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69.串刺しの遺跡、再戦

 「リマロン君。そこには罠がある近づかないように」

 「えー、駆け抜けちゃえば当たんないよ?」

 「後続に当たるから! お願いだから緊張感を保ってくれたまえよ」


 ピクニック気分で歩くうさ耳の獣人少女の後姿を見ながらダークエルフの少年はため息をつく。

 最後尾を付いてくるコッコグリフのガリアはそんな主人の様子を気に掛けつつも周囲への警戒を怠っていない。

 ここは南のダンジョン、串刺しの罠が待ち構える遺跡の五部屋目。

 ここまで順調に進みすぎた結果、リマロンは完全に気が緩んでしまっていたようにピエターには思えた。

 

 「今回の目的ちゃんと覚えているよね? これは精霊様の命にも係わる……」

 「分かってる、分かってるって。だからこそこんなところでピリピリしててもしょーがないじゃん。ね、ピーター」

 「ピエターなのさ。その呼び方はわざとなのかい?」


 ふと、ピエターの両足が異なる振動を感知した。

 ダークエルフの鋭敏な感覚は石畳の上でより効果を発揮する。


 「曲がり角に2匹」

 「ほい」


 突如轟音と共に物陰からインプが2匹姿を現す。

 誰一人構えたりしないのはそれらが既に戦闘不能なのを知っているからだ。

 土波の魔法に吹っ飛ばされた哀れなインプたちは既にこと切れていた。


 「やれやれ。もっと静かにやれないのかい」

 「どうせバレてるし今更じゃない? それよりどうだった? ノーモーションからのカレーな私の魔法」

 「鈍重なグランウェイブの魔法を死角の敵に当てる技量はお見事なのさ。そして、自分が魔法職である自覚があるなら先頭歩くのはやめてくれるかい?」

 「あっ、ボスからヒーラーだから真っ先に戦うなって言われてたんだった! じゃあ、先頭はガリアに譲るね」

 「僕じゃダメなのかい?」

 「だってピーター遅いじゃん。だいたいソイちゃんが下見してくれてたんだから、ちゃっちゃと例の部屋まで行けばいいんだよ」

 

 そう言うとリマロンはガリアの後ろに回り込み、お尻を叩いた。

 ガリアは怪訝そうにリマロンを一瞥した後、ピエターを見つめる。

 ピエターはため息をついて一拍置いて頷く。

 クケッと鳴いて、ガリアは渋々といった様子で先頭に出た。

 鶏頭のグリフォンは罠のないルートを的確に選びながら軽やかな足取りで進み始めた。


 「よーし、どんどん進んでいこー」


 一匹と二人は遺跡の奥へとどんどん進んでいった。

 力も経験もあるこのパーティの進撃を妨げるのにインプや槍の罠では足止めにならなかった。

 あっという間に一行は例の石像の部屋へとたどり着いた。


 「到着だね。うわぁ、趣味の悪い石像でいっぱい」

 「リマロン君、手前から2番の右手の像がガーゴイルさ」

 「とりあえず、割っとく?」

 「いや、まずは部屋の観察から始めるのさ。このガーゴイルも部屋のギミックと密接に関係しているかもしれない。まだ起動させちゃダメなのさ」


 ピエターはガーゴイルと十分に距離の空いた場所に荷物を降ろすと部屋のあちこちを調べ始めた。

 ガリアはピエターに追従し、リマロンは弁当のマンドラゴラを齧って待っていた。

 大した時間はかからずにピエターは合点がいったという具合で言葉を紡ぎ始めた。


 「全く、単純な仕掛けじゃないか。非難する訳じゃないが、ソイ君はもうちょっと注意力を付けてくれても……」

 「はじめての探索だったんでしょ。しかたなくない? で、今からなにするの?」

 「ここにあるスイッチを同時にすべて押すのさ。でも、僕たちの体重じゃ押せてせいぜい1つが限度。そこでガーゴイルさ」


 ピエターが石像に化けたガーゴイルを指さす。


 「あれでスイッチを押すのさ。ソイ君の話だとガーゴイルは魔法攻撃で動かなくなり、物理攻撃で砕け散った。今回はガーゴイルの体が必要なので魔法で仕留めることにしよう。僕たちの風魔法だと相性が悪そうだからリマロン君にお願いしてもいいかい? ああ、土波だと物理的な衝撃が強すぎるからできれば他の魔法で仕留めて欲しいのさ」

 

 リマロンはほーい、と気の抜ける返事と共に立ち上がり、石像に化けたガーゴイルの側に近づいていく。

 攻撃圏内に入り、ガーゴイルは突如動き出す。

 しかしガーゴイルの爪が届くよりも早くリマロンが石弾を掌から飛ばした。

 

 「あ」


 ガーゴイルの首がはじけ飛ぶ。


 「あー、頭なくなっちゃったけど、大丈夫?」

 「まぁ……重石になれば問題ないのさ。それをここのボタンまで運んでくれたまえ」

 「えー、おもーい。手伝ってよ」

 「僕としたことが。レディに不躾なお願いだったね。いつもパワフルな君だからこのくらい平気だと思ってたよ」

 

 2人で部屋中央にあるボタンの一つにガーゴイルの死体を乗っけるとずしりとボタンが沈む。


 「これで1つ目さ。押さなきゃならないボタンがあと3つある。あそことあそこの2つがガーゴイルだからこれも運ぶのさ」


 手早くガーゴイルを()()しを動かすダークエルフと獣人の少女。

 順調に地面に沈むボタン。


 「最後に僕たち全員で4つ目のボタンに乗れば仕掛けが動くはずさ」


 最後のボタンに乗る一行。

 しかしボタンは沈まない。


 「あれ、おかしいな。僕たちじゃ重さが足りないのか。なにか見落としが…」

 「ピーター、そこどいて」


 ピエターは返事をする前に嫌な予感がしてさっと飛び退く。

 ピエターが乗っていた位置にガーゴイルの台座がどしんと落ちてボタンを圧し潰した。


 「ガーゴイルの乗ってたやつも動いたよ。ねぇ、私、お手柄?」

 「なるほどね、お手柄さ。でも、もうちょっと仲間に気遣いがあってもいいと思うのさ。……というかその台座投げ飛ばせるならガーゴイル一人で押せたよね? なんなら石像押すのも余裕だったよね? 僕の手伝い、必要だったかい?」

 「というか、私を魔法職というならもっと積極的に力仕事させないでよ、前衛職」

 「僕は頭脳労働、君は肉体労働。役割分担さ。それに僕は戦士(ファイター)じゃないんでね。そもそも君は僕の謎解きの最中に休憩して……」


 ゴゴゴゴゴ、という轟音と共に部屋が揺れる。

 北側の壁に隠し扉が現れる。


 「クッコケ!」

 「ああ、分かってるよガリア。気を引き締めるよ。リマロン君、ここからは慎重に行ってもお小言はなしで頼むよ」

 「そだね。ボスモンスターもあの()()()()も出てくるかもだし、油断はなしで行かないと」

 「も、もやもや?」


 隠し扉がひとりでに開く。

 それはまるで攻略者たちを誘っているようにも見えた。

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