表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/95

74.豪雨の城廃墟

 目の前には長い廊下。

 デフォルトのダンジョンの床でも周りの景色が違うだけでこんなに雰囲気が変わる物なのか。

 と、感心している場合ではなかった。

 先を急がないと。


 モンスターたちを引き連れて進むは南東のダンジョン。

 蔦だらけの迷路の南側にあり、罠まみれの遺跡の東側にある。

 つまり敵の本拠地である。


 引き連れるモンスターは武装したラビブリンのみ。

 進軍スピードを考えるとコッコ系やマンドラゴラ系は邪魔になる。

 必要に応じて召喚すればいい。

 それでもリマロンと二人の時より大分遅いので、もどかしく思う自分がいる。

 

 朽ちた城内を思わせる部屋の中にはモンスターも罠も一切ない。

 仕切りによって区切られたことで最低限迷路の体は保っている。

 低ランクの冒険者相手ならばそれなりに効果があるだろう。

 だが、方向感覚が優れたダンジョンの意志を相手にするには、あまりに効果の薄い策と言える。

 この調子ならすぐに目的地に辿り着きそうだ。


 廊下に響くのは雨音とラビブリンたちの足音。

 そして、時々雷鳴。

 

 無心で進もうと試みるが難しい。

 やはりあちらの様子が気になる。

 ホロウナイトは畑部屋へうまく誘導できただろうか。

 ソイとバケマッシュの合流は間に合うだろうか。

 ピエターとガリアは攻め急いでないだろうか。

 そして、リマロンはうまく作戦の指揮が出来るだろうか。


 不安を上げればきりがない。

 でもそれはしょうがない。

 それほどまでにホロウナイトは強い。

 さらにダンジョンの意志がサポートしていればなおさらだ。

 奴等には俺の持つ全戦力をぶつけているが勝てるかどうかはわからない。

 たとえ勝ったとしても被害は甚大だろう。

 だが、ここで勝てねば生き残れない。

 勝つしかないのだ。

 だから主力級モンスターを一切連れずに俺はここにいる。


 敵は守りを捨てた強引な攻め方をしている。

 ならば逆にこちらも攻め入ってしまえばよい。

 俺の狙いは敵のオリジンルームの支配。

 オリジンルームを攻略されたダンジョンの意志は問答無用で()()となる。

 ワーヒポポタマスとの戦いにもやった手だ。


 敵はボスも意志もダンジョンを空けて攻めに行っているので対した守りはないだろうと踏んでいた。

 しかし、道中一切敵がいないとは予想外だ。

 

 いや、違うな。

 これはオリジンルームに戦力を集中しているのだろう。

 流石に一切の守りを置かないなんて考えられない。


 例えばリビングアーマー何体ならこの面子で対抗できる?

 以前に考えたマンドラゴラとマンドラコッコのコンボは相性が悪い。

 となると俺の主戦力は連れてきたラビブリンたちだ。

 正面からぶつかれば3体は無理。

 2体でも怪しい。

 となると戦いを制するには、俺のサポートが鍵となる。


 フルーツバロメッツを壁にするか?

 ダメだ。最も決定力のある土波も阻んでしまう。

 石弾や農具の攻撃も鎧相手には効果が薄い。

 果たしてこのままオリジンルームへ着いたとしてこの戦力で攻め落とせるのか?

 他に何かいい手はないか……。


 待て。

 思わず、俺は立ち止まった。

 何もモンスターを召喚するだけがダンジョンの戦い方ではないよな。

 となれば、ここまま突っ込むのはよろしくない。

 進軍スピードを落とすのは気が引けるが、支配領域は確保しつつ進もう。

 出入り口付近だけは自力で広げて、あとは適当なモンスターをばら撒いてお茶を濁すか。


 確認しよう。

 実体のなく物理も魔法も効かない俺だが弱点がある。

 敵のダンジョンやモンスターの持つ支配領域、黒い靄だ。

 今俺が問題なく敵ダンジョンを進めているのは、俺のモンスターが持つ支配領域で敵の支配領域を弾いているためだ。

 しかしこれは一時的なものであり、完全に靄を消すには俺が支配領域をすべて塗り替える必要がある。

 本来はこんな出入り口のみスポット的に支配なんてやり方はしない。

 敵モンスターが通過するだけで無駄になってしまうからだ。

 今回は敵がいない稀なケースのため成立している。


 ()()()を生かした戦い方ができるように。

 俺は半端に支配した部屋を後にする。

 急ぐ必要はあるが、焦ってはいけない。


 その後は支配領域を確保しつつ進軍を続けた。

 現在、蔦の迷路側から侵入し、既に最初の部屋から東に1、南に3、西に1部屋進んでいる。

 その間、妨害らしい妨害は一切受けていない。

 これは予想通り、オリジンルームで待ち伏せされているのだろう。


 この部屋では北と西の2つに行く手が分かれている。

 次の進路は決めてある。北だ。 

 蛇行しつつ西へ進めばすべての部屋を回ることができる確信があるからだ。

 いままで来たダンジョンも俺も行列の反転はあれど3x4の12部屋構成だった。

 いままでのダンジョンの戦いでもダンジョンの配置はすべて四角形であった。

 仮にここのダンジョンも同じと考えると俺たち4つのダンジョンは全て合わせると7x7の正方形になる。

 このダンジョンのみ歪な形をしているなんてことはないはずだ。


 ん? 部屋数に何か違和感が……。

 と、また余計な思考を。

 今はただ進む、でいいじゃないか。

 もうこれは病気だな、と苦笑交じり呟きつつ、北へ進む。

 2部屋目へと入った瞬間、確信する。

 オリジンルームにきた、と。

 

 他の部屋と異なる様相。

 仕切りのない開かれた大部屋。

 雨風に撫でられて凹凸のなくなった像や装飾。

 なにより、入り口から真っ直ぐ伸びたボロボロの絨毯の先には玉座があった。

 ここはかつて王のいた間……という設定の部屋だろうか。

 

 そしてその大座には男が座っていた。

 長身で細身の気だるげな男だ。

 朽ちているとはいえ、およそ玉座に座っているとは思えない程だらけきった姿勢だ。

 座っているというより寝そべっていると言った方がいいかもしれない。

 体中にじゃらじゃらと無数の鎖を引っかけており、それらが擦れて音が鳴る。

 ところどころに南京錠のようなものがぶら下がっていて、その接触音を増やしている。

 男はこちらには気付かずにうわ言のように何か呟いている。


 「あー……ボスってオレの価値分かってんのかな……。オレの能力知ってたら普通前線に単身で送らないっしょ……。確かにここは浅層で、相手は未熟者だけど戦場には変わらないよね……。あー……また着いてくダンジョン間違えたかなー……」


 【トレジャリーミミック】

 【ランクA-】

 【世界最大のミミックの上位種。宝物庫に化けて侵入してきた冒険者丸呑みにする。原種の高い戦闘能力を犠牲にした代わりに特殊な魔法を多く覚える】

 

 予想外の出来事に思考停止しかけた脳を無理やり動かして考える。

 どうする。

 

 男がこっちを向いた。

 見られた。

 いや、落ち着け。


 あれはボスモンスターじゃなかった。

 俺は見えないはずだ。

 現に視線が低い。

 見つかったのはラビブリンたちだ。

 

 「あー……あの生意気なガキのモンスターじゃあないよな……。敵襲ってことだよな……」


 ラビブリンたちの首が一斉に飛び、噴水のように体液が吹きあがる。

 遅れてじゃらり、と鎖の擦れる音が聞こえた。


 俺は慌てて近場の像の影にマンドラゴラを召喚して一緒に身を潜めた。


 何が高い戦闘能力を犠牲に、だ。

 無茶苦茶だ。

 攻撃が早すぎて見えなかった。

 幸運にも攻撃を舞逃れた一匹がいたおかげで助かったが、全滅していれば支配領域が消えて俺まで死んでいたかもしれない。

 本当に危なかった。

 

 「あー……よく見たら見たことないモンスターだ……。レアなヤツか。とりあえず仕舞っとこ……」


 男の鎖が無慈悲に生き残ったラビブリンに伸びる。

 ラビブリンはシミすら残らずに跡形もなく消えてしまった。


 「お、希少種。こんな低層でも見つかるもんだな。……ってあんなファンシーな姿しといてゴブリンの亜種かい。そう思うとちょっとキモいな……」


 いつの間にか握られていた南京錠を覗き込みながらボソボソと呟く男。

 この男にとって俺のモンスターたちは歯牙にもかけない存在のようだ。

 

 勝てるビジョンが浮かばない。

 作戦失敗か……?


 脳裏に残してきたモンスターたちの顔が浮かぶ。

 いや、まだだ。

 俺の目的はオリジンルームの支配。

 このモンスターの討伐ではない。


 いつもと同じだ。

 観察して、考えて、そして答えを見つけよう。


 俺は物陰から鎖の男の観察を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ