13.想定内と想定外
「申し訳ありません…姫のお気持ちを考え、身を切られる想いでお側を離れたのですが、このような事になるとは」
美少女を前に苦悩する美青年…を、眺めているマルグリッドの感想は、『けっ!』である。
付け加えるなら『ざけんな』である。
婚約者のいる自分の主人を襲い、責任も取らずに逃げたことを、こんな風に言えるなんて余程の詐欺師か、ただの大馬鹿である。
「…このような事とは、何の話ですか?」
戯言には相手せず、静かに問い返したコンスタンスを意外に思ったのか、セドリックの反応が遅れた。
「それは…この城での姫君の立場です」
「立場…?」
「そうです。王太子妃とは名ばかりで、監禁状態だというではないですか?」
コンスタンスは、不快気に眉を寄せた。
「私は、監禁などされておりません」
「表に出ていらっしゃられないと、お聞きしましたが?」
「公式行事でもないのに、私が表に出る必要などありません。付け加えれば、ザミアの王弟殿下の来訪は非公式のものです」
(その通りです。こちらの返事を待たずに、勝手にやってきたんだから)
「で、ですが、こちらの王太子は、姫を王宮の奥に追いやって、愛妾を連れまわしているというではありませんか!」
自分の話が出て、マルグリッドは目を瞬いた。
「卑しい身分の愛妾が、まるで己が王太子妃のように、ふるまっているそうではありませんか! この国では、それが当たり前になっていると聞いて…そんな場所で、私の姫君が、どれだけ肩身の狭い思いをされているのかと思うと、私は…!」
立て板に水式に、ディスられているマルグリッドは、隣にいるサラのさりげない心配そうな視線を感じていた。
隣国に届いた王弟の手紙に、似たような記載があったのを聞いているので、マルグリッドはそれほどショックを受けていない。
腹は立つが、王太子を貶めるのに、愛妾が利用されるのは想定内だ。
ちなみにマルグリッドが愛妾として、公式の場に出たことは一度もない。
「…あなたは、何がおっしゃりたいの?」
コンスタンスは、相手の饒舌を遮り口を挟んだ。
「姫、私と一緒にザミアへ参りませんか?」
「…は?」
「王弟殿下と話はついております」
「何を…?」
セドリックは一呼吸置いて、おもむろに口を開いた。
「…上辺は王弟殿下の妃としてお迎えしますが、実質的には私の妻になっていただけませんか?」
マルグリッドの思考が、真っ白になる。
コンスタンスも同様で、水色の目が大きく開かれている。
「王弟殿下は、姫君に指一本触れないと誓ってくれました」
どこか自慢げに語るセドリック。
「姫が助けを求めてくれれば、すぐにお連れします」
お前は何を言っているんだ…!!――マルグリッドは、幸せそうに妄言を巻き散らかす元騎士の襟元を持ち上げて、揺さぶりたい衝動に駆られた。
…進みがのろくて申し訳ない(>_<)!
…皆々様には、ここまでお付き合いいただき、まことに有難うございました!
…良いお年をお迎えください!




