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こちら亜人相談事務所  作者: 井田薫
不揃いトライアングルの不仲事情
19/86

手紙の書き方には人の色が出る

 ほがらかな風が吹き抜ける公園。ラムロンはこの日、依頼以外では珍しい外出先にその場所を選んでいた。彼は公園の端の方にある木のベンチに座り、ポケットに手を突っ込む。


「さて、あいつらはうまくやれてんのかねぇ?」


 取り出したのは二通の封筒だ。手紙らしい。ラムロンはそれを優しく傷つけないように開封する。


「どれどれ~?」


 一通目の封筒には紙が複数枚入っており、そのそれぞれが丁寧に折りたたまれていた。




 ラムロンさんへ


 ご無沙汰…ではないですけど、お元気ですか。フォクシーです。私とドグはラムロンさんの手配してくれた運び屋さんのおかげで、順調に故郷へ迎えています。遠い場所ですけど、もう半分は越しました。この手紙が届いている頃には恐らく故郷は目前でしょう。

 ここまでうまくいったのも、ラムロンさんのおかげです。ラムロンさんがいなかったらきっと、私達は街で無理矢理隠れて子供を産もうとしていたと思います。最悪な事態になっていた可能性も、少し考えることがあります。あそこで動く決断ができたのは、お金のことならなんでも解決する、っていう頼りがいがあるのかないのか分からない触れ込みと、すぐに行動しようと言ってくれたラムロンさんのおかげです。

 もしよろしければ、お時間がある時でもいいので私達の故郷に来てみてください。美味しい料理がありますよ。きっとラムロンさんも気に入ります。


                 フォクシーより



                        ”


 ついこの間に依頼を受けたフォクシーからの手紙を読み終えると、ラムロンは開封前と同じように封筒にしまう。


「ん~、なんだか自分がすごいことをしたような気にさせてくれる文章だなぁ。俺ぁ金持ってただけなのによ。んへぇ~照れるねぇ」


 優越ゆうえつ感に浸りながら溶けるような声で独り言を呟くと、ラムロンはフォクシーの手紙を懐に収める。そして、もう一通の方に改めて目を向けた。


「さて、次はドグか」


 フォクシーの手紙の内容がよかっただけに、ラムロンは期待のこもった手つきで二通目の手紙を開く。

 だが、そこには彼が予想していたようなものはなかった。あったのは、罫線けいせんをガン無視してデカデカと書きたいことだけ書き殴ったかのような雑な手紙だ。





     マジありがとうございます!!

     結婚式と子供が生まれた時には

     呼びますんで来てくださいッ!!



                        ”



「…………」


 ビックリマークをすごい勢いで書いたことがうかがえる力のこもった筆跡ひっせき。二言にギューギュー詰めにされた感謝。それらを目にしたラムロンは、怒りを通り越して呆れのため息をつく。


(……マジであいつって感じの手紙だな)


 ラムロンの表情には不快感はなく、小さな笑みがある。ドグの手紙はアレではあったが、言いたいことは全部伝わってくる内容だった。

 二人からの手紙を読み終えたラムロンは、充実感に酔いながら手紙を懐にしまう。そうして、彼が公園のベンチから立ちあがろうとしたその時だ。公園内の、少し離れたところから子供の叫び声が聞こえてくる。


「ハルもリザも嫌いだッ! もういい!!」

「勝手にしろよ! お前なんか一人でいるのがお似合いだ!!」


 未成熟の男の子が怒鳴どなった時特有の高い声が二つ。それを耳にして顔を上げてみれば、ちょうどラムロンの視界に二人の子供が映る。彼らは互いに背を向け、真反対に走り去っていった。ほとんど流し見程度だったが、言い争っていた二人が人間と亜人だということにラムロンは気付く。


(ん、リザ……?)


 よくある子供の喧嘩だと捨ておこうとしたラムロンだったが、ふと、子供の言葉に含まれていた名前を思い返す。興味のままに公園を見渡すと、すぐにそれは見つかった。


「ああもう……あいつら本当ガキなんだけど」


 そこには、手足が鱗に覆われた赤髪の亜人の少女、リザが悪態あくたいをついているのがあった。彼女のことを目にすると、ラムロンはやれやれとため息をつき、重い腰をベンチから離した。


「よっ、この間ぶりだな」

「え……ああ! ラムロンさん!」

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