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こちら亜人相談事務所  作者: 井田薫
親孝行は常日頃から
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ガキは親に頼りっきりなもの

「ちょっと!! どうして私にはここの薬売ってくれないのよ」

「だから、僕達の店は亜人には……」


 一人の少女が、往来おうらいの薬局の前で騒いでいた。彼女の手足には爬虫類はちゅうるいのような緑の鱗がびっしりと生えている。胴体や顔は人間のものと変わらない肌色だ。その亜人の少女は陽の光を反射する両手をバタバタと振りながら、薬局の男に抗議こうぎの声をあげている。


「なに? 亜人だから売ってくれないの? そんなのってないんじゃない、ひどいわよッ!!」


 少女の主張はもっともなように思える。彼女の言葉に、薬局の男はどう応じればいいかわからず、あたふたとしていた。


「お嬢ちゃん、無茶言ってやるなよ」


 そんな所に現れたのが、我らが主人公ラムロンである。彼は少女の肩に手を置き、落ち着き払った声でその気勢きせいおさえようとした。


「あん? アンタ誰、どこのどいつよ。つか何様? 口臭い」

「なんっ……言い過ぎだろーよそれは。ったく教育がなってねーなぁ最近のガキは」

「何ですって!?」


 主人公なのに頼りないだらけた外見をしているラムロンは、少女の怒りの声をいなし、薬局の男に顔を向ける。


「そうツンケンすんなよ。おいアンタ、この子は俺が面倒みるから大丈夫だぜ」

「本当ですか」

「おう、任しといてくれ」


 薬局の男にとっては渡りに船だ。彼にとってはラムロンが厄介者を払ってくれる頼りがいのある男に見えただろう。

 しかし、当然亜人の少女の納得は得られていない。


「ちょ、ちょっと。勝手に話を進めないでよ! ちょっと!!」

「あーはいはい。キンキン声でわめくなガキ」

「あ……あぁんッ!!?」


 ラムロンは少女の手を引いて無理矢理薬局から離す。彼女は自分を軽く引っ張るラムロンの腕を振り払うと、彼に歯をいた。


「待ちなさいよ。私は亜人だからって薬を売ってくれないあの人が許せないのッ!!」

「お前世間知らずなんだなぁ」

「な、何が!?」


 怒りをあらわにして声を荒げる少女。しかし、彼女が相対あいたいするラムロンは彼女の調子とはかけ離れた、何とも抜けた表情のままだ。そんな彼の顔を見て、少女の怒りはますますヒートアップする。


「私のどこが世間知らずだってのよ、この唐変木とうへんぼくッ!」

「俺が……? まあ好きに言ってもらって構わねえけどよ。別にあの人は、お前や亜人のことを差別して薬を売らなかったわけじゃない」

「え……それってどういうことよ」


 急に認識の違いを指摘してきされ、少女の熱を持った頭は急激にめていく。そんな彼女を見たラムロンは、ひどいあきれと共にため息をついた。


「本当に何も知らねんだな。人間と亜人が使う薬はちげえ。ほんで、あの店は人間用の店だ」

「なっ……え」

「入口にどでかく書いてあるだろ。必死だったのかは分からねえけどよ」


 ラムロンは先ほどまで目の前に立っていた薬局を振り返り、その看板を示す。そこには薬局の店舗名と、人間専用の文字があった。


「さしずめ、これまではマンマァに買ってもらってたってとこか?」

「あ、あぅ……ぅ、うるさぃ……」


 少女の中にあった激しい怒りが転じて、その全てが羞恥しゅうちに変わる。顔は真っ赤にのぼせ上がり、頭からは湯気が上がっていた。

 そんな彼女をこれ以上いじくることはなく、ラムロンは薬局の男から引き継いだ本題に入った。


「それで? お前は具合悪そうに見えねえし、家族か誰かの薬を買いに来たのか?」

「……そう。お母さんの。お父さんはいなくて、だから」


 恥ずかしさにやられてか、あるいは元から怒りで誤魔化していたのか、少女は弱々しい言葉で返す。親が病に倒れた際の子供の不安はデリケートだ。そのガラス玉のような感情を支えるように、ラムロンは小さく笑って自分の胸をドンと叩く。


「それで、か。だったら、お前は運が良いぜ」

「……え、どういうこと?」

「俺は、亜人相談事務所っつーのをやってるラムロンだ。お前みたいな亜人の迷える子羊を導いてやるのが、俺の役目ってことだ」


 ラムロンは少し憔悴しょうすいしている様子の少女に明るい笑みを向けた。寝癖がボーボーなのに屈託くったくのない笑顔を浮かべたラムロンを見ると、それがおかしかったのか、少女はフッと小さく息を抜いた。


「お前じゃなくて、リザ」

「ん? ああ悪い、よろしくな。リザ」

「それじゃあ、その……よろしく、お願いします」


 ファーストコンタクトこそあまりいいものではなかったが、亜人の少女リザはラムロンを受け入れる。彼女は小さくペコリと頭を下げると、顔を上げ、柔らかい表情をラムロンに向けるのだった。

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