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反省会~1章~

 

 座布団の上に正座をして向かい合う俺と女神様。


「魔王倒してあそこで終わればさ、いい塩梅だったんだよ」


「うむ。妾もそう思います」


「でも実際さ。あれ……魔王じゃなかったじゃん。いや、肩書的には魔王みたいだけどさ。どちらかと言えば……世界守ってたじゃん」


「一昔前のRPGでありがちなやつー」


 仲間たちと力を合わせて魔王(仮)を倒した俺たち。

 てっきり『第二第三の魔王が貴様らの前に……』とか言うと思ってたけど魔王が残したのは『……ふっ、あとは頼んだ新しい希望よ』とか言い出した時点で俺はなんかヤバイと思った。既視感バリバリだった。辛うじて趣味ともいえるゲームでよく見た展開だ。


「で、魔王の玉座が砕けたと思ったらゲート的なやつ出たじゃん」


「妾めっちゃびっくりした。お茶こぼした」


 よく念話的なやつで俺の脳内に話しかけてきた女神さまだけど、多分この空間の隅のほうに見えるくつろぎスペース(畳+ちゃぶ台+テレビ)で観戦していたと思われる。


「で、帰り支度しようとしてた魔王問い詰めたら、別世界とのゲート、と。」


「めっちゃ知らんかった。衝撃の真実ゥ☆」


「別世界からの侵略を魔王(仮)が魔力で封印してた、と。俺たちにボコられたせいで魔力が漏れて封印が緩んでしまった、と」


「尿漏れかな?」


 曰く、1度開いてしまったゲートは魔王の手を離れてしまう。今でこそ人1人が通れる大きさだが、徐々に広くなっていく、と。そうなれば向こうのツヨツヨな魔物たちがこちらに押し寄せる、と。……幽遊〇書かな?


「まあ、そんなこと言われて『じゃあ帰りますねー』とは言えないじゃん流石に。なんやかんやで愛着できちゃったし、この世界。俺にやさしくしてくれたみんなが生きる世界だし」


「うぅ……昔は『基本人はゴミカス』とか言ってたお主がのぅ……立派になって」


「俺そんなに酷かったっけ」


 もう10年前の自分とか覚えてない。

 そりゃそんなことばっか言ってたら友達もできんわ。


「で、準備そこそこにあっちの世界のあっちの世界に突入した」


「あちあちの世界?」


「いや、まあ……実際、めっちゃ暑かった。つーか熱かった」


 そこら中から炎噴き出てたし。


 あっちのあっちの世界……ややこしいな。裏あっちの世界でいいか。裏あっちの世界はとにかく過酷だった。

 あっちの世界はかなり温くて、なんというか『ふぁんたじー☆』みたいな感じだったけど、裏の方は『血塗曼荼羅地獄界~阿鼻叫喚編~』みたいな?

 正直かなりドン引きした。行って1分で帰りたくなった、あの温い世界に。一瞬でゲート閉じたから帰れなくなったけど。


「あと怖かった。モンスターがグロいし、めっちゃ強いし、でキショイ」


「妾もびっくりした。ド〇クエの世界からシャドウ〇ーツの世界に、みたいじゃったのぅ」


 ついでに裏の方には女神様の加護が届かないから俺のスペックがたがたに落ちるし、フィルターも切れちゃって魔物殺す感触キツいし、吐くし、初めて生物殺した感でボロボロ泣くし……フィルターっていうか情緒封印されてた説あるな。

 あとついでに言っちゃうと仲間も臭かった。いやそりゃそうなんだけど。旅してんだから。水浴びくらいしかできないし。フィルターのお陰だったんだよな。でもなぁフィルター切れて……めっちゃいい匂いしてた姫様も無茶苦茶臭いことが分かってしまって……


「高貴な姫様が臭いというギャップに目覚めちゃったんじゃなぁ」


「いや、目覚めてないし。普通にイヤだったし」


 『ど、どうしてもっと近くで眠ってくれないんですか』って涙目で言われたけどオメーがくせーからだよなんて、とても言えなかった。つーかまあ、そのうち慣れた。


「今までの旅は温かった。でも、それでも俺は成長したし、なんとか頑張ろうって思った。この世界も救ってやろうって」


「およよ……あんな腐った(略)」


「で、旅だったわけだけど……世界広すぎ! あっちの世界の10倍くらいあったんだけど」


「妾もびっくりした。え、妾の世界、狭すぎ……って思った」


「めっちゃ大陸あるしさ、移動に船やら飛行船やら使わないとだめだったしさ」


「妾の世界、大砲で移動するだけでよかったしの」


「あれはあれで狂ってるよ」


 そんなわけで個人て作ったインディーズゲームくらいの規模だった世界が、大作ファンタジー世界になったわけだ.

 しかも難易度爆上がり。敵は強いし、マップ構成もいやらしいし、向こうの住人排他的だし、物価が高い、あと全体的に臭い。


「東京の話?」


「やめろ!」


 これでも東京に憧れあるんだから。


「何とか村人に信頼してもらって、金稼ぎのクエスト受けるじゃん。……基本的に後味悪いんだよ」

 

「あれびっくりした。洞穴に住む魔物を駆除しろってヤツ。魔物倒したら洞窟の中に依頼主の写真と指輪が……」


「依頼主が『恋人が魔物に連れ去られて……』みたいな話してたから、間に合わなくてごめんなさいって指輪渡したじゃん」


「これ高かったんですよーって即指輪売りに行ったときは笑ったの」


「現場にいた俺らはひえっひえだったけどな」


 あっちの世界では『畑が魔物にあらされてー』とか『幼馴染が引っ越すから、思い出の花をプレゼントしたい』みたいなほんわかクエストばっかりだっただけに、裏の方はもうね……心が死んでいくのを感じたわ。クエスト受けるときはみんなもう目が死んでたし。


「そんな世界を東西南北あっちこっちだろ? あのギミック糞だわ。中心大陸にある魔王城に入るために、世界中に散らばったオーブ集めるやつ」


「妾もびっくりした。偽物のオーブもあったから余計に……」


 今更だけどこの子、ずっとびっくりしてんだよな。

 加護もないし、違う世界だからアドバイスとかも期待できないし、何かしら起こった時に俺の脳内でびっくりするだけのbotと化してた。

 まあ、殺伐とした世界だったから、ノリが前の世界の実況にはちょっとたすかったけど。


「オーブ守る幹部倒したり、たまに幹部が仲間になったり、と思ってたら裏切られたり、実は裏切ったと思ったら敵をだますのは味方理論で裏切ってなかったり……でも本当はそれら込みで最初から裏切ってたあいつマジで糞」


「うむ、悪い意味で期待を裏切ったな」


 あれで初めて人型の生物殺したんだよなぁ……。


「シン・魔王の正体にも驚いたの!」


「驚ろいたっつーか……結構ベタだったけど」


「びっくりしすぎてびっくりした!」


 オーブを集めて魔王城のバリアを突破した俺たちを待ち受けていたのは――女神様だった。黒いやつ。ありがち。


「うむむ……まさかはるか昔に切り離した妾の欠片、悪を司る部位が妾の世界の中で新たに世界を作り上げていたとはのぅ……女神たる妾は清廉かつ公平な身でなくてはならない、そのために切り離したのじゃが……」


 その言い方だとこの人、悪の心がない聖人みたいだけど、聖人は『あの裏切り物を八つ裂きにするのじゃぁ!』とか言わない。


「そして最後の戦い――うーん、思い出すだけでびっくりする」


「びっくりbotか?」


 やばい世界を作った魔王(女神)だけに恐ろしく強かった。負け確定のイベント戦闘かと思った。

 あっちの世界の魔王が持たせてくれた特攻武器がなかったら普通に全滅してた。ちなみにあっちの世界だと全滅してもセーブポイント(女神の像)から再開だったけど、裏の方では……恐ろしくて必死で全滅を避けた。復活なしは当然だろうけど、死んだあとに魂を捕らわれて永遠の責苦を味わう…みたいな可能性もあったからな。あの世界を作った裏女神がかなり糞だったので、ありえる。


「しかし、倒した悪女神を殺さなかったのにはびっくりしたのぅ」


「いや、だってさ。あの世界、あいつが死ぬと消滅するらしいじゃん。住人は糞寄りのヤツばっかりだったけど、辛うじて糞じゃない人たちもいたし。……糞女神もこっちから手を出さなければ多分、あっちの世界には手を出さないって言ってたし……」


「うーん立派立派。まあ、その気になるまで悪女神を殺し続けたのはちょっとかわいそうじゃったの」


 いくら殺そうと次の日になったらリスポーンする糞仕様のせいで、毎日通っては殺すルーティーンが3か月ほど続いた。

 殺すより痛みを与える側にシフトしてから暫くして向こうの心が折れたので俺たちの勝利だった。勝利以外のなにものでもない。

 それから元の世界に戻って、いろいろ後処理をして、仲間たちとお別れをして――これで10年。


「オッサンになっちゃたーよ」


「なっちゃったーのぅ」


 自分の体を見下ろす。

 夏休みが終わるころには細マッチョだった体は、筋骨隆々の筋肉お化けになっていた。ド〇コンころしとか振るえそうな肉体だ。ちょうど片手ないしね。

 傷跡も数えきれないくらいある。体だけでなく心にも。


 それでも――生きてここにいる。

 それだけで十分かもしれない。


「うふふ……よいマッチョよいマッチョ……傷マッチョうふふ……」


 女神様がくふくふ言いながら俺の体に頬刷りをしていた。美少女で相殺できないレベルのキモさだ。


「はぁぁぁぁ……10年かぁ……」


 膝を着く。

 俺の青春は終わってしまった。軽めの冒険を経て新しい現実をポジティブに生きるはずだったのに……どうしてこうなった。

 戻っても俺の居場所はない。なにせ無職27歳隻腕ムキムキおじさんだ。


「むっ、27歳はおじさんじゃないぞ。いい感じじゃ。それにムキムキじゃし、傷も多い――20ポイント!」


「そのポイント、ダ〇エーで使える?」


 まあ……しょうがない。生き残った以上、生きていくしかないのだ。

 そういうシビアな考え方もあの世界で出来るようになった。

 家族からは受けいれられないだろうが、日本は生活しやすい。その日暮らしでもなんとかなるだろう。マッチョだし。筋肉さえあればある程度なんとかなる、そいういった考えもあの世界から教えてもらった。


「むぅ、名残り惜しいが……そろそろお別れじゃな。ここは生身の肉体では長居出来ん」


「そっか」


 足元を見ると足先から光になっていた。これ、顔が消える直前に笑顔を浮かべたら泣けるやつだ。やろう。


「うむむ、名残り惜しいのぅ…マッチョ、マッチョォ……」


「新種の鳴き声かな?」


「では時間を戻してお主をもとの世界に戻す」


「……え? 戻れるの?」


「そりゃそうじゃろ。若者の10年奪っといてハイさよならは妾悪魔じゃろ」


 よ、よかったぁ……。帰ってすぐ近所のハロワークに行くスケジュール組んでたわ。


「しかし、このまま褒美もなしに元の世界に戻すのはなぁ……うむ! ではこの鍛え抜かれた肉体、そのままに戻ると良い!」


「狂ってんのか?」


「え?」


「マジで言ってる? この体で10年前に戻ったらどうなるよ?」


「まぁ、あれじゃな。その体、そして様々な経験を経た大人の風格にクラスメイトはメロメロじゃろうな! うーん、妾もお主と同じ青春を過ごしたいのう!」


「まず何らかの理由で投獄されるわ」


 片手のないオッサンがいきなり自分は息子ですつったら、ふつうは通報する。なんだったら過剰に正当防衛してもいいレベルだ。


「戻せ」


「えぇ……? で、でもぉ……マッチョじゃよ?」


「戻せって」


「マッチョなのにぃ……それに隻腕ってカッコイイのにぃ……」


「それに関しては同意するけど。ハンバーガーとか食べにくいし」


「あぁ……確かにリコーダーも吹けんしなぁ」


 いや、もう俺の人生でリコーダー吹く機会とかないと思うけど。


「むむぅ……ならばしょうがあるまい。それをすてるなんてとんでもないのじゃがぁ……まあ、仕方があるまい。一度マッチョになった者はマッチョから逃れられぬ定めじゃからな、いずれは……ふふふ」


 袖に口元を隠しながら笑う女神様。めっちゃ聞こえてる。

 さて。


「じゃあ、そろそろ行くよ」


「うむ。今度念話するね」


「電話みたいに言うなよ。じゃぁ」


 俺は笑った。心の底から。

 楽しくて、そのあととても辛くてそれでも楽しいこともあったあの世界での冒険に感謝を。

 それを与えてくれた、俺を変えるきっかけを作ってくれた女神様に最大限の感謝を――。


「ありがとう――女神様」


「うむ、ばいばーいじゃ」


「軽くない? 傷だらけの歴戦マッチョが子供みたいな笑顔浮かべてるんだぞ? エモくない?」


「え、見えん。じゃ、じゃってもう顔消えてるし。膝まで消えた後、頭から肩まで消えたから……今は腹から消えとる」


「システムキモすぎない? つーか俺はどうやって喋って、どうやって見て――」


 そこで俺の意識は途切れた。

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[良い点] 終始びっくりしっぱなしの女神ちゃんかわよ
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