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66.蔦の迷路、再戦

 「ホントにこんな事していいわけ?」

 「攻略に必要なことだ。やれ」


 ソイは生い茂る蔦の壁に火の玉をぶつける。

 植物と言えど水分はある。乾いていない生の植物は意外と燃えにくい。

 それでも問答無用で燃やしてしまえるだけの火力がソイの魔法にはあった。

 ここは東のダンジョン、蔦に覆われた迷路の二部屋目。

 その部屋は一部屋目同様に火の海になりつつあった。


 「帰り道の確保できてるんでしょうね」

 「迷宮スキルで召喚されたものは死んだり壊れたりするとソウルに分解できる。当然……」


 俺は燃え盛る蔦に手を翳す。すると蔦は光の粒子に変化し掌に吸い込まれる。


 「このように分解できる。……ソウル量が低いな。モンスター性のない普通の植物なのか。この程度ならソウル回収は後回しでいいだろう。適当に火の手を広げたら次の部屋に進むぞ。どんどん焼いていこう」


 俺が考えた東のダンジョンの攻略法。

 それは燃やし尽くすこと。

 こっちは相手の陰湿な戦法はピエターのおかげで十分把握できている。

 南のダンジョンもそうだったが、罠に長けるダンジョンの攻略は経験不足なソイでは荷が重いだろう。

 ならばどうする。


 俺は自分が罠を張ったとして何が一番怖いか考えた。

 思い出したのはワーヒポポタマス戦。

 モンスター性能に任せてのなんのひねりもない特攻。

 案外あれが一番肝を冷やしたのではないか。

 あれと同じことを今の俺たちの手札で出来ないだろうか。

 ダークヒューマとなったソイにはワーヒポポタマスのようなフィジカルはない。

 しかし、溢れんばかりの魔力があった。

 ならばその魔力を使ってゴリ押しをしてみよう。


 ソイにとって最も怖いのは罠だ。

 しかし罠を調べるのには時間も気力も使う。

 ならば、調べずに一帯を焼いてしまえばそんな労力はかからない。

 その結果がこのダンジョン焦土化作戦である。


 次の部屋へ進み、ソイは新たに火球を飛ばすそうとするのを見て俺は声をかける。


 「先はまだ長い。その魔力は温存しておけ。せっかく助っ人を呼んだんだ。任せてみよう。バケマッシュに指示を出せ」

 「……。スカルバケマッシュ、お願い」

 「ガシャシャ!」


 ドクロ顔のキノコの魔物が声を上げると炎の手のような魔物がまだ焼けていない蔦を掴む。

 掴まれた蔦からは煙が上がりその部位から徐々に炭化が進んでいく。

 

 【フレアバケマッシュ】

 【ランクD+】


 蟻塚に住んでいるタイマツダケのバケマッシュだ。

 本来は野生のモンスターで俺の支配下ではない。

 しかし、彼らの親玉のスカルバケマッシュがソイにテイムされて、さらにソイを俺が配下に加えた。

 その結果、俺の指示を一人と一匹を介すことで伝えることが可能になっていた。

 スカルバケマッシュが俺を認知できれば一手早まるのだが……次に遺志を手に入れる機会があればスカルバケマッシュに与えてみてもいいかもしれない。


 「そろそろ支配領域も広げるか」


 俺は自身のソウルに意識を集中する。

 すると俺や俺の配下のモンスターを包む支配領域が拡張していく。

 久々の感覚だ。

 そして俺も成長していると言うことか。

 昔では考えられない速度でその部屋の支配が完了した。

 部屋を完全に支配するには部屋中のモンスターの殲滅が条件だったはずだが、まだ蔦は全て燃え切っていない。どういうことだろうか。

 

 違和感に意識を取られていた俺は次の部屋への入り口を起こった変化に気付くのが遅れてしまった。

 なんと次の部屋への入り口に蔦が巻き付いて蓋をしてしまったいたのだ。


 ん。

 俺たちがいる部屋まではみ出した蔦をよく見ると、その周りには敵の領域である黒い靄がない。

 なるほど、これが理由だったか。

 領域を纏っていないということはこの植物は野生であり、今のダンジョンの主の支配下にないということになる。つまり、敵の意志が産み出したモンスターが最初からいなかったために簡単に支配領域を伸ばすことが出来たということか。


 「これでここの意志がやられたことが確定したな」


 推論で立てた作戦だったが、班分けがうまくいったようで少し安堵する。


「手早くこのエリアの支配を完了させて、早くリマロンたちと合流しなければな。そのためにもこの蔦を……」


 ふと、そんな俺の様子をソイが睨んでいることに気付く。

 なにか言いたげだが、口に出さない。そんな様子に痺れを切らして俺は尋ねた。


 「俺に何か言いたいことでもあるか」

 「……ワタクシ、失敗したのよ。何も罰とかないわけ?」


 こいつは何を言っているのだろうか。


 「調査に行ってボロボロで帰ってきて、挙句の果てに判断を間違った報告をしたのよ。失敗したの。どうして、普通に調査を続行させているのよ」

 「おまえ、うちを闇の地下組織とかと勘違いしてるんじゃないか。ちょっとの失敗なんかで罰なんて科すわけないだろう。だいたい今、うちのダンジョンにお前のような戦力を遊ばせておく余裕はない。それに失敗したのはおまえでなく俺だ。俺の指示ミスだよ」

 「そんなこと」

 「まさかいままでずっとそれを引きずって機嫌が悪かったのか。だったらもう気にするな。今回の攻略で成果を出せばちゃんと報酬も渡すぞ。大丈夫だ。おまえはよくやっているよ」


 俺は態度に出さないようにしていたが、内心で驚いていた。

 反抗心の塊のソイが、まさかこんなことを言い出すとは思っていなかった。

 案外責任感の強い性格なのかもしれない。

 帽子を深く被っているので表情は見えないが、俺の言葉に動揺しているのか。


 「どうした? 大丈夫か」

 「……のくせに急にやさし……いでよ。ああぁもう、ファイアーボールッ!!!」


 ソイがなにかぼそぼそと呟いてファイアーボールを放つ。

 いままで見た中で一番強力な炎だった。

 入り口を塞いでいた蔦は散り散りになった。

 

 「いい火力だな。さぁ次の部屋に行くぞ」


 こびりついた蔦の燃えカスをソウルに分解すると入口へと俺たちは入っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ついにこの部屋まで来たか。

 俺たちはとある部屋の入り口の前に立っていた。

 ピエターのマップによるとこの先はあの臭気で満たされた部屋。

 あのラフレシアンとかいう指揮系能力を持つ植物モンスターのいた部屋だ。

 もちろん臭気がキツイとわかっていて、わざわざ中へ飛び込むなんて真似はしない。


 ピエターの話だと大部屋に近かったという印象を持っていたが、蔦の壁が点々と立ち、部屋の奥は見通せない。

 とは言えいままで攻略してきた部屋は天井まで伸びた蔦の壁で覆われていたので、視認性いままでの部屋よりよい。こちらの油断を狙っている造りだ。確実に罠が張ってあるだろう。


 「どうやら部屋の外までは匂ってこないようだ。ソイ、ここから燃やせるか? ……ソイ?」

 「な、なによ。も、問題ないわ。蔦を消し炭に変えるくらい余裕よ。部屋全てを火の海に変えてやるわ」

 「そこまでやるとおまえも侵入出来ないだろう。適度に燃やせ」


 大きな火の玉が曲線を描き臭気部屋の中央付近に落ちる。

 蔦の壁が崩れ、燃え上がる。

 陰に隠れていたウルフファングリーフが燃え上がる蔦にかみつき切り落とす。

 天井から垂れ下がるネペンテス・スライプールが袋からスライムを落して消火を試みている。


 明らかに他の部屋に比べて炎への対応が合理的だ。

 指揮官は確実にいる。


 「ファイアバケマッシュたちに攻めさせろ。指揮官モンスターを炙り出すぞ」

 「助手!」

 

 ガシャシャ、という叫びと共に炎の腕のようなモンスターたちが臭気部屋へ入り込む。

 食獣植物は避け、ソイの炎を浴びていない蔦を入念に握り燃やしていく。

 

 「そろそろ入っても大丈夫だろう。行くぞ」


 俺とソイ、スカルバケマッシュは臭気部屋へと入った。

 ソイの表情を確認するが、これと言ったリアクションはない。

 臭いは大丈夫そうだ。

 

 「ねぇラフレシアンとやらはどこよ? 燃えカスは見当たらない。きっと先の部屋に逃げたのね。正面の出口が塞がれるわ」


 部屋を見渡すと確かにピエターの話にあった巨大な花のモンスターの姿はない。

 正面の出口が例の如く外側から蔦で塞がれていた。

 今まで通り逃げたように見せかけたかったのだろうが、臭いでやられていない頭なら前回のピエターだって違和感に気付いただろう。

 強烈な臭気、練度の高い植物モンスターが配置されている、ここは獲物を仕留めやすい部屋だ。

 そのはずなのに、わざわざ直線の短距離で部屋の出口同士が近いのはおかしい。

 ここは得物を仕留める部屋じゃない、遠ざけるための部屋だったのだ。

 

 「逃げたには間違いないが、そっちじゃない。右の壁だ。よく見てみろ」


 壁にまとわりついていた炭化してボロボロの蔦を俺は分解する。

 そこにはピエターの報告にはなかった別の部屋へ続く入り口が現れた。


 「行くぞ。この先に例のモンスターがいる」


 俺たちは南に現れた隠し部屋へと歩みを進めた。

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