68.蔦の迷路、再戦3
状況は最悪だ。
敵の待ち伏せした敵に先手を取られて防戦一方の展開になってしまっていた。
「いや」
ソイはが呻く。
ローブが降り注いだスライムを吸って中に染み出しているかもしれない。
このまま身に着けていると酸で肌が焼かれてしまう。
「ソイ、ローブを脱げ」
俺は彼女に命令した。
理由を説明してる時間が惜しい。
ソイはローブを脱ぎ捨て薄着となった。
ひとまず危機は脱したが、次に攻撃を受けるといよいよまずい。
「ガシャシャシャ……」
スカルバケマッシュも辛そうだ。
そもそもこいつは防御力が低いモンスター。
巨大な蔦の1本を1匹で受け止めるは相当無茶な行為だった。
このままだと確実に耐えられない。
無理にでも攻めに回らないとまずい。
俺はソイに問いかける。
「ソイ、ファイアーボール以外に何かないのか?」
「えっと、えっと……も、もちろん、ありますわ。エンチャントファイア!」
ソイはパニック気味に魔法を放つ。
それは炎の付与魔法。
本来、武器に炎を纏わせたり、安全に薪に火をつけたりするために使う魔法だ。
補助魔法であるはずのそれは焦りのためかなぜかラフレシアンの蔦の一本へ目掛けて飛んでいく。
しまった。
ソイを落ち着けるのが先だった。
戦闘慣れしてない彼女が咄嗟に最良の選択が出来るわけがない。
これならファイアーボールを使わせた方がましだったかもしれない。
そして魔法は彼女の狙いとはずれ、蔦を受け止めるフレアバケマッシュの群れに着弾した。
炎の手のような魔物に本物の火が宿る。
活気づいたフレアバケマッシュたちは見事蔦を押し返すことに成功した。
押し返された蔦は炎上しながらのたうち回っている。
「や、やったのかしら……?」
対象が燃えダメージを受けるためエンチャントファイアは生物には使わない。
今回は、炎と相性がいいモンスターだったため問題なく強化につながったようだ。
偶然だろうが、突破口が見えてきた。
ここから攻めに転じる。
そう思った矢先、ネペンテスからスライムが発射されるのを確認する。
もちろん狙いはソイだ。
さきほどのスライムの雨がくる。
「いや」
ソイが恐怖に震えた声を上げる。
俺だって、この間ただ指示に徹していたわけではない。
周囲の支配領域を広げていた。
これで比較的大きなものを召喚できる。
俺は迷宮スキル【鉄鉱岩】を使う。
ソイを覆うように岩のテントを召喚する。
敵は待ち伏せに成功したことで地の利を得たと思っているだろうが、こっちはダンジョンだ。
支配領域内なら地の利はこちらにある。
ズシン、とテントに衝撃が走る。蔦で殴られたのか。
抑えていたモンスターは?
「あらまっくら。どういうこと?」
「急場しのぎだ。大きな蔦は後2本。急いでスカルバケマッシュの援護に行くぞ」
「そうよ。助手! 大丈夫?」
ソイがテントから飛び出す。
心配なのはわかるが、無策に突っ込まないでくれ。
俺も慌てて後を追う。
外に出ると状況が一変していた。
そこには燃え盛るフレアバケマッシュを武器代わりに暴れ回るスカルバケマッシュの姿があった。
彼が抑えていた蔦は既に炭と化していた。
無数の小さな蔦を潜り抜け、スカルバケマッシュは本体に向かって猛進している。
「行っちゃいなさい! 助手」
ソイがファイアーボールを飛ばし援護する。
スカルバケマッシュ目掛けて放たれたスライムの砲弾は全て空中で燃え尽きた。
密集状態が解消されたことでソイも思う存分火の玉を放てる。
形成逆転だ。
ラフレシアンの本体の前に辿りついたスカルバケマッシュはガシャシャと愉快そうに笑う。
炎の手でスライムの皮膚に穴を焼き開けるとその中に触腕を伸ばしラフレシアンの花弁の中央に突っ込む。
それはよくお世話になった闇のマナの吸出しにも似ているが決定的な何かが違うと感覚的にわかった。
なんとなくあの人草吸魂の儀式に近いものを感じる。
スカルバケマッシュはラフレシアンの力を吸い取っているのだろうか。
ラフレシアンは蔦やスライムで抵抗するが、周りを守るフレアバケマッシュに尽く反撃の手を潰されいた。
こちらを攻めていた最期の大蔦が引っ込む。
ラフレシアンにはもう攻撃に回す余力がないのだろう。
そう思った矢先、なんと大蔦を思いっきりぶん回す。
大蔦は中腹でちぎれ、竜の頭のような先端部がこちら目掛けて飛んでくる。
「ソイ!」
「わかってますわ」
緑の竜頭にファイアーボールが直撃する。
しかし、迎撃するに十分な火力ではなかった。
多少勢いが削がれたものの炎を纏い巨大な火の玉になった竜頭がソイへ襲い掛かる。
「うそ、いや」
「大丈夫だ」
巨大な緑の砲弾がソイに多い被さらんとする。
その前に俺は飛び出た。
もちろんこの半透明の体では透過して受け止められないだろう。
だが問題ない。
「分解」
「えっ」
「言っただろう。迷宮スキルで召喚されたものは死んだり壊れたりするとソウルに分解できる」
俺は散り散りになった光の粒子を回収しながらそう答えた。
「俺たちの勝ちだな」
「え……ええ」
「気のない返事だな」
「ごめんなさい」
「いい。ゆっくり休め」
ラフレシアンはまだ死んでいないようだが合体していた植物モンスターはほぼ全滅。
そのラフレシアンもスカルバケマッシュに拘束されて力を吸われている最中だ。
「ソイ、スカルバケマッシュのあれが済んだらダンジョンに戻っていろ。俺はソウルの回収が済み次第リマロンたちの援護に向かう」
残党のボスモンスターでもこの強さなのだ。
意志が残っているダンジョンではもっと強力なはずだ。
果たしてリマロンたちはうまくやっているだろうか。




