表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子の愛妾枠で結婚したのに、気がついたら私しか妃がいない!  作者: チョコころね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

24.王様は笑う


 レアンドルは、国王と二人きりで対面していた。


 今までの、ザミア絡みの話――コンスタンス姫が既に純潔を失っている件は除いて、をレアンドルから聞いた王様はふっと口を開いた。


「成程ね。ザミアの王弟殿がいらした理由は、ちゃんとあったんだね」


 現在のエルベ国王は、御年43歳。

 柔らかそうな濃いレンガ色の髪と、金色の瞳、優しい顔立ちと暖かい声音は、見る者の心に安らぎを与える仕様になっている。

 貴族、平民、老若男女問わず慕われている王様で、どちらかといえば、王妃似の美形なレアンドルの方が、父王と並ぶとキツイ印象があった。


 外見的には癒し系の王様だが、本人もそれを知っていて、外交にも内政にも利用している。

 見かけの何倍も食えない人物だ。


「裏は取るが、おそらく君の今言った事と現況は、そう離れてはいないだろう」


 レアンドルは軽く頭を下げた。


「あの国が、大人しくなるなら、協力するのもやぶさかではないが…」


 王は息子に視線を向けた。


「コンスタンス姫をどうするか、だよね?」

「はい」

「出せないね」


 国王はあっさりと言った。


「いくら王弟殿下が保証してくれても、()()()アデニアとの兼ね合いもある」


 まぁ、それはそうだろうな、とレアンドルも思う。

 だが、王は言葉を続けた。


「出すわけには行かないね…今はまだ」


 付け足された言葉の意味を、レアンドルが考える間もなく、国王はレアンドルに向かって尋ねた。


「お前、あのお姫様をどう思っている?」

「それは…美しい姫だと」


 王は微笑み、首を上下に振る。


「うんうん、それは僕にも分かるよ。アデニア(あそこ)の王様が、勿体ぶった気持ちも分かるね」


 この国で一番身分の高い男は、身も蓋もない言葉で、息子に課せられた『白い結婚』の事をあてこすった。

 そして微笑みを浮かべたままで、息子に告げる。


「あの条件を聞いた時、僕は断っても良かったんだよ」


 初めて聞く話に、レアンドルが目を見開いた。


「でも宰相(ローラン)がさ、確実にアデニアに恩を売れるからって。それに、君も断らないだろうって言うんでね…。君が断らないっていうのは、何となく僕も予想できたけどさ」


 意味深な言葉に、レアンドルはとりあえずアルカイックスマイルで対抗した。


「おかげでエルベ(ウチ)は魔石鉱山が手に入ったし、君はマルグリッド嬢を手に入れた。ローランは流石だね」


 僕ら親子の欲しい物を良く知ってるよ――そう言って、国王はふうっとため息を吐いた。


「僕も、君が欲しい物は知っていたけど、それを諦めていたのも知っていたんだよ」





 レアンドルは、聞き分けの良すぎる子供だった。

 頭は柔軟なくせに、ガチガチに『王子の義務』に縛られていた。


『王家に王子は一人しかいない』


 …だったら大概のワガママも通るだろう――と思わずに、自分しかいないからこそ、


『自分が王太子としてしっかりしなければ』


 と思ってしまう子供だった。


 マルグリッドが欲しいなら、そう言えば良かったのだ、と国王は思う。

 レアンドルが、『どうしても』と望むなら、今のような面倒くさい形でなく、普通の『正妃』に出来た筈だ。


 ただその場合、国の決まりを曲げることになる――それが『模範的な王子(いいこ)』の、レアンドルには出来ずに、屈折していった。


 エルベは、王家を頂点とした階級社会だ。

 上位貴族にふさわしい令嬢がいたのに、その下の家から『妃』を出すことは、規範に照らせば『ない』ことだった。


 それを曲げた前例を作れば、何か起こった場合の非難の口実になるのは、充分に考えられたが…


「君が忌避したのは、自分の治世に傷がつくことじゃないよね」


 王がぽつりとつぶやいた言葉に、レアンドルは瞬時に目を吊り上げた。


「…傷なんて! 彼女はむしろ私の誉れです!」


 声を荒げ抗議する息子に、王様は父親の顔で苦笑する。


「分かっているよ、僕も王妃(イレーヌ)も」


(そして、ローランも分かっているから、こんな面倒くさい事をしたんだろうね…)


 デフォルトになってしまった宰相の皺を、もっと増やすことになるが、レアンドルの為なら文句は言わないだろうと王は思う。


(いや、文句は言うなぁ。盛大に)


 言ってもやってくれるだろうが…――この先に、とても増えたであろう仕事を、押し付ける部下へ思いを馳せながら、名君の誉れ高き男は、口の端を上げてニヤッと笑った。


「ザミアが落ち着いたら、花嫁を出すことを考えても良いよ」

「それは…」

「どうせ君は、あの『美しいお姫様』に、未練は少しもないんだろう」


 レアンドルは、図星をつかれて口をつぐむ。


「こうなると、白い結婚で良かったねぇ」


 王様は結構本気でつぶやいた。


「あとはマルグリッドだけど…」


 幼いレアンドルを狙った侍女の犯罪に、一番早く気づいたのはマルグリッドだった。

 以来、国王は、マルグリッドが、ただの貴族令嬢だとは思っていない。


(子供の発想じゃなかったよね…)


 その後、たまにポロっと出てくる、社会的な発言なんかも気になったが、レアンドルを慕っているので、国に不利益をもたらすものではないと見逃して来た。


 ヴェルデ伯爵家にたまに現れる、現伯爵のような秀才――とも違う気はしたが、血筋による何らかの突然変異だと思うことにしている。


「まぁ、あの子は頭のいい子だから心配はしてないよ。今のうち、実績を作っておくんだね」


 まだ、分かったような、分からないような曖昧な顔をしているレアンドルだが、マルグリッドに関する事なら手抜かりはないだろうと、王様はとりあえず信じている。


 現時点でも、彼女を正妃にすることに反対する者は左程(さほど)出ないだろうが、実績があればもっとすんなりと行くだろう。

 

(秩序を求める者も、国には必要なのだ)


 おそらくは、王妃になる時も…


「そうだ」


 王様は良い事を思いついた、というように声を上げた。


「できれば、孫の一人でも作っておいてくれれば、僕も嬉しいし彼女も安泰だね!」


 はぁー!? と赤面する王太子に、王様はとてもイイ顔で笑った。



…王様は割と『(愛する人達が)幸せならそれでいい』の人です。

…他国に興味はないけど、自国を攻撃するなら容赦はしません。


……実は、『不思議少女マルグリッド』ちゃんの異才が、国にとってよくない方へ向かうなら、神子として神殿に入れちゃおーかなー?とか考えてました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ