7.ヒールスライム
俺は迷宮スキルについて考えることにした。
現在持っているスキルはこの通りだ。
所持スキル
【怖妖土】【ヨモギー】【マンドラゴラ】【コッコ】【ホーンラビット】【忌土】【ゴブリン】
元から使えたスキルが3つ。
影を倒して手に入れたスキルが4つ。
スキルはいずれもスキル名の物の召喚する効果だ。
召喚対象はモンスターや薬草、武器、罠など幅広い。
スキル使用にはマナのようなものを使用している。
だがきっとマナではない。
最初は使用感が似ていたのでそう思っていたが、大きく違う点がある。
最も違う点のは回復手段だ。
マナは魔法のスタミナのようなもの。
使えば、空気中からマナ取り込み、時間をおけば回復する。
しかし、スキルに使用したものは回復の様子が見られない。
回復を感じられたのは、あの白い人影を倒した時のみだが、白い人影を倒すにはスキルを使う必要がある。
安全な回復手段とはとてもなり得ない。
現状は回復できない使い切りの力と考えて大事に使う必要がある。
このような力に俺には心当たりがない。
もともと魔法の類は得意ではない。
実践はもちろん、座学も含めてだ。
素人考えで考察を続けても結論は出ないだろう。
視点を変えてよう。
人影を倒して手に入れたスキルが4つ。
だが、俺が攻略した部屋は5つある。
どの部屋にも人影がいたが、1箇所だけいなかった部屋がある。
最初の部屋から見て南東の部屋、毒ガスのトラップがあった場所だ。
人影同士は争い合っていた状況を考えるとゴブリンの主ににやられたのであろう。
そう考えると、攻略は急いだ方がいいかもしれない。
なぜなら、人影のモンスターが自身を倒した相手にスキルを渡す性質があるかもしれないからだ。
人影同士が吸収し合いより強力なモンスターになる可能性も十分にある。
無事目的地に到着し、ゴブリンがこん棒両手を装備している。
いくら器用と言っても、ただのゴブリンに二刀流は無理だろうに。
とは言っても探索するにはホーンラビットとゴブリンの2匹じゃ心許ない。
俺は【ゴブリン】を使う。
冷や汗が流れるような感覚。そして悪寒。
この感覚に俺は危機感を覚える。
まだ力には余裕があるはずだ。なのに、身体が不調を訴えている。
この力は単に迷宮スキルを操るためのものではないのかもしれない。
力を使い切るはまずい。でも、ダンジョンの探索には使わずにはいられない。
せめてを召喚獣を無駄死にさせないようにしよう。
二刀流ゴブリンにこん棒1本を新入りに渡すように指示を出すと俺は未探索エリアへ向かう。
まずは地図を描いた部屋から近い南側から行こう。
中にいたのは見たことのない白いスライム。
いつものように黒い塊の中にいるものの、他の部屋に比べて明るい。
【ヒールスライム】
【ランクE】
スライムは種類が多く、強さもピンキリ。
決して見た目だけでは判断してはいけないが、ランクは指標の1つになる。
経験上、ランクと戦力は比例している。
ゴブリンの方が高ランク。いける。
ゴブリンの振るうこん棒によってスライムが潰れる。
その度にスライムが床から湧き出てくる。
その間もだんだんと黒い塊が縮んでいき、やがて人影を締め付ける。
いつものように人影が潰れると思ったが、人影は球形となり俺の体にスーッと入っていった。
【迷宮スキルを獲得しました。】
【シロヒカリゴケ】
【ランクD】
【暗闇で淡く光るコケ。配置した部屋の土のマナを少し高め、闇のマナを少し抑える。夜目の効かないモンスターが活動しやすくなるが、冒険者も動きやすくなる。】
な、なんだ、あの玉。
ひとまず、体調に不調はない。
むしろ若干よくなっている。
ゴブリンが最後のスライム退治を終える。
こん棒もまだ使えそうだ。
ただ、木製なので少し無理をすればすぐに壊れてしまうだろう。
先に仕事を終えたゴブリンが北側の出口を気にしている。
出口は1つ。
このまま進んでみよう。
部屋の中央には俺の体長の2倍はある大きな岩がある。
それ以外には特に変わったものはない。
奥に出口があるし、そこの影にやられてしまった後なのだろうか。
とりあえず、先へ進もう。
ゴブリンの1匹が岩山を横切ろうとする。
突然、ゴブリンは吹っ飛び壁へ激突した。
トラップか。いや、違う。
それは岩山が腕を振るった結果だった。
床下に埋まった足を取り出すと人を模したその全容を現した。
【ロックゴーレム】
【ランクC】
後ろに白い人影。待ち伏せだ。
撤退しろ。
残ったモンスターたちにそう念じ、全力で元の部屋に戻る。
振り返る。
ゴーレムは追ってこない。
部屋の中央から動かず、こちらを窺っているようだ。
…しまった、ホーンラビットが着いてきてない。
ウサギに撤退の戦術は取れても、命令でその概念を理解するのはまた別だ。
調教をした個体なら別だがあいつは召喚したばかり。痛恨のミスだ。
俺にはウサギ1匹のために部屋に戻る度胸はなかった。
ゴーレムは動きは鈍く、追撃は諦めたのだろう。
もしくはラビットが囮になってくれているのだろうか。
俺は頭を抱える。
硬い岩石の巨体。
あれを傷つける戦力はこちらにはない。
どうすればいい。
このままではロックゴーレムは倒せない。
すぐに答えは出ない。この部屋の攻略は後回しだ。
俺は生き残ったゴブリン1匹を連れて、最後の未探索エリアへの入り口があるコッコのいた部屋へ向かった。
【モストータス】
【D-】
部屋には1匹の大亀がいた。
その甲羅は苔に覆われていて、半端な攻撃は受け付けないだろう。
ランクはロックゴーレムより低いが、おなじ防御力に長けるモンスターだ。
更に部屋の隅には池があった。中には影が見える。
どうやら1匹だけではなさそうだ。
【池】
【E】
土がスキルとしてあるのだから、池がスキルでも不思議はない。
こちらのモンスターは相手と同ランクのゴブリン1匹。
モンスターの数、地の利ともに相手が勝っている。
ここも今仕掛けるべきではない。撤退だ。
コッコの部屋に戻ると俺は頭を抱える。
モストータスとロックゴーレム。
どうしようか。攻略のためには火力が足りない。