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86.なすびうし

 やっほー、リマロンだよ。

 今日はお師匠さんが来てるのでボスは修行中です。

 ちょっと覗いてみようかな。


 「ここから南に2部屋、東に2部屋。さて、ラビブリンたちは何をしている」

 「ぬ。感知は出来るがそこまではわからない……」

 「ソウルを隅々まで循環させろ。さすれば、目で見なくとも自分の内のことは分かるはずだ」

 「土の下……空の上……」

 「こらこら精神体が動いてるぞ。人のセンスでいうならば視線は動かすな。視界の端に映る景色を読み取るような感覚だ。もう一回やってみろ」


 おー、やってるやってる。

 がんばれ、ボスぅ。

 ……。


 ここにいてもなんだか心がもやもやするので、今日も臨時パトロールだ。

 先輩も連れて行こっと。


 というわけで本日はハイドラット草原にやってきました。

 バロメッツがコブンたちに連れられて美味しそうに草を食べております。

 まんまるな体はいつ見ても抱きしめたい。

 ふわふわの体毛をフカフカしたい。

 非常に愛らしいです。

 その上、とっても美味しいです、じゅるり。


 そのバロメッツの群れの中に大きな紫がかった黒いなにかが混ざってます。

 下膨れな体は色と合わせてちょっとなすびっぽい。

 おだやかな表情で草をムシャムシャする様子はとってものどか。

 ただの牛のように見えるけど、れっきとしたうちのダンジョンの新たなモンスターなのです。


 こいつは、なすびうし。

 正しく言うとフルーツバロメッツ・マンドラカウって名前らしい。

 名前にある通り、この子はバロメッツの仲間だそうです。

 けど、長いから私的にはなすびうしで。


 普通は実を付ける前に収穫しちゃうマンドラゴラだけど、試しに実をつけるまで育ててみたら生まれたの。

 ホントはもう少し仲間がいたけど、ホロウナイトとの戦いで荒らされた畑の中、生まれることが出来たのはこの一匹だけ。

 あの時は大変だったね。

 おまえだけでも立派に育つんだよ。

 ボス修行が落ち着いたらいっぱい仲間増やしてもらおうね。


 でも、それには問題が一つ。

 ボスがダンジョンに有益な存在でなければ、これ以上なすびうしを増やさないって言ってるの。

 草食モンスターの食糧はキチョーだから、今は隣のお姉さんとの取引してるバロメッツの育成を優先したいんだって。

 

 だから、私がこの子のいいところをたくさん見つけてあげなきゃならないんです。

 そのために前にもいろいろと試したんだよ。

 牛と言えば牛乳だ、って思っておっぱいを搾ってみたけど出ないし。

 刺激が足りないのかな、って思ってマッサージしてみたけどやっぱり出ないし。

 まだまだこんなもんじゃなねぇ、っておっぱい触り続けてたら蹴られるし。

 さて、今日はどうやって牛乳を……。


 「コッコッコッコッコー」


 コッコ先輩の声。

 揺れる草むら。

 害獣の襲撃だ。


 世話をしていたファーマー種のコブンたちが戦闘態勢に入る。

 

 「コブン共、戦闘の時間だ! エアカッターに注意。バロメッツたちを守れ!」

 

 普段からサイズミンクと交戦はしているだろうけど、やっぱりファーマー種はどんくさくて心配になるね。

 原種の子よりおっとりしてる子が多いし。


 サイズミンクはエアカッターを飛ばすとき必ず止まる。

 訓練通り、エアカッターの準備で止まったところに、攻撃役に回ったコブンたちからストーンバレットが放たれる。

 射程も把握済み。

 攻撃範囲に入っているバロメッツを誘導して防御役のコブンたちが回避させている。

 さすがさすが。

 格上とは言え集団かつ戦闘経験も豊富だから私の出る幕じゃないね。


 「コッコ!」


 先輩の警告にはっとする。

 まさかもう一匹?

 サイズミンクは単独行動じゃなかったの?

 じゃあ、あっちは陽動だ!

 

 しまった。

 カバーが間に合わないじゃん。

 迫る害獣、怯えるバロメッツ。

 その間に群れから抜け出てサッと登場なすびうし。


 「ギャアアアアアアアアアアアアア!」


 おお、渋めのおじさまボイスで威嚇するなすびうし。

 こういうところでマンドラゴラ要素を感じるね。


 それでも止まらず飛び掛かる害獣。

 それに合わせて首を振り上げる。

 自慢の角に引っかけられたサイズミンクは中空に放り出された。

 そのまま駆け出ししたなすびうし。

 突進攻撃だ。

 かわす術をないサイズミンクに衝突!


 バロメッツを襲ってきた哀れな害獣はなすび色の牛の角に串刺しにされた。

 胸を貫かれている。 

 もう動かない。

 それを見た陽動係のもう一匹が猛スピードで逃げていった。

 

 やるじゃん! なすびうし!

 やるじゃん! マンドラカウ!

 ファーマー種のコブンたちだけじゃ追い払うのがやっと。

 あのすばしっこいサイズミンクを一撃で倒しちゃったよ。

 この子、実は高ランクモンスターなのでは?

 よくよく考えたらマンドラゴラだってランクCなんだから、こいつもCくらいあってもおかしくないね。

 あとでボスに確認しよう。

 

 でも、フツーに強いってわかったのは収穫だね。

 それだけでもうちのダンジョン的に価値がある。

 そう。

 うちのダンジョンの一般モンスターは肉弾戦がとても弱いのです。

 コブンもスコップ持たせないと心許ないし、コッコたちはコッコたちだし。

 だから、これはなすびうしを増やすための大きなアピールポイントになるはず!

 ボスは食糧が~なんて言ってるけど、これだけ部屋数増えたんだし、草原エリアの部屋増やせばいいだけじゃんね。


 あ、よく見たらケガしてる。

 突進した時、ミンクの尻尾が当たっちゃったのかな。

 今、治してあげるね、アースヒール。

 ゆっくり治っていくから安静にね。


 おっ、コッコ先輩。

 この魔法に興味深々かい?

 ジャガーゴーレムに襲われたコブンを助けた時もガン見だったじゃん。

 先輩もボスに無理やりマンドラゴラ食べさせられた頃によくかけてあげたよね。

 懐かしいな~。

 そんなに昔の事じゃないのに最近はいろいろあったせいで、そんな感想が出てきちゃったよ。

 

 あ、もしかして習得狙ってたりする?

 言っちゃなんだけど、ケッコー難しいらしいよ?

 私は生まれてすぐに出来たけど。


 でも覚えたらきっとみんな先輩のこと見直すよ。

 何たって回復魔法って貴重だし。

 うちのダンジョン、私しか使えないし。

 先輩、私は応援してるよ!

 目指せ、癒し系コッコってね。


 あーあ。

 ボスに話したいこといっぱいだけど、まだ今日の修行終わんないよね……。

 じゃあ……。

 よし、マンドラカウくん。

 牛乳を出す特訓だっ!

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