表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子の愛妾枠で結婚したのに、気がついたら私しか妃がいない!  作者: チョコころね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/27

26.私にしかできない事

…すいません、終わってません…


 ザミアの王弟ルカスが、再びエルベに来ると聞いた時、マルグリッドはすっかり自分用の執務室として整えられた城内の部屋にいた。


 この部屋には続き部屋があり、そこにはベビーベッドや玩具、子育て経験のある侍女が配置されている。

 出産後半年過ぎると、マルグリッドは一日おきに、王太子宮からこの部屋に出勤するようになった。

 その際は、第一王子(暫定)――パトリックも連れて来ていたので、王妃は殆ど毎回、王や伯爵も週に一度は孫の顔を見に、こちらへ訪れていた。


 最初、宰相は(ぬる)い目でその光景を見ていたが、マルグリッドが、王宮に託児所(このようなばしょ)を作れば、優秀な女官が引退するのを防げると提案(プレゼン)すると、俄然目つきが変わった。


 城に勤めている人々は、主に下級貴族と平民の子女で構成されているが、女性は慢性的な人手不足だった。


 ようやく仕事を覚え、重用されても、女官は結婚を機に、半数以上が職場を離れてしまう。

 仕事を続ける者もいるが、妊娠すると完全に仕事を辞め、その後復帰する可能性は極めて少なかった。


 だが、家計の問題でもそれ以外でも、子が出来た後も働きたい女性は、少なからずいる。

 貴族の場合、子供は生まれてすぐに乳母や教育係に預けるが、その余裕のない家もある。

 託児所があれば、復帰しやすくなるのは確実だった。




「もう、お国の方は大丈夫なのでしょうか?」


 ザミア国内は現在、旧態依然の『王』VS、改革を推し進める『王弟』による、嵐が吹き荒れている。

 周辺国を味方にした、王弟派が有利なのは確かだが、相手は腐っても現国王だ。

 まだ、旗印が自ら、他国にやってこられる余裕ができたとは思っていなかった。


「そろそろ限界なのかもな」


 王族が覇権を争っているというのは、国の上だけの問題では済まない。

 当然、家臣、それらに続く人々は無論、彼らとは何の関係もない、無辜(むこ)の民も巻き込まれる。


「ザミアはフィカスとの戦から、ようやく立ち直ったばかりだ。再び戦になるのは誰しも厭うところだろう」


 この部分を、徹底的に突いたのが王弟派だ。

 今の国王に任せれば、またすぐ戦が始まると、国内に流布した。


 実際、その可能性は多分にあったので、現王派も噂を打ち消す事が出来なかったが、外との戦が無くなっても、今度は内戦が始まっては元も子もない。


 苦しい戦後の記憶が、まだ市民には残っていた。

 あの生活に戻りたいか?と問われて、はい、と言える者はいなかっただろう。


「国内に、いえ国外にも、明るい(しら)せが欲しいところですね」

「あぁ」


 その時、ちょうどコンスタンス姫が、侍女を従え入って来た。

 

「お姉様、今戻りました。レアンドル殿下もこちらでしたか」


 動きやすさを重視したドレスを纏った姫は、裾を摘まみレアンドルに対して礼を取った。


「お帰りなさい、今日のお勤めご苦労様です」

「勤めなど、私が教えを乞うている立場ですので…。後で、妃殿下もこちらに伺いたいとのことでした」


 コンスタンス姫は今、王を支える為に自国で学び足りなかった部分を、王妃から学んでいた。

 立派な、『()()()』の王妃になる為である。

 

「コンスタンス姫、ルカス殿下が来月こちらに来られる事になった」


 レアンドルから告げられた姫は、目を丸くしていたが、パッとマルグリッドを見た。

 マルグリッドは微笑み、立ち上がって姫の手を取った。


「おめでとうございます! 一緒に、用意をしましょうね」

「…はい!」


 控えめだったが嬉しそうな姫の笑顔に、マルグリッドはこれで良かったんだ…としみじみ思った。





 ルカスは前回、三年待って欲しい、と姫に言い残したという。


『返事はいつでもかまわない。私の妃になってほしい』


 前回の訪問の際、僅かな時間だけ設けられた会見(宰相臨席)に置いて、ザミアの王弟は自分の置かれた立場を簡単に、だが正直にコンスタンスに説明した。


『国はしばらく荒れるだろう』

『苦労させるのは分かっている。だが、覚えておいて欲しい…』


 ――貴女の役目はただ一つ、幸せになることだ。


 コンスタンスの瞳を真っ直ぐ見つめて、ルカスは言い切った。


 貴女が幸せであれば、生国のアデニアは勿論、美しい微笑みの絶えない王妃をいだくザミアの国民も、皆幸せになれる。

 自分の望みはそれだけだと。



 コンスタンスは悩んだ。

 16歳(白い結婚)の期限も迫っていた。

 当時はマルグリッドにも言えない極秘事項だったので、相談相手は、侍女のサラと、この国の宰相だった。


『エルベにおいての貴女の権利は、宰相の名の元に私が保証します。貴女はこの国でも、十分に幸せになれます』


 忙し過ぎて、いささか草臥(くたび)れた感はあったが、宰相の威厳を持って、彼は宣言した。

 だがすぐに、彼はそのスタイルを崩し、苦笑を口元に浮かべた。


『ですが、やりがいはザミア(あちら)の方があるかもしれません』

『やりがい…ですか?』

『はい。こう言っては何ですが、我が国は長い間平和が続いたので、物も、そして人も飽和状態です』


 アデニアも、取りあえず平和が続いていたが、ザミアとの国境は常にざわざわしていた。

 実際、コンスタンスの婚約へ横やりが入っただけで、彼女の父である国王は顔色を失くした。


 それに比べ、この国の人達は穏やかだ。

 弛んでいるのではなく、王宮には適度な緊張感があり、人々は皆、率先して働いていた。


(この王宮の人たちは、どんな時にも余裕がある…)


 そこが生まれ育った、アデニアの王宮との決定的な違いだった。


 コンスタンスは、マルグリッドを思い浮かべた。


 エルベではすでに、孤児や貧民救済の手立ては国中に行き渡っている。

 それだけでも驚嘆したというのに、マルグリッドは彼らにも医療や教育を施せないかと、尽力していた。


(この国の王妃には、お姉様こそがふさわしい…)


『ザミアはその逆で、おそらく、何もかもが足りない。すべてがこれからです』


 コンスタンスは思い浮かべた。

 何もない場所に行って、自分が何をできるかを。


(私は、一から学ばなければいけない)


 整えられてない大地が目の前に広がり、体の奥が震えていた。

 でも、それは確かに、とても『やりがい』の感じられる事だと思えた。


 そして、コンスタンスは16の誕生日を迎える三月前、ちょうとマルグリッドの第一子が生まれた頃に決意する。

 ザミアに嫁ぎ、ザミアの民の為に生きようと。




…姫の話は番外編予定だったのですが、ちょろっとこちらへ。

…ルカスさんとのやり取りは番外編予定で…多分…

…次回はきっと…と思うんですが…どうでしょうね(--;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ