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こちら亜人相談事務所  作者: 井田薫
腹黒ブン屋とトゲトゲキャット〜堅物警察を添えて〜
30/75

腹黒と合理的は混同されがち

「捕まえるったってどうすんだよ。こいつから聞き出すのか?」

「無理だ。今まで取り調べした連中は指示役の居所を知らなかったぞ。恐らくこいつも同じだ」


 リコの提案に乗り気ではあるものの、ラムロンとグレイはその困難さについて議論する。だが、リコは二人の言葉を受けてもなお、その自信を崩すことはなかった。


「さっき、私言いましたよね。こいつらのとこに潜入してるって」

「ん……ああ、言ってたな」

「それがどうした?」

「盗みを指示される実行犯は首謀者の位置を知らない。それもそのはず、首謀者は実行犯の成功を確認してから現金を受け渡す位置を決めているんです」


 リコは二人の後ろでうずくまる強盗達を見やりながら説明を続ける。


「現金を詰めたバッグの写真と、電話での肉声の確認。そんなこんなをて、ようやく位置を知らされるようなんです」

「なるほど。だから取調べした連中は指示役の位置を知らなかったのか」


 リコはグレイの言葉にうなずき、これからの計画について語る。


「要するに、その辺りなんとかできれば私達も指示役の奴に会えるってわけです。お金たくさん持ってるラムロンさんがいれば、なんとかなりますよね」

「え、ああまあ……ていうかよ」


 金のチェックがうまくいく、というのは間違いないだろう。しかし、ラムロンはそれ以前にリコの話に引っかかりを感じていた。彼はそれを隠すことなく、素直に正面から問う。


「お前、そんなことまで知ってるって、連中の中でもまあまあの立場になってたりすんのか?」

「え、やだなぁ違いますよ! 犯行の仕方を知っているのは首謀者の指示役ただ一人と、一週間以内に強盗の指示が来てる人だけです」

「ああそう。ならよかっ……は?」


 流そうとしたが流しきれない違和感を耳にし、ラムロンは眉を寄せる。はたから聞いていたグレイも彼女の話のおかしい部分に気づいたようだ。


「お前、まさか」

「ああ。明後日、別の銀行を強盗することになってますね」


 あまりにも唐突なカミングアウトに、ラムロンとグレイは揃って鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな表情をさらす。そんな二人のアホヅラを目の当たりにしたリコは、半笑いで冗談めかし、自分の意図を語る。


「まっ、期日になってもバックレればいいんですから問題ありませんよ。相手は悪人なんですし何したってヘーキヘーキ。ここまでしたおかげで、いろんなことを知れたんですしね」

「お前……とんでもない女だな」

「警察として俺はこいつを捕えるべきか……?」

「冗談やめてくださいよ~、あはは!」


 倫理観が欠如けつじょしているのだか、あるいは最低ラインを超えない意識が高いのか、どちらにしてもあまりまともな人間、亜人ではなさそうだ。


「と、いうことなんですが……」


 話を一通り終えたリコは、いまだうずくまっている強盗達、その中でも意識を残している一人の男に目を向ける。彼女はその男の近くに歩み寄ると、腰を下ろして笑顔で話しかける。


「協力、してくれますか?」

「だ、誰が……」

「えぇ! もしかして仲間意識とかあるんですか? 私が潜入した感じ、指示役の顔を見る機会もありませんでしたし、今日集まった方達とも初対面ですよね」


 潜入していたからこその揺さぶりは、明らかに男の意思をブレさせていた。リコは更に追い打ちをかけるように、男の顔を覗き込みながら言葉を続ける。


「私は記者ですから、こういうケースの犯罪はよく知ってます。大方、あなた方は大したリスクもなくお金を手に入れられると思ってここまで来たんでしょうが、全く違いますよ」

「それは、どういう……」

「亜人に脅されたと言えば罪が軽くなると言われましたよね。それは嘘です」

「なっ……!」

「首謀者が亜人だと確認され、その上更にあなた達が脅されていたという証拠がしっかりあれば別ですがね。逆に首謀者が捕まって、そいつが亜人じゃなかったら大変ですよ」

「でも、あいつは自分を亜人だって……」

「顔を確認したんですか? したとして、加工じゃないという証拠まで確かめましたか?」

「…………」

「首謀者があなた達を口車に乗せるためについた嘘、という可能性は非常に高いでしょう。自分の代わりに動いてくれる捨て駒に嘘をついたところでノーリスクですからね」


 強盗の男の顔がどんどんと俯いていく。床の上で固められた拳には、骨がハッキリ視認できるほどの力が込められていた。怒りをたくわえている彼のその表情を見たリコは、最後のひと押しという風に小さくささやく。


「あなたから捨ててやればいいんです」

「え?」

「ムカつきませんか? 首謀者はあなたのことを、嘘をついても構わない捨て駒だと思ってるんですよ? 実際捕まるのはあなた達で、そいつはリスクを負っていないのに。仕返し、したくありませんか?」

「し、したところで何も……」

「グレイさん。この人が協力してくれるそうですよ。多少の減刑をはかることはできますか」


 リコの考えを察したグレイは、ため息混じりに頷いた。


融通ゆうづうをきかせることはできるだろう」

「だ、そうですよ」

「…………」

「首謀者の方と同じことをすればいいんです。自分の利益のために他人を利用する。相手は自分を踏みにじったヤツですよ? 気にむ必要なんて微塵みじんもありません。ですから……ね?」


 リコは男の懐を探り、彼の持っていた携帯を取り出す。そして、それを彼の前に差し出した。身内からの電話でなければ怪しまれるという考えのもとだろう。男は少しの間自分の中で逡巡しゅんじゅんの時間を取る、


「…………分かった」


 男はリコが差し出してくる携帯を手に取るのだった。


「ご協力、ありがとうございます」


 リコは満面の笑みで男に頭を下げると、一仕事終えた後かのように息をつく。そして、達成感と共に後ろのラムロン達へ振り返った。


「お手柄でしょう? これで指示役も捕えられて……あれ?」


 結果を出して褒められるかと思っていた彼女に注がれる二人の視線は、ドン引きそのものだった。ラムロンとグレイは歩み寄ってくるリコに対し、一歩下がって距離を取る。


「わりぃ、ちょっと怖いから近付かないでくれ」

「えっ……まっ、なんでですか!?」

「お前がそこまでの外道だったとは、この件が終わったら逮捕も視野に……」

「もっとなんで!? 私犯罪なんてしてないんですけどぉ!?」


 犯罪者相手とはいえ恐ろしい一面を見せたリコが引かれるのは自明じめいのことであった。

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