デキ婚の時点で細かいこともクソもねーッ!!
「コンさんがそんなことを? フォクシーが何か言ったのかな……」
「それじゃ、お前は俺がここに来るってことを知らなかったんだな」
「はい。とにかく、また会えて嬉しいですよ。ラムロンさん」
説明を放棄したコンによって門前に取り残されたラムロンとドグは、現状でできる情報交換を行っていた。本来ならば再会までの苦労や幸せを一喜一憂しながら語らう場になるはずだったが、今のちょっとした異常事態によって、二人の間からはその空気感が拭い去られていた。
「それで、ドグの方はあれからどうしてたんだ? こんなとこで座り込んでるなんて、普通じゃねえだろ」
「まあ、色々あって……フォクシーのとこの人に、結婚を反対されてるんすよ」
「その辺は軽くコンから聞いたよ。で、それと座り込みには関係あんのか?」
「はい。報告も兼ねて最初に顔を見せたっきり、今の俺はローロックの家に入れてももらえませんから……。だから、少しでもフォクシーの家族と顔を合わせる機会をつくって、毎日頼み込んでるんです」
ドグの言葉を聞いてラムロンは目を丸くし、携帯の電子時計を覗き込む。無機質なデジタルの文字は6時半ばを示していた。加えて、日付はドグとフォクシーが亜人相談事務所にやってきた日から既に一か月弱ほども経過している。
「こんな時間まで……いつからだ」
「朝八時からっすね」
「それを毎日か、ゴリ押しすぎんだろ」
「はは……まあ俺にはそれくらいしかできませんから。それに、ちょっとずつではありますけど、みんな話してくれるようになってるんすよ。あと一息って感じです」
「ふぅん……頭が固いで有名なあのウォル・ローロックを折るなんて、お前もなかなか根性あるんだな」
自分と別れてからのドグの努力を知り、ラムロンは舌を巻く。本人は訳ないという顔をしているが、他人に突き放され続ける場所に毎日、それも負の感情をため込まずに通えるのは、ドグの性根が真っ直ぐだからこそのものだろう。
しかし、いくら彼が実直な人物であっても、事はうまく進んでいないのが現状だ。ラムロンはパッと見でそれを感じ取り、腕を組んで唸り声を上げる。
「しかし、その座り込みを続けてても、いつ認められるかは相手次第だろ」
「まあそうなりますけど、仕方なくないですか? 失礼をしたのはこっちですから、地道に根気強くいかないと」
「デキ婚しようって奴が常識にこだわってんじゃねえよ」
「えっ、えぇ……そんなに言わなくても」
突然の強い言葉にドグはパチパチと瞬きを繰り返す。動揺を隠せずにいる彼に、ラムロンは自分なりの解決方法を淡々と語る。
「そもそもやることやっちまってる時点で、常識的なとこ見せたってしょうがねえって。それより、門でもなんでもぶち破って無理矢理納得させる方がいい。どうせまともだと思われてねえだろ」
「いや、だから少しでもマシなとこを見せようって話なんですけど……」
ラムロンの強引な提案にドグは眉を寄せる。あまりいい案とは思っていなさそうだ。これまで信頼を地道に築き上げてきた彼からすれば当然の反応だろう。強引な手段は、同時にこれまでの苦労を代価とする。
だが、ラムロンはドグの努力を知っていながら、それでもなお自分の考えを押し通そうとする。
「ドグ、最後にフォクシーと会ったのはいつだ?」
「えっと、さっき言ったタイミングで別れたっキリなんで……二週間と少し前、ですかね」
「なるほどな。それじゃあなおさら、チンタラしてられねえと俺は思うぜ」
「どういう意味っすか?」
不安を煽るような言葉を受け、ドグが拳を握る。自分の恋人の名前が出てすぐに表情が変わるあたり、これまでは自分が耐えることしか考えていなかったのだろう。そんな彼に、ラムロンは自分の考えを説明する。
「もしかしたら、家全体でお前をフォクシーに会わせねえようにしてるのかもしれねえだろ。普通に考えて、二週間以上も外に出ないなんてこと、ありえるか?」
「それは……」
「閉じ込めてるとは言わねえけど、あっちも強硬な態度を取ってるってわけだ。お前がここで座り込んで家の人達と仲良くなっても、肝心のフォクシーに会えないんじゃ意味がない。結婚に関する説得や説明なんて、二人が揃ってやらないと意味ないからな」
「それじゃ、俺は一体どうすれば……」
自分が耐え忍べばいいという単純な状況から一変し、ドグは次の判断に迷う。彼の頭上の耳はその惑いを表すように垂れ下がっていた。そんな弱気なドグの肩を、ラムロンが力強くぶっ叩く。
「んなもん決まってるだろ?」
ラムロンは満面の笑みを浮かべ、ローロック家の高い門を指差すのだった。




