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こちら亜人相談事務所  作者: 井田薫
子作りテンヤワンヤパニック
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デキちゃったで片付く話じゃねえ

「デキちゃった……じゃねえよッ!!!」


 亜人相談事務所のあるじにして寝癖ボーボーの男、ラムロンが勢いよく机をぶっ叩く。彼の向かいに並んで座っていた来客の二人組は、耳が痛くなるような嫌な音と怒声どせいを聞くと身をすくめる。


勘弁かんべんしてくれよまったく。ドグ……だったな。どうしてこんなことになっちまったんだ?」

「その、そういう雰囲気ふんいきで」

「雰囲気で、じゃねえッ! はぁ……若い頃の発情期ってのも大変だな」


 来客の一人、ドグ。犬のような茶色のたれ耳を頭に持ったその亜人の青年は、ラムロンのセクハラまがいの言葉を耳にすると、顔を真っ赤にして抗議こうぎの声を上げる。


「ちょっ……それとこれとは別じゃないっすか!?」

「別じゃねーだろ。それともお前はシラフで理性が飛んでるのか、あん?」

「そ、そりゃ……違いますけど」

「こういうのは男がちゃんとやってやんなきゃダメだろーがよぉ」

「……すぃやせん」


 返す言葉もございません、ドグはそう体で言っているかのように身をちぢめる。


 説明しよう。今まさに、若気わかげいたりをやらかしちゃっただけの青年に対し、これ見よがしな説教を垂れている偉そうな男こそがこの物語の主人公、ラムロンである。昼を過ぎたくらいの時間に浮浪者ふろうしゃのような荒れた髪と寝間着ねまき姿をそのままにしているこの男に、若者のあやまちに文句をつける権利があるのかどうかは定かではない。


「す、すみませんごめんなさい!! わっ、私達みたいな種族の違う亜人同士が子作りするのはいけないことなのに……」

「フォクシー、いやそんなことは……」


 来客そのニ、狐のようなとがった耳を持つ少女、フォクシー。彼女はドグの隣で自分を責め立てる言葉を並べて頭を抱えていた。そんな様子が見ていられなくなったのか、ラムロンはドグに向けたものとは違う柔らかい言葉を彼女に投げかける。


「誰にだって間違いを犯しちまうことはあるさ。大事なのは、犯したことにどう向き合うのかで……」

「やっ、やっぱりまずかったですよね!? 発情期だからって犯しちゃうのは……!」

「えっ……ドグじゃなくてお前主導かよ」

「ごめんなさいごめんなさいッ!! お邪魔してすみませんでした、じゃあおろしてくるので!!」

「ちょぉっちょっと待てッ!!! そこまでは言ってないだろうがッ!!!」


 ラムロンの制止せいしが耳に入らないのか、フォクシーは泣き叫んで椅子から立ち上がった。その隣に座っていたドグは、震える彼女の両肩を抱きよせながら、鋭い目でラムロンをにらむ。


「……おろせだなんて、最低だよアンタ」

「いや俺は何も言ってねえんだよッ!! つかお前が気を付けりゃ済む話だっただろーがッ!!」


 いわれのない敵意を向けられたラムロンは罪の意識を通り越して苛立いらだちを覚え、二人に怒鳴どなり声を上げる。が、こんなことをしていても話は進まない。それを思い出したラムロンは、立ち上がった拍子ひょうしに後ろに弾き飛ばしてしまった椅子を元の位置に戻して腰を落ち着ける。


「子供を守りながら安全に過ごせる手段を見つける、ね。まあなんとか手を打ってやるよ。俺も、何もできないのに亜人相談事務所の看板、しょってるわけじゃないからな」


 若者二人が犯した過ちへの追及をやめたラムロンの周囲には、いつの間にか頼れる大人オーラがただよっていた。彼の言葉を耳にしたドグとフォクシーは目を輝かせて椅子に戻る。


流石(さっすが)、亜人相談事務所をやられてるお方だッ!」

「あ、ありがとうございます……!」


 対応すると口にした瞬間に手のひらを返した二人、ラムロンはそんな彼らに不安を感じながらも仕事の話をする。


「まず聞きたいんだが、お前ら家族は? ウチみたいなとこに来るってことは……」

「この街から離れた故郷っす。ここには一人もいません」

「私も……ただ、私達元いたところが近所でして……それもあって仲良くなったんですけど」

「なるほどね~。お前らの故郷が別々の地域じゃないってのはありがてえな」


 ドグとフォクシーの二人共、近辺きんぺんに頼れる者はいないようだ。ラムロンは寝癖を手櫛(てぐし)で荒っぽく整えつつ、これから二人のためにするべきことをまとめる。


「この街は亜人に対する差別が軽い方じゃああるが、無いわけじゃない。それに、フォクシーが言ってた通りお前らのそれは違法だ。何から何まで隠し通してこの街で暮らし続けるってことは無理だろうし……外、故郷に帰る手段を探すのが現実的だな」


 言いながら、ラムロンはフォクシーが両手で抱えているお腹を目に映す。違法であろうが何だろうが、そこには確かに命がある。まだその膨らみは小さいが、それを抱えるフォクシーの両手にはとうといものの存在を確かに感じさせる優しさがあった。


「んじゃ、目標はこの街から出る()つ、お前らが故郷に帰れるだけの足の工面(くめん)だな」


 ドグとフォクシーの依頼をやり遂げることは、それすなわち二人の生活だけでなく、小さい命をも守ること。その意識を改めて持ったラムロンは、バチッと自分の両頬を叩き、立ち上がる。


「善は急げだ。行くぞ」

「「え……今からッ!?」」

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