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こちら亜人相談事務所  作者: 井田薫
子作りテンヤワンヤパニック
3/86

でっかいでっかい山を当てちまったのさ

 ラムロン、ドグ、フォクシーの三人は運び屋の指示のもと、彼が運転するトラックの荷台に乗り込むこととなった。二人の亜人を隠すためか、荷台には多くの物資が積まれており、三人は丁度いい座り場を探すのに苦心くしんしていた。腰から尻尾をぶら下げている二人は特に難儀なんぎしている。


「うっ、狭いっすね」

「なんだか落ち着きません……」


 街を隠れて脱出するという目的もあって、二人は落ち着かない様子だ。互いに目を見合わせては、小さくうなり声を上げている。ラムロンはそんな二人を安心させるよう、大きく構えて見せた。


「なに、そんな心配することはねえよ。ここの運び屋はこういう仕事に慣れっこだからな」

「慣れっこって……俺達、犯罪者に守られてるってことすか?」

「別に誰に迷惑かけてるわけでもねえし、いいだろ? それに、お前らだって一応は犯罪者なんだぜ?」

「そりゃ、まあ……」

「誰だって小せぇ犯罪の一つや二つやってるもんさ。大事なのは、他人様(ひとさま)に迷惑かけてるかどうかだ。お前らは、そういう意味じゃ何も悪いことしてねーよ。つか、そんなんだったら俺は仕事受けてねえしな」


 ラムロンの言葉を受けると、ドグのけわしい表情が少しだけ柔らかくなる。周囲に頼れる相手のいない状況だった彼にとって、亜人相談事務所、そしてラムロンの存在は大きかったのだろう。

 ただ、そんな彼の隣ではまだフォクシーが不安そうに指を合わせていた。


「でも、ラムロンさん。よく私達を隠したまま外に連れ出すって仕事、あの人に受けてもらえましたね」

「ん、まあな」


 フォクシーの探るような言葉に、ラムロンは目線を落とした。そんな彼の表情を見て取ったフォクシーは、疑いというより、引け目の感情で問いを口にする。


「もしかして、お金……とか、使いましたか? それも結構な量」

「そりゃ、まあな。あっちも相応そうおうのリスクを負うわけだから、その分を多少」


 違法な行為を他人に依頼する代償だいしょうとして支払う必要のある金は、多少という言葉では(まかな)いきれないものだろう。ラムロンの言葉を耳にしたドグとフォクシーは顔を見合わせ、すぐにそろってラムロンへ頭を下げた。


「そ、その……すみません。俺達、何から何まで……」

「手段の用意から、お金まで払っていただくなんて……。な、何か私達にできることがあれば、何でもおっしゃってください!」

「別にいいっての。俺にとっちゃ、金はいくらでも出せるもんだ。それに、亜人相談事務所のキャッチフレーズは、金が解決することはなんでもござれ、だからな」


 自分達が至れり尽くせりな状態であることに引け目を感じているらしいドグとフォクシーに、何でもないとラムロンは伝える。彼はそのまま、話をらすように現状へと目を向けた。


「何より、重要なのはこっからだ。検問を抜けなきゃ話にならない。運び屋はこういう仕事に慣れてるとは言っても、基本的にはお前らみたいな亜人じゃなく、物品の密輸だ。お前らをタイヤの中とか座席シートの中にぶち込むわけにはいかねえ。こっちで策を考える必要がある」


 ラムロンはそこで、だが、と言葉を区切って人差し指を立てる。


「策はすでにある。俺が外に出て検問の連中の気を引くから、トラックはそのまま外に逃げる。お前らは、こん中で隠れてりゃあいい。もう運び屋のオッサンには伝えてあるから、あとは検問前まで待つだけだな」


 ラムロンは淡々と自分が考えた計画について語る。それに、二人が口を挟むような隙はなかった。


「その、ラムロンさん」

「どうした?」


 ちょっとした沈黙の中で、ドグが口を開く。ラムロンが顔をあげて彼の表情をうかがってみれば、そこにあったのは頼りがいのある大人への感謝ではなかった。虚無感、やりきれなさ。そういう不純物ふじゅんぶつに満ちた表情。ドグだけではなく、フォクシーも似たようなものを抱えていた。


「何から何までやってもらっておいて、本当にアレなんですけど……何か、俺達から返せるものはないんですか? 金は……正直、難しいっちゃ難しいんですけど、それ以外で、何か。このままじゃ、その……申し訳が立たないっつーか」

「私も、ドグと同じ気持ちです。もちろん、助けてもらおうと亜人相談事務所に来ましたが……ここまでおんぶにだっこなのは、流石に」


 自立心と感謝の摩擦まさつが、二人の中のモヤモヤとした感情の正体だろう。

 ラムロンは二人の思いを聞き届ける。だが、彼の次の行動と発言は、それにおうじたものではなかった。


「あっそうだ~。お前らに渡さなくちゃいけないものがあったんだ」


 思い出したように手を叩くと、彼はふところから厚みのある封筒ふうとうを取り出してドグに投げ渡した。


「ザッと100(まん)(へい)だ」

「「ひゃ、100万ッ!!!??」」


 100万幣。一般的な人間の労働者が数か月に渡って仕事した分の給料と同程度の金額だ。封筒をキャッチしたドグは、ラムロンの言葉を受けて半信半疑な様子でその中身を確認する。フォクシーも、首を伸ばしてその中身に目を滑り込ませた。

 そこには、確かにラムロンが口にしただけの大金があった。


「こんな大金受け取れませんよ! お、俺達はアンタに何もしてやれてないじゃないですかッ!」

「そ、そうですよ。こんな……どうしてここまでしてくれるんですか? とにかく、これはお返しします」


 大金は受け取れない、二人の考えはそこにまとまった。だが、ラムロンは首を横に振り、二人が差し出す封筒を押し返す。


「言っただろ。金には困ってない。昔、でっかいでっかい山を当てちまったからな」

「そっ、そういう問題じゃあ……」

「お金に困ってる困ってないは重要じゃありません。ただこのままじゃお礼が……依頼なんですから、こっちが払うはずなのに」


 何としてでも大金を受け取りたくないと二人は言う。もともとはここまで世話になるつもりはなかったのだろう。当初の予定を大きく逸脱いつだつしたほどこしに、二人は激しく動揺していた。

 だが、やはりラムロンが二人の言葉に応じることはなかった。


「いいや、受け取ってもらうぞ」


 ラムロンは自分の方へと差し出される封筒を、ドグの胸に強く押し付けた。


「お前達と、腹の中のガキにはどうしたって必要だからな」

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