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王太子の愛妾枠で結婚したのに、気がついたら私しか妃がいない!  作者: チョコころね


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18.駆け引き




「どうだ? 姫をこちらに寄越す気はあるか? 丁重に扱うのは約束しよう」


 国家間の大問題にもかかわらず、王弟殿下の口調は軽かった。


「鉱山はそのままでいいし、隣国(アデニア)との折衝もこちらが請け負うぞ」

「鉱山が欲しかったのでは?」

「言ったろう?欲しがっているのは兄上だ」


 ルカスの口元に浮かんだ笑みを見ながら、ぽつりと、とレアンドルはつぶやいた。

 

「…嫌がらせですか?」

「私は、兄の言いなりになって、嫁を娶りに国を越えて来た弟なのだよ?」


 嫌がらせ何てとんでもない、とルカスはお道化(どけ)て首を振った。


「貴殿には、()()()()()()()()()()、可愛がっている愛妾がおろう? 正妃など誰でもよかろう」


 この国(うち)の密偵が、ザミアの宮廷に入っているのように、ザミアの密偵が城内(ココ)にいても不思議はない。

 返す言葉を考えていたレアンドルに、ルカスは手を胸に当てて口の端を上げた。


「私独自のネタだよ」


 兄である王は知らない…そう言われて、安心できるほどレアンドルは単純ではなかったが、何となく脅されている訳ではないらしいのは感じた。


(そうだとすれば、下手な小細工をするより…)


「確かに、私には愛しい相手がおりますが、その人が姫をかわいがっているんですよ」


 しれっとレアンドルの返した言葉に、ルカスは珍しく固まった。


「ですので、おいそれと、姫を差し出す訳には行きませんね」


 レアンドルは正直な話をしたのだが、ルカスは顔をしかめた


「レアンドル殿下、ソレはないだろう」

「ソレとは?」

「愛妾が、正妻をかわいがる? 殿下は年若いから、そのような夢を見たいのかも知れんが、ありえんよ。女はそのような生き物ではないぞ」


 女性のエキスパートに言われると説得力があるが、レアンドルにとっては単なる事実である。

 少なくとも、この国で一番コンスタンス姫に心を砕いているのは、姫が連れてきた侍女を抜かせばマルグリッドなのは間違いない。


「アレらは確かに可愛いらしい存在だが、寵愛を争う相手には容赦がない。父の3人の妃は、兄が国を継ぐ前に()()()()()で全員入れ替わったぞ」


 先代のザミアの後宮が、外交に劣らず殺伐としていた事は、知る人ぞ知る話だった。

 むしろ外交があからさまな『暴力』なのに対し、後宮は陰湿な『謀略』で知られ、顔のない死体が王宮の脇に流れる川に浮かんでいた、なんて事が日常茶飯事だったらしい。


「後宮を廃止されたそうですね」

()()あって一利なしの場所だったからな」


 王弟の華やかに整った顔が、らしくなく空虚なものになる。

 

(ザミアの現王と王弟の母親は一緒と聞いたが、他に兄弟がいないというのも不自然だよな)


 ――後宮には、美女が数多(あまた)侍っていたというのに。


 色々あったんだろうな…とレアンドルは察するしかできない。


 その割に『女好き』のレッテルを貼られている男は、また表情を飄々としたものに戻した。


「幸か不幸か、兄上は堅物だ。妃はいるが、増やす予定はない」

「では、ルカス殿下の奥方として、コンスタンス姫を迎えたいと?」

「あぁ」


 ルカスは頷くと、ニヤッと笑った。


「私の妻なら離婚歴の一つや二つ、却って箔がついていいだろう」


 姫の処女性は気にしないと、言外に伝えてくる相手は、本気でそう考えているのだろう。


(『白い結婚』というのは、バレていないのか…?)


 それとも、御付きの騎士がすでに己の過ちを暴露しているのか…


「例の『騎士擬(キシモドキ)』は、どうされるのですか?」

「決まってるだろう? 始末するよ」


 あっさりと告げ、明るい笑いを浮かべる口元とは逆に、ルカスの目は全く笑ってなかった。


「あんなの、姫にとっても、どの国にとっても害でしかない」


 あぁ、これは知ってるんだな…とレアンドルは納得した。

 それと同時に、案外、この男に嫁いだ方が、姫は幸せになれるかもしれないと思った。


 レアンドルはコンスタンス姫を、殊更(ことさら)不幸にするつもりはない。

 騎士との経緯を知った後でも、王太子妃として相応の敬意と待遇を与え、レアンドルが王になった時には、そのまま王妃につけるつもりだった。


(ただ自分は、マルグリッド以外愛せない)


 今は心の傷から、マルグリッドを慕っていても、成長し、本当にレアンドルと夫婦になれば、彼女を疎ましく思い、二人は憎しみ合うのかもしれない。

 ザミアの王弟の言う通りに。


(そうなる前に…か)


 姫との婚姻は国同士の約束だ。そう簡単に反故(ほご)にできるものではない。

 ここで荷物のように、右から左へ姫をザミアに渡したら、隣国の(そし)りをどれだけ受けるか分かったものではないが…


隣国(アデニア)との折衝もこちらが請け負うぞ』


 自信満々に(うそぶ)いた、ザミアの王弟の言葉もある。

 だが例えルカスが、それらすべてを退けるだけの、手段(カード)を持っているとしても、レアンドル側にも譲れない事情はある。


 さて…


「ルカス殿下。情けないと思われるかもしれませんが、私は愛しい人に頭が上がりません」

「レアンドル殿下、嘆かれることはない。男とはそういうものだ」


 ルカスは悩まし気に首を振り、レアンドルの茶番に乗って来た。


「ゆえに、私は姫の身柄を、愛しい人に託そうと思います」

「ほう?」


 二人とも顔には胡散臭い笑みを、これでもかと浮かべていた。


「えぇ、彼女が姫を他国へ…と願うなら、殿下に姫を渡しましょう」




…王弟と王太子の会話に戻ってまいりました。

…二人の能力値は同じ位です。剣ならレアンドルくん、社交ならルカスさんに一日の長がありますので、今回レアンドルくんは割と出たとこ勝負です。

(女性関連は比べ物になりませんが、なくてもいいスキルです)

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