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89.育成林

 やはぁい! リマロンだよ。

 さてさて今日のボスはどんな修行をしてるのでしょうか。


 「見たまえ。ラファエルのこの大腿四頭筋を!」

 「ああ、体毛越しにも見て取れる圧倒的な筋肉量。感動ものだ」

 「そうだろうそうだろう。ラファエル、ポージングを変えたまえ」

 「おお、背中も芸術的だな」

 「わかるかい。最近の一押しポイントなのだよ」

 「鍛えるのが難しい部位だからな。特注の器具でもあるのか」

 「流石我が弟子、いい発想だ」


 ……なにこれ?

 絶対修行じゃないよね。

 

 「君にも筋肉自慢のモンスターはいないのかい」

 「正直、ラファエルの前には霞むが師匠が望むなら仕方ない。リマロン、見ているのはわかっている。こっちへこい」


 あちゃ~、のぞき見バレてるじゃん。

 かなり嫌な予感がするんですけど。


ー-----------------------------------


 ふあぁーあ、久しぶりにこの時間に起きてたのさ。

 精霊様、任務遂行中のピエターが進捗報告にやってき……ん?


 「なるほど、歪に鍛えられた筋肉もここまでくれば芸術なのかもしれない」

 「恥ずかしい限りだ。得意戦術に関わるトレーニングくらいしかさせてないもので」

 「それはいけないな。筋肉が下半身に偏りすぎている。その上、下半身も大きな筋肉しか発達していない。一気に間合いを詰めて一撃で敵を屠る、そんな戦術を得意としてる者の筋肉だね」

 「流石師匠。筋肉を見ただけでそれがわかるなんて」

 「ボスモンスターがそれではいけない。ボスにはボスの戦い方がある。さらに言うと同格や格上のモンスターとの戦闘では一撃必殺の大技なんて通用しない。強敵との戦闘経験不足が深刻だな。いい機会だ。ラファエル、少しもんでやれ」

 「ウホーホーゥ」

 「ウサッ!?」


 危ない危ない。

 ランクAのモンスターとの戦闘訓練なんて巻き込まれたら、命がいくらあっても足りないのさ。

 精霊様への報告はまた日を改めることにしよう。

 漆黒の翼人に首根っこを掴まれ引きずられる兎鬼の王の姿を見て僕は踵を返す。

 リマロン君、健闘を祈る。

 さぁ、戻ろうか、仕事場へ。 


 育成林の中に開けた土地。

 その中央に家の形に育った1本の木。

 工房予定地兼僕の住居さ。


 三日三晩笛を吹き続ける根気さえあれば、このように()()()()()()ならぬ()()()()()()を育てることもできるのさ。

 会う度にリマロン君が羨ましそう見てくるが、流石にもう1本立てる余裕はない。

 なにせ、林をまるごと生やすという大仕事があるからね。

 

 「ウサッサ」

 「タンプラー君、また来てたのかい」

 「ウサウサ」

 「まぁ、君の親分は当分戻ってこないからゆっくりしてるといいよ」


 このホブラビブリンはちょくちょくここを訪れて仕事をさぼっている。

 本来は咎めるべきだろうが、こっちの仕事を手伝ってくるため、ある程度の滞在は許可している。

 僕にもラビブリンの部下を付けてもらっているが、その小さな体では何かときつい場面もあるからね。

 パワーが必要な場面では非常に助かる存在だよ。


 タンプラーは前に教えたサイズミンクの尻尾を使った魔法の鎌を作っている。

 腰の魔石から尾を繋ぐ線を傷つけずに取り出すのがポイントだが、その難しい作業をあっという間にマスターしてしまった。完成した鎌が既に数本脇に置かれている。

 ホント、感心する器用ささ。


 「さてと、僕も僕の仕事をしないとね」


 そう独り言ちて僕は笛を取り出した。

 魔法の旋律を奏でながら僕は考える。


 材木がまだまだ足りない。

 現在育成林を育てているのは3部屋分。

 これが育ち切っても精霊様から言われている分しかない。

 いや、足りるかどうかも怪しい。

 なにせ僕たちには建築のノウハウがない。

 僕は書物でヒューマの建物を見たことあるくらいだし、部下のラビブリンたちは我々程器用ではない。

 いつかログハウスをいっぱいに生やしたいという野望はあるが、それはまだ当分先の話だろうね。

 まずはミンク避けの柵なんかを作るところから始めるとしよう。

 幸いな点は大工道具はスケルトンの意志から融通してもらえるところか。

 技術書なども手に入ればいいのだが難しいかな。

 後で精霊様に打診してみるか。


 ……と。

 今日はこのくらいでいいだろう。

 調育の旋律もいっぱい聞かせればよいというものでもない。

 これ以上は効果が薄い。

 ああ、もっと時が早く進めばいいのに。

 もどかしいね、もうどうにかして欲しいね。


 そう思っていると入り口から気配を感じる。

 害獣たちには出せない圧倒的なオーラ。

 精霊様だ。

 

 「これはこれは精霊様。出向かせてしまって申し訳ないのさ」

 「前々から言おうと思っていたんだが、精霊様はやめてほしい。俺は前も言ったがそんな存在じゃないし、気恥ずかしい」

 「今更だよね」

 「今更ではあるが、お前たちと出会ってから常に戦闘状態だったからな。それ以外のことは気にしている余裕がなかった」


 ふむ、そう思っていたとは。

 まだ普通のエルフだった頃にリマロン君から聞いた印象と力を得た際の高揚感でこの呼び名を始めたのだが、僕としてはこの呼び名を気に入っている。

 なので、少し抵抗してみよう。


 「そうであるならこれを機に統一した呼び名を決めてみてはどうでしょう?」

 「統一した呼び名とは」

 「みんな好き勝手呼んでるでしょう。ボス、お化け、意志など。ソイ君のお化け呼びも大概ですが、リマロン君のもあまりよろしくないと僕は思うのさ」

 「ボス呼びがか?」

 「ええ。なにせここのボスモンスターはリマロン君であり、精霊様じゃない。その辺りが関係がわかりにくい呼び名さ。機能的じゃないね」

 「機能的じゃない……か」

 

 精霊様が顎に手を当てて静止する。

 熟考モードだ。

 こういう時に意見を畳み掛けると案外意見が採用されることが多い。


 「その通りなのさ。多くのモンスターは精霊様を見る事すら叶わないだろう。精霊様は命令すればモンスター側に意図を伝えられるけど、モンスター側はどうだい? それに今後スキルなしの協力的なモンスターもここに住むことだって考えられるのさ。だったら関係性がわかりやすい機能的な呼び名を考えるべきじゃないかな」

 「わかった。考えておく」


 よしよし。

 勢いで口走った割にはなかなかうまくいったんじゃないか。

 ボスはリマロン君、ダンジョンはボスより上の存在。

 現状の呼び名でそれを示すことができるは僕の使っている精霊様のみ。

 よって、選ばれる呼び名は精霊様。

 勝ったな。完璧な理論なのさ。


 「そろそろ本題に入りたいのだが……」

 「ああ、そうだったのさ。育成林の現状について報告するのさ」


 僕は育成林の現状を出来るだけ細かに説明した。

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