71.串刺しの遺跡、再戦3
リマロンは簡単に指示を伝えると準備するといって前の部屋に戻ってしまった。
「罠の少ないエリアを作っておいてだって、簡単に言ってくれるよね」
「カケッコ」
「うん。そう思うだろガリア。リマロン君はメチャクチャなのさ」
「クケッ」
「ただ、僕たちの勝利のためにやるしかないよね。行くよ! エンチャントウインド」
ピエターとガリアは風を纏うと先ほどのリマロンの様に部屋の中へと躍り出た。
ガリアが通った後に突き出る罠の槍をピエターがオリーブの木鉈で切断していく。
時に罠に紛れて例の槍も飛び出すが、纏う風のおかげでなんなく避けることができていた。
槍が空を切る音とに槍が石畳に転がる音が交互に響く。
「思ったより罠って簡単に壊れるんだね。 もっと早めに試せばよかったよ」
「クコッケ」
「ある程度場所も確保したし、ちょっと余裕が出来て来たね」
音なく着地したピエターの足元から勢いよく槍が生える。
それを紙一重で躱すと槍が床に沈む前にその柄をがしりと掴む。
「捕まえた。 安全圏から槍を突くだけじゃいい加減飽きて来たんじゃないかい? おや、案外緩く握っているんだね。 このまま僕が貰ってもいいと言うことかな」
ピエターが槍を強めに引くと、部屋に変化が起こる。
いままで微動だにしなかったガーゴイルたちが一斉に動き出しこちらに向かってきた。
さらに床から隠し扉が4つ現れてそれぞれの扉からインプ3匹ずつがいてきた。
総勢15匹のモンスターがピエターたちを囲む。
「ここのボスはよっぽどこの槍がお気に入りのようだ。ガリア、僕はこの槍を抑えてるから雑魚の相手は頼んだよ」
返事の雄たけびと共に後ろ足を地につけたまま、翼をはためかせる。
ガリアは小さな風の刃を乱流に乗せて無数に放つ。
風の刃は扇状に広がりガーゴイル1匹を含む5匹のモンスターの体を引き裂く。
ガーゴイルの体には無数にヒビが入り、インプは細切れになって崩れた。
その様子を見た残りのモンスターは急いで距離を詰める。
ガーゴイルとインプ。
その移動速度はインプが勝る。
その結果、耐久度に劣るインプが先行して攻める形となってしまう。
そしてそれを見逃すガリアではない。
大袈裟に反転すると猫の脚と鶏の翼を最大限に活かして飛び掛かる。
右前足がインプの頭を掠めて床を捉え、その勢いのまま、着地点を軸とし全身を旋回し薙ぎ払う。
ほとんどのインプは対応できず床や壁に頭をぶつけて動かなくなる。
仲間は消えたが大きな隙ができた。
そう言わんばかりに、残ったモンスターたちが群がらんとする。
事実、ガリアは大技の反動で動きが止まっていた。
しかし前に進めない。
不審に思うガーゴイルたちが自身の両足のぞき込むと胴と腰がずれていた。
それがどういう意味か気付いた瞬間、ガーゴイルたちの上半身は石畳に落ちて派手な音を立てた。
あの薙ぎ払いは巨大な風の刃を放つための予備動作に過ぎなかった。
狙いは前方のインプではなく後方のガーゴイルだったのだ。
その攻撃の余波で残っていたインプも全滅していた。
「よくやった、ガリア。 迅速で見事な仕事なのさ。ああ、後1匹残っていたね。ウインドショット」
片手で槍を抑えたまま、ピエターが残りの手で空気の弾を弾く。
全身のヒビで動けずにいた最後のガーゴイルが崩れ落ちる。
直後入り口から気配を感じピエターは振り返る。
そこには熊程の大きさの兎耳の獣鬼が立っていた。
オリーブの木を両手で抱えている。
鉈の収穫にしようしたあの木だ。
力任せに引っこ抜かれたであろうその木には大地の付与魔法で補強されているようだ。
「ホブラビブリン? いやもっと大きい……ああ、リマロン君かい」
少し戸惑いの後、警戒を解き平常運転へとピエターは戻る。
「ボスを捕捉したよ。ここの真下さ。それと……」
床下への隠し扉の情報は力強いウサッの声でかき消された。
兎の怪物が走って、跳んで、石畳へとオリーブの木を叩きつける。
オリーブの木は床を貫通し穴をあけた。
穴を広げた後、リマロンは床下へと潜っていく。
槍からの抵抗が強くなる中、ピエターはその様子を眺めていた。
もちろん、槍は離さない。
程なくして槍から抵抗がなくなり引っこ抜くことに成功した。
穴からリマロンが出てくる。
その手には一回り大きなインプが握られていた。
【トリックインプ(BOSS)】
【ランクC】
「全く、リマロン君はメチャクチャなのさ。まさか床をぶち抜くなんて。まぁ、本当にぶち抜けたのだからそれも作戦として成立するけどもさ」
「ウサッ。ウサウサウサ」
「すまない。ラビブリン語はさっぱりなんだ。その姿じゃこっちの言葉は話せないのかい」
「ウサウーサ」
リマロンは手にした大柄のインプを床へ叩きつける。
トリックインプは他のインプ同様にあっけなく命尽きた。
「これでボス撃破だね。でも、ここから大変さ。このダンジョンが生きている以上、僕らへの妨害は続く。精霊様がくるまでそれを耐え続ける必要が……」
「ウサ?」
解説を遮られたピエターは遮った兎鬼の視線の先を追う。
入り口に気配。
先ほどとは異なり嫌なプレッシャーを感じる。
金属鎧が擦れる音ともに漆黒の全身鎧が現れる。
【ホロウナイト(BOSS)】
【ランクB-】
「まさか別ダンジョンのボス?」
漆黒の鎧は不気味に、そして静かにこちらの様子を窺っていた。




