人気のあるところを見つけると一目散に駆け出し、嫌悪する自然及び虫から逃れようとした。
が、しかし……
※ ※ ※
「……そ、想像以上だな」
「すみません、ラムロンさん。これがエルフなんですよ」
「本当に、いつ見ても排他的が過ぎる種族だな」
ハクシの里に足を踏み入れたラムロン、イズミ、リンの三人を出迎えたのは、日差しを受けて輝く何本もの白刃だった。
「お前達、一体何者だ!」
「異郷の同胞だけならまだしも、人間がここに何をしにきた!」
都会では見ることのない刀という凶器、そして排他的な発言の例として辞書に載りそうな文言。それらを突きつけられたラムロンは、両手を分かりやすく上げて無害をアピールする。
「あー、話通ってねえのかな。俺達は……」
「人間は黙っていろッ!!」
「ひえっ」
(うぉっおっ……やっばぁ、目がマジじゃねえか)
怒声と同時に刃がずいと前へ詰められる。切先が胸に触れんばかりの距離感に、ラムロンは内臓が縮こまる思いで隣のイズミに目配せした。分かりやすいSOSのサインを目にすると、彼女は一歩前へ出て自分達の身分を明らかにする。
「二年前に壊滅したトムラビの里のエルフ、イズミとリンです。それとこの方は、街に流れ着いた私達を助けてくれた人間で、ラムロンさんといいます」
「トムラビ……?」
「今回ここハクシに来たのはそちらに呼び出されてのこと。仰々しく客人扱いしてほしいなどとは申しませんが、刀を向けられるいわれはないでしょう。それとも、これがハクシの礼儀なんですか?」
射殺す、などという大袈裟な応対ではなかったが、イズミはハクシの常識外のやり方にハッキリと抗する。彼女の毅然とした態度におされてか、三人に向けられた刀の穂先が地面に向けられていった。
ひとまず一触即発手前まで状況がマシになると、今度はリンが口を開く。
「僕達に声をかけた方は、自分を里長の使いだと言っていた。聞きたい話があるから里に来い、そういう話だったはず。里長から話を聞いている者はいないのか」
理路整然としたリンの話を聞くと、ハクシのエルフ達は顔を見合わせる。互いの尖った耳に言葉を投げ合うも、心当たりのある者はいないらしい。
だが、そんな膠着の時間はすぐに終わる。
「刀を納めろ」
ハクシのエルフ達の背後から、木の根のような厳格さを持つ声が響いてくる。その声色に覚えがあったのか、ハクシの者達は皆一様に刀を納め、後ろを振り返り、同じ角度で頭を下げた。
「うーわ……軍人かよ」
ラムランがボソッと口走るのをイズミが人差し指を立てて止める。その隣で、リンは一声上げただけで場の荒れた空気を抑えた男を見上げた。
細く、高い男。そのぱっと見の印象を乗り越えて顔を見れば、ある程度の年輪を重ねているらしい深い皺が目につく。だが、体の細さは衰えを感じるほどのそれではなく、背筋の真っ直ぐさもまるで若木のように一本の線が通っているかのようだ。
「里の者が無礼をかけてすまない。私はこのハクシの長、ギダムという」
ギダムは挨拶や謝罪をまとめて一言で済ませると、来訪者の三人を軽く見渡す。そして、彼はそのまま余分な会話を挟むことは一切せず、里の方へと身を翻した。
「聞きたいことがある。屋敷に来たまえ」




