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王太子の愛妾枠で結婚したのに、気がついたら私しか妃がいない!  作者: チョコころね


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17.宰相はたくらむ


 早まる婚儀関連の折衝で、国の首脳陣や宮中関係者、勿論当事者であるレアンドルも、せわしなく動くことになった。


 そんな忙しい最中、レアンドルは再び宰相に呼び出された。


「しばらくの間、一人寝を余儀なくされる殿下の為に、側妃を迎える事になりました」


 レアンドルよりも、おそらく国中の誰よりも忙しい宰相は、くっきりクマの出来た目でにこやかに、爆弾を投げてきた。


「…誤解しないでくださいね。私共が希望した訳でなく、これは、あちら側の申し入れによるものです」


 眉間にしわを寄せたレアンドルをけん制するように、宰相は主張したが、相手の表情は変わらなかった。


「…娘の代わりに、私に妾をあてがえと言ってきたのか?」

「その言い方はどうかと思いますが…まぁ、意味はそんな感じでしょう」


 見せられたのは王の直筆で、


()()()()()()()()()、王太子が身の回りの世話をする女性を近づけたとしても、わが国では一切関知しない』


 と書かれていた。

 

 これを『寛大』と取るか、『傲慢』と取るかで意見は分かれるが、取りあえず宰相は、『余計なお世話』と跳ね除けることはしなかった。


「私共は、殿下のお気持ちを知ってますからね…」


 宰相はぼそりとつぶやくと、怪訝な顔をしているレアンドルに真顔で伝えた。


「ヴェルデ伯爵家から、縁組の申請書が届きました」


 レアンドルには、先ほどの言葉以上の爆弾だった。





「ロシェ伯爵のところから、子息の一人を婿に迎えるそうです。あそこは男子が多いですからね、同じ伯爵の跡取りなら渡りに船だったんじゃないですか?」


 貴族の結婚には、国の許可がいる。

 今は国内が落ち着いているので、許可というより、『届け出』の意味合いが強く、問題がなければ簡単に認められる。


 宰相の言葉の半分は、レアンドルの耳から素通りしていた。


「しかもマルグリッド嬢は、美しく賢い。縁組の申し込みも、10や20では済まなかったと聞いてます」


 外側からは分かりにくいが、長い付き合いの宰相にはレアンドルが放心しているのが分かる。

 宰相はふっと笑い、人を誘惑する魔物のように囁いた。 


「今が、マルグリッド嬢を娶る、最初で最後の機会ですよ…」


 瞬時に、レアンドルが正気に戻る。

 宰相が言っていることを頭の中で反芻したが…否定した。


「いやそれは…!」

「元、婚約者候補の令嬢方は、身分が高すぎて、『側妃』としては迎えられません」


 たとえ彼女たちが了承したとしても、家が許さないだろう。


「彼女たちの誰かを、正式に迎えるには時間が足りませんし、さすがに自分の娘の前に、レアンドル様が『正妃』を娶るのは、あちらも黙ってないでしょう」


 それも分かる、だが…


「マルグリッドを…側妃になんて」


 一番愛する人を『妾』という立場にすることに、レアンドルの中で激しい抵抗があった。


 すると、宰相はあっさりと頷いた。


「そうですか、では他の令嬢にしますか? レアンドル様なら声をかければ、幾らも集まりますよ」


 すでに作成していたらしい、『愛妾候補』の令嬢リストが、レアンドルに手渡された。

 そこには16歳以上の、伯爵から子爵までの女性の名前がぎっしりと記されていた。


「意外と多くて苦労しました。我が国は、実に恵まれていますね」


 声も出ないレアンドルに、宰相は立て板に水式に畳み掛けた。


「ちなみに、宰相府内でのお勧めは、美貌で名を馳せた夫人の再来と言われるシャリエ伯爵家の次女と、騎士の家系で自らも健康的な美を目指しているというギルマン子爵家の長女と…」

「ローラン、私は側妃など…!」


 いらぬ、という言葉を遮るように、久しぶりに名を呼ばれた宰相は、すかさず釘を刺す。


「もし、いつの日か、マルグリッド嬢が一人になった時に、ごく自然に宮中に召そうなんて考えをお持ちでしたら…」


 ギクッとレアンドルが胸を突かれる。

 打ち消したが、縋るように考えた可能性だった。


「それは見果てぬ夢だと言わせていただきます。なぜならロシェ伯爵家では、いまでも70を過ぎた先代が、ご健勝のご様子です」


 つまり長寿の家系です…と、宰相は厳かに告げる。そして、


「マルグリッド嬢が一人、この世に残される可能性は、はなはだ薄いと言わざるを得ません!」


 宰相は高らかに言い放った。


 とどめを刺されたレアンドルは、しばしの逡巡の後、ゆっくりと顔を上げた。

 睡眠不足の目が、どっかり座っていた。


「私は…マルグリッド以外いらぬ」


 本当にマルグリッドが、他の男の物になってしまうという実感が、レアンドルの良心を吹き飛ばした。


 ぐしゃりという音と共に、『令嬢リスト』は、レアンドルの手の中で紙クズとなり果てた。

 一応苦労したんですよ、そのリスト…と、どこかほっとしたように云った宰相は、

 

「…コンスタンス姫は、娶ってもらいますからね」


 と、キチンと念を押したのだった。



…宰相は、マルグリッドさんの有能さを買っていたので、王子の補佐にしたいというより、とにかく王宮に出仕してもらいたかった人です。跡取り娘なので諦めていました。


宰相(ローラン・ギャロワ侯爵、40歳):若い時にはヴェルデ伯爵に教えを受けたこともある秀才。25の時、王子の家庭教師に抜擢されて、38で宰相に就任。愛妻家だが宰相になってから中々家に帰れない事が密かな悩み。一男一女の父。

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