67.蔦の迷路、再戦2
隠し部屋の中は今までの部屋以上に蔦をびっしりと生やしていた。
さらに先へ部屋が続いているようだ。
時間稼ぎのためか。
先は急ぎたいがこの先の戦闘に備えてソイの魔力は温存したい。
ここは俺が処理する方がよいだろう。
「まさかこんなところで活躍の機会があるとはな」
俺は迷宮スキルを使うと、地中から植物が生えて巨大な実が実る。
【フルーツバロメッツ】
【ランクD】
その実は羊に変化するとすごい勢いで蔦をムシャムシャと食べ出した。
俺は次々とバロメッツもどきを召喚した。
結果、10匹以上の玉羊が蔦を懸命に齧りついている光景が広がった。
火の手に比べるとそのペースはゆっくりだが、確実に蔦を侵略している。
「ソイ、今のうちに戦闘準備整えとけ」
「ねぇ、こんなにのんびり進んでていいの? 早く行かなきゃ逃げられちゃうじゃなくて?」
「俺たちの目的はこのエリアの侵略だ。逃げたなら好都合だろう。でも、やつはきっと迎え撃ってくる」
「どうして逃げないって言えるの」
ソイの疑問に俺は地図を用いて答える。
□-□-■-□
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□ ?-□ □
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→□ □-□
↓
□:踏破済 ■:臭気部屋 ?:未探索
ー:出入口 →:扉
「この先が袋小路だからだ。地図を見れば未探索の部屋はあと2部屋。そしてそのどちらの部屋も他の道はない」
「南側のダンジョンに出入口があるかもしれないじゃない」
「可能性は低い。このダンジョンの基本戦術は待ち伏せだったはずだ。効率よく罠にかける事を考えるとダンジョンの出入り口は少ない方がいい。新しい持ち主が改築した可能性も考えられるが、今は他のダンジョン攻略に忙しい。そんなことやっている暇はないだろう」
ソイはぶすっとした顔をこちらを見ている。
俺が得意げに話しているのが気に入らないのだろうな。
「そういうわけだ。既に時間を与えすぎた。ここは開き直ってじりじりと攻めるが確実だ。これでも食べて元気をつけておけ」
俺は密かに後方につけていたラビブリンの支援班の1匹に命令してとある袋を持ってこさせた。
袋を受け取ったソイは中から白っぽい緑色の丸いものを取り出す。
「チビキビの実とヨモギーで作った団子だ。うちには人が食べれるものがあまりなくてな。こんなものしか準備できなかった。すまないな」
俺の言葉を聞いてソイの瞳に期待の光が灯る。
それを勢いよく口に運ぶ。ガリボリと不快な音が響く。
ソイの瞳あら輝きが一瞬で失われる。
「……硬っ。 なんで熱を通していませんの。茹でたり蒸したりしていれば美味しそうなものを。まさか生キビの団子だなんて……ちょっと! アナタ、ホントに元ヒューマなんですの? 流石に冒険者なら簡単な料理くらい作ったことあるはずよね?」
「すまん。返す言葉もない」
「何もないよりましですわ。お水があればなんとか食べられそうですし」
おおよそ団子とは思えない咀嚼音を出しながら、ソイは手早く食事を終える。
「そんなことより先を急ぎますわよ。あのお二人もアナタが行かないと最後の仕上げができないのでしょ。攻略は早いに越したことはないですわ」
「魔力は……大丈夫か?」
「ええ。任せなさいな。 はぁぁッ!」
爆炎が蔦の塊を弾き飛ばす。
烈火の如きソイの勢いに任せて一気に奥の部屋まで進む。
そこには巨大な花型のモンスターがいた。
【ラフレシアン】
【ランクC-】
葉も茎もない花のみのモンスターだと聞いていたが、その姿はまるで違った。
花の付け根から幾重にも伸びた蔦が重なり、巻き付き、絡み合い大きな体を形成していた。
【グレープアイヴィー】
【ランクD】
その姿を例えるなら無数の頭を持つ蛇竜ヒュドラのようだった。
ウルフファングリーフを据えた蔦が蛇のようにうねっている。
1本1本が竜の首のように見えた。
本体の花の周りにはネペンテス・スライプールが生えてる。
袋から絶えず湧き出すスライムが花を包んでいた。
それはてらてらと鈍く光る鱗のない竜の肌とも思えるものだった。
【ウルフファングリーフ】 【ネペンテス・スライプール】
【ランクD】 【ランクD】
ここにきて炎の防衛策は講じてきたようだ。
だが不十分だ。あのスライムの体に炎の攻撃は十分通る。
少なくとも爆炎一発で本体の花が死ぬことはないという程度だ。
防御面は見掛け倒し。
ここは下手に時間を与えず、ごり押しすべき。
そう思った時には植物の竜はもう動き出していた。
ウルフファングリーフを付けた蔦3本がソイに襲い掛かる。
しまった。
ラフレシアンは完全にソイをマークしている。
1本はファイアバケマッシュたちが鷲掴み、1本はフルーツバロメッツたちが壁となって軌道が逸れる。
そして最後の1本はスカルバケマッシュが受け止めていた。
「ガ……ガシャシャ」
スカルバケマッシュは全力だ。
ラフレシアンとスカルバケマッシュは同じランクC-。そう思えない力の差を感じる。
味方モンスターと合体することで、その力量に差が生じているということか。
「く。このままファイアーボールを放てば助手たちにもダメージが……」
ソイは攻撃をためらっているようだ。
「ガシャ……シャ」
「そんな、撃てません」
スカルバケマッシュはソイに自分ごと攻撃するように促しているようだ。
「キャ」
スライムの雨が降りかかる。
本体付近のネペンテスからアシッドスライムが発射されていた。
スライム雨を受けたソイのローブは変色し縮れてしまっている。
幸い強力な酸ではないが大量に浴びるとまずい。
装備が溶けて薬傷を負う前にこの攻撃をやめさせないと。
戸惑うソイと守りに必死なバケマッシュの背を見ながら俺は必死に打開策を探った。




