64.串刺しの遺跡2
その後もインプと罠による陰湿な攻撃はワタクシたちを苦しめていった。
ある時は天井や壁から槍が生えてきた。
ある時は天井の隠し部屋からインプが手槍を投げてきた。
その度に私たちはインプを焼却しながら先へ進んでいった。
そして5、6部屋くらい進んだかしら。
他よりも開けた部屋に辿り着いた。
「もう。次は何なのよ。正々堂々姿を見せなさいよ! 燃やしてあげるから」
「ガシャシャ!」
石像が置いてある部屋の中にはあからさまなボタンが床にいくつかあった。
「こんな見え見えの罠、誰が引っかかるもんですか。それにしてもこれは悪魔がモチーフかしら。悪趣味な石像ね」
ワタクシが石像に近づこうとするとスカルバケマッシュが鋭くガシャ、と鳴く。
ぴたりと止まったワタクシの目の前を大きな鉤爪が通過する。
【ガーゴイル】
【ランクD+】
「くっ。これモンスターなの? 燃え散りなさい」
ワタクシは火の玉を飛ばしつつ石像の魔物と距離をとる。
咄嗟に放った炎は十分にマナが練れてないものの、怒りにより火力が増しており無機物であるはずのガーゴイルに燃え移った。
ガーゴイルは地面を転がりもがき苦しむ。
程なくしてその石の体のモンスターは横たわったまま動かなくなった。
「びっくりした……。ナイスよ。助手。にしても石像に化けるモンスターがいることは知ってたけど、まさかこんなところで出会うなんて……。これ、他の石像も大丈夫よね? ちょっと調べてみて」
ガシャシャ、という返事と共にバケマッシュが他の石像を叩いたり殴ったりしたけど、ほとんどの石像は動くことはなかった。1つだけ動いたが地面に嵌っていないだけだった。ガーゴイルはあそこで倒れている1匹だけみたい。
「他は大丈夫……っと。ちょっと疲れましたわ。ここで休憩にしましょう」
ワタクシはへたり込むように部屋の中央に座り込んだ。
スカルバケマッシュもワタクシの側まで来て、黒い靄を体の中に引っ込める。
触腕や靄がない姿を見ると、ただのドクロっぽいキノコにしか見えない。
ワタクシはお気に入りのカバンから干し肉を取り出しスカルバケマッシュと分け合った。
本来ならば、闇魔法のおかげでたくさん入って軽い魔法のカバンだったが、ただのカバンだ。
「毎日毎日保存食。ダンジョンに入ってからずっとですわ。いい加減、温かいご飯が食べたい……」
「ガシャシャ」
「えっなに? あっつ。待って助手、気持ちだけで十分よ。十分だから! あちっ……あ、落としちゃった」
スカルバケマッシュが触腕を伸ばし私の干し肉を掴むと、干し肉が熱を帯びる。
しかし熱が強すぎて手を放し地面に落してしまった。
これ、まだ食べれるかしら。
もともと食料が尽きかけてた上に、闇のカバンが壊れたせいでもうほとんど食料が残ってない。
無駄にはしたくないけれど……。
そういえば、ダンジョンに人の食べ物ってあるのかしら?
畑はあるみたいだけど、マンドラゴラ以外に何か育ててる?
リマロンって子はあれをボリボリ食べてたけど……まさか、ね。
というか、食事に限らずあのダンジョンって人の住める場所なのかしら。
仮で渡された部屋も小さな洞窟みたいだったし、人の住めるような家や代わりの服なんかもあのウサギちゃんたちに作れるとは思えないけど。
殺気。
頭ではなく体で感じた危機感が、ワタクシの体を無意識に動かしていた。
ワタクシが先ほどまで座っていた地面が砕ける。
石像の魔物がその石の腕を叩きつけた結果だ。
「どうして……?」
焼き殺されていたはずのガーゴイルの姿が消えている。
つまり。
「さっきのあれは死んだふりってことかしら。やってくれるじゃない。助手、足を狙いなさい」
「ガシャシャ」
バケマッシュが触腕でぶん殴る。
右足の脛にヒビが入る。
「そこっ」
ワタクシはヒビ目掛けてファイアーボールを放つ。
鋭く放たれた小さめの炎の弾丸は着弾後に爆発しガーゴイルの右足を砕く。
ガーゴイルは自重を支えられなくなり倒れこむ。
「助手っ」
「ガシャ、ガシャ、ガシャ」
起き上がろうともがくガーゴイルの頭を触腕で掴むと、スカルバケマッシュが何度も地面に打ち付けた。
4,5回程でガーゴイルの頭が砕かれると、石の体が砂へと変わっていった。
気を緩めかけた時、魔力にも似たエネルギーの反応を感じる。
その方角に振り向くと、ガーゴイルが最初に座っていた土台に新たなガーゴイルが召喚されている確認した。
「もしかして土台があれば復活できるの? 相手にしてられない。バケマッシュ、さっさと先に進むわよ」
ワタクシたちは逃げるように次の部屋へと進んだ。
「いっ……」
ガーゴイルとの戦闘で動揺してしまったのか、ワタクシは次の部屋で単純な罠スイッチを起動してしまう。
傷が癒えやすい体になったとは言え、痛みは感じるし、ダメージで動きは悪くなる。
なにより心が折れそうになる。
探索後半の記憶はおぼろげだった。
似たような部屋が多かったのもあってここからの記憶に自信はない。
インプが出てきたのは覚えている。でも、何体燃やしたかしら?
串刺しの罠があったのは覚えている。でも、どれだけ発見できたかしら?
ワタクシは助手に支えられながらも前進を続けたことだけは確か。
そしてとある部屋に辿り着いたとき、違和感のようなものに襲われる。
しばらくたち尽くし部屋を観察すると、その違和感が既視感だとわかった。
「もしかして……最初の部屋?」
見ている方向が違うため気付くのに時間がかかった。
右手にワタクシたちが入ってきたこのダンジョンの入口があった。
ワタクシたちのダンジョンへの帰り道でもある。
「どういうことなの?」
「ガシャシャ」
理由を考えたいが、頭が働いてくれない。
拠点が近いというこで気が抜けてしまったのだろうか。
……とりあえず今は休みたい。
「ウサ? ウサウサ!」
帰り道からラビブリンの一団が入ってくる。
お迎えが来たのかしら。
そう思うと不本意ながら安堵してしまった。
その場にへたり込んだ私はそのまま横になる。
もう動けない。
ワタクシはワタクシが思っていた以上に消耗していたみたい。
自身の体が引きずられるのを感じながら眠りについた。




