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63.串刺しの遺跡

 翌日、俺はリマロンと探索組を集めた。

 幸い、全員体力は回復しているようだ。


 「ではソイ。報告を頼む」

 「ええ、ワタクシの探索の成果をお話しますわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ワタクシの名はソイ・イソフラン。

 ロッドマ魔法学院に通う普通の学生でしたわ。

 そう、過去形。

 魔が差してとある研究室が抱えていた魔法薬レシピを盗んでしまったが最後、私は命を狙われる身になってしまった。

 盗んだレシピは世間に未発表の非常に価値の高いものだった。

 共同開発先の商会が放った追っ手に追われて世界迷宮に逃げ込んだワタクシはとあるダンジョンに追い詰められた。通りすがりのエルフに助けられたものの、ダンジョンに住むお化けに捕まってそのエルフ諸共尋常ではない力を与えられ、勝手に配下にされてしまったの。

 訳が分からないかもしれないけど、全て事実よ。

 というか未だに頭の中は大火事よっ!

 ホントに意味不明よッ!

 

 犯罪を犯してしまった手前、もう地上に戻れない。

 さらに言えば、裏家業の者とはいえ、人を廃人にする儀式を手伝ってしまった。本格的に表の世界で生きていけないわ。

 幸い、ダンジョンのお化けはワタクシを評価してくれているようで、このダンジョンに住ませてもらえそう。

 人外の力を得る契約を押し売りされたことは本当に腹立たしいし、不思議な力で命令に逆らえないのも癪。

 だけど、これから奴からの評価を上げないとここからも追い出されてしまうかもしれないわ。

 そうなれば後は当てもなくダンジョンを彷徨い死を待つのみ。

 早く反抗的な態度はやめて点数稼ぎをしないといけないのに。

 私の人生を奪っておきながら涼しげに話すあいつの顔を見ると、烈火の如き怒りがいつまでも鎮火しないの。


 私のことはこれくらいにしてそろそろ仕事を始めますわ。

 最初の仕事はダンジョンの偵察。

 本格的なダンジョン探索は初めてだけど、この貰った力があればきっとやり遂げられますわ。


 「ガシャシャ!」


 追っ手から逃げる際に偶然テイムしたこのモンスター。

 スカルバケマッシュという種のキノコ系のモンスターらしいけど、不気味ななりの割に結構甘えん坊。

 今も必死にワタクシの気を引こうとアピールしているわ。慣れるとちょっと可愛く思えてくるのが不思議ね。

 

 「いい。アナタはワタクシの助手よ」

 「ジョッシュ?」

 「そう、助手。一緒にこのダンジョンを攻略して、まずはあのお化けからたんまり報酬を貰いますわよ」

 「ジョッシュ! ジョッシュ! ガシャシャ」


 ワタクシは最初の部屋へと足を踏み入れた。


 早速、敵発見ね。

 あれは確か……


 【インプ】

 【ランクD-】


 そう。インプよ。

 別名羽ゴブリンなんて呼ばれている悪魔型のモンスター。

 非力だけど悪知恵が働き、嫌らしい戦い方をしてくるはず。

 モンスターの名前が分かる。これも貰った力の一旦かしらね。

 ランクと言うのが敵の戦闘力が表しているのなら、もう怖いものなんてないわ。

 スカルバケマッシュがランクC-なら、あれは雑魚ね。戦っても問題ないわ。


 「燃えなさい。ファイアーボール」


 ワタクシは初歩的な火の魔法を放つ。

 初歩とはいえ、昔のワタクシならばちゃんと集中してマナを練らなければ扱えなかった。

 しかし今は考え事をしながらでも、見事な火の玉を飛ばすことが出来た。

 火の玉はインプに命中し、あっという間に燃えカスを作った。


 「ガシャシャ、ガシャシャ」


 バケマッシュが闇のマナで作った触腕で拍手してくれる。

 よし、この調子でガンガン行くわ!

 そう思い一歩を踏み出した時、かちりという音が聞こえた。


 「キャ」 


 ワタクシは不覚にも音に驚いてこけてしまった。

 それが幸運だった。

 ワタクシがいた場所の床から槍が突きだしていたのだ。


 【串刺しスイッチ】

 【ランクC】


 ワタクシは血の気が引くのを感じた。

 敵はモンスターだけじゃない。

 ダンジョンそのものだ。

 この部屋自体が明確な殺意をぶつけてくるのだ。

 実例は既に見ているし、そもそもこの力自体、それから貰ったことを思い出す。

 ワタクシは今、ワタクシを縛り付けるあのお化けと同格の存在に挑もうとしてる。

 その事実を初めて実感する。体の震えが止まらない。


 「ガシャシャ」


 力の入らない手をスカルバケマッシュが握ってくれた。

 手の震えが収まる。

 

 弱火になっている場合じゃない。

 この仕事に失敗すれば結局殺されるとお化けに説明されたじゃない。

 

 「ありがとう、助手。さぁ罠に気を付けながら、強火でガンガン行きますわよ」


 道は左右に分かれていた。

 とりあえず右に進むことにした。

 深い理由はない。


 次の部屋は仕切りがたくさんあり迷路のようになっていた。

 スカルバケマッシュが触腕を伸ばして先の床を叩いてくれる。

 これなら串刺しの罠も怖くありませんわ。

 曲がり角を進もうとしたその時、かちりと音が聞こえる。

 

 焼けるような感覚。

 痛い痛い痛い。

 下を見ると足から炎の様に赤い血が流れだしていた。

 血に濡れた槍が地面から生えている。


 「キシシシ」


 音がする天井を見上げると窪みがあり中からインプがニタニタと見下ろしていた。

 天井の隠し部屋だ。


 【連動スイッチ】

 【ランクD】


 遠隔操作の罠。

 インプがワタクシの動きに合わせて押したに違いない。

 ワタクシは怒りに任せて天井に火の玉を放つ。

 逃げ場のないインプはあっさりと黒焦げになった。

 痛みのせいでさっきよりも火力が出ない。


 「ガシャシャシャ」


 バケマッシュは曲がり角で待ち伏せしていた2匹のインプと交戦していた。

 瘴気を固めた触腕で1匹の頭を掴み、床に叩きつける。

 放射線に緑色のシミが広がる。

 その様子を見てもう1匹のインプが背を向けて逃げ去ろうとしている。

 させないわ。

 ワタクシは火の玉を投げるように放つ。

 インプは消し炭となった。

 待ち伏せしていた敵は全滅できた。

 

 足を見ると傷が塞がっていた。

 結構な深手だったはずだ。

 さするとまだ痛いが立って歩くことくらいは出来そうだ。


 「改めてワタクシはヒューマをやめてしまったのね」

 「ガッシャシャ?」


 スカルバケマッシュが心配そうにこちらを見ている。

 

 「大丈夫。先に進みましょう」


 私たちは次の部屋に足を踏み入れた。

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