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62.パトロール

 報告を終えたピエターをリマロンに仮住まいまで送らせて俺はその内容について考える。


 改めてダークエルフと化した彼の実力を思い知った。

 報告に聞いた冒険は並の冒険者であれば、生き残ることの出来ない内容だった。

 従魔にランクC-のコッコグリフがいるとは言え、敵ダンジョンの罠を踏み抜いて帰ってくるとは。

 心強い仲間ができたことが改めて喜ばしい。


 ただ、その一方で彼の弱点も分かった。

 ピエターは相手にするモンスターを選んで確実に攻略する手法を取っていたが、そのせいで逆に後手に回って結果的に不利に立ち回ってしまったという印象を受けた。


 ピエターはいままでダンジョンを攻略してきた経験を基に立ち回っているように思える。

 いままでの彼の行動から察するに普段からソロで攻略してきたのだろう。

 ああいうモンスターの密度が高い危険な部屋は避けてきたはずなのだ。

 しかし、今回は踏破ではなく調査のための攻略。

 そのため、彼は真面目にすべての部屋を探索してしまった。

 彼のスペックをきく限りに、ごり押しでさっさ抜けるべきだったのだ。

 しかし、ダークエルフとなって初めての冒険。塩梅が分からないのも仕方ないだろう。

 

 結果として、ダンジョンとの相性は最悪。

 ダンジョンでのスタンスが挑戦者(チャレンジャー)ではなく生存者(サバイバー)だったピエターだからこそ敵の策に嵌ってしまったとも言える。

 もっと力を自覚し現在の力量にあった戦い方を覚えることがピエターの課題といったところだろうか。


 彼のことはこのくらいにしておいて、最も大事なボスモンスターの情報だ。

 臭気の部屋でみた他の植物を指揮する花型のモンスター。

 これがボスだと自信満々に語るピエターだが、今の彼の話では確証が得られない。

 ボスでなくともでもそういう行動をするモンスターは世の中にたくさんいる。

 これは詳しく話を聞かないと彼の判断を鵜吞みにすることはできないな。

 臭気部屋での探索の断念は英断ではあったが、俺の求める答えがある場所はこの部屋であるはずだ。

 次回の突入は探索ではなく本格的に攻略、もしくは侵略を始める。

 とりあえず、東のダンジョンでの初動は決まった。

 後は南のダンジョンの探索結果次第だが……。

 


 「ウサッサ!」


 ホブラビブリンの声が聞こえる。

 ラビブリンたちも慌ただしい。

 嫌な予感がする。

 ダンジョンの攻略経験があるピエターがあんな姿で帰って来たのだ。

 ダンジョンの攻略経験がない者は果たしてどうなるだろうか?

 俺は騒がしい方へ飛んでいった。


 「すぅ……」

 「ガシャァ……」


 ぐったりとしたソイとスカルバケマッシュがボブラビブリンたちに運ばれている。

 相当手ひどくやられたのかボロボロだ。

 俺の問いかけにボロボロのソイがどうにか目を開けて絞り出すように声を出した。


 「大丈夫か」

 「……こっちは……ボスモンスター……いなかった。……報酬、……弾みなさい」

 「約束する。とりあえず今は休め。あとで詳しい話は聞かせてもらう。ホブたち、リマロンはオリジンルームのピエターの家にいる。そこへ運べ」


 2匹とも返事をするとオリジンルームへ向かっていった。

 アースヒールは自然治癒力を増大させる魔法だ。

 強力な存在程早い回復が見込めるので、明日には全員復活してくれることだろう。


 にしても反抗的な態度を示すソイがここまで体を張ってくれるとは少し意外だった。

 それとも、俺が意図しないだけでこれはスキルによる命令となって無理やり働かせているのだろうか。

 強引な方法は積極的に使いたくはない。

 どうにか仲良くなる方法はないだろうか。

 いや、自分でも無茶苦茶なことを言っているとはわかっている。

 彼女を配下に加えた経緯を考えると懐いてくれないのは理解できる。

 ピエターの様にピンチを救ったわけではなく、ダンジョン運営に必要だと考えての行動で、そこにソイの合意はなく、無理やりに配下にしたのだ。

 それでも仲間になった以上仲良くしたい。

 自分の我儘さ加減に呆れてしまう。


 ひとまず俺が仲良くなるかは置いておく。

 仲間にした以上、責任は持ってお世話しなければならない。

 年頃の女の子だ。精神的にくるものがあるかもしれない。

 メンタルケアは必要だろう。

 まずはリマロンあたりと仲良くなってもらいたい。

 彼女なら同じ女性だし明るく活発で話し相手には最適だろう。

 後でリマロンに相談しておくか。

 

 さて……と。

 攻略組は全員休養中。

 リマロンは探索組の治療中。

 主力級のモンスターたちはみんな戦闘不能だ。


 仮にもこちらは手を出したのだ。

 敵ダンジョンから反撃を受ける可能性は十分に高い。

 一番危ないのは傷の癒えきれてない今、この時。

 各部屋に戦力は配備しているとはいえ、遊撃をできるのが俺しかいないのは心細い。

 いや、動ける駒はまだいたな。……頼りになるか微妙なところだが。

 俺は畑部屋に向かった。


 「アルラウネ、ダンジョンのパトロールに行くぞ」

 「はぁ、こんな小っちゃくてかわいいアウラウネちゃんがそんな仕事するわけないんですけどー」


 そうだ。生意気な新入りのアウラウネ。

 ただのコモンスキルのモンスターのはずだが、冒険者のソウルを直接注入されたためか俺を認知し話すことが出来る。


 「そうか。このことはリマロンに報告しておくことにしよう」

 「ちょっと待って」

 「そういえばリマロンがお前を連れていきたいところがあるっていってたぞ。ラビブリンたちの食堂だ。可愛いアルラウネはそこでもきっと大人気になるんだろうな」

 「ひひぃぃ。ごめんなさい。働かせて頂きますぅぅぅ。だから兎共の巣に放り込むのは勘弁をッ……」


 アウラウネはだらだらを汗を流して懇願する。

 前回のリマロンの()()はよっぽど怖かったらしい。


 「じゃあ、パトロールしようか、ランクD+のアルラウネ。お前が口だけでないというところを俺に見せてほしい」

 「でも、私、ホントに向かないわよ。この小っちゃいボディじゃ動き回れないわ」

 「例えば……だ。鼻が利くモンスターがこの部屋を襲ったとする。土の中に隠れてもおまえはやがて見つけられるだろう。さて、どうやって逃げる?」

 「どう……って、うーん。ああっ、この子使えそう」


 アウラウネは部屋の隅で寝ているフルーツバロメッツに向かってなにかを飛ばした。

 目では見えにくい、魔力を帯びた風のようなものだ。

 その風を受けて1匹のフルーツバロメッツが目を覚ます。

 毛玉のような羊はアウラウネに近づくと彼女を背に乗せる。


 「誘惑の花粉と幻惑魔法のコンボよ。これでこの子羊ちゃんは私の僕ってわけ。相手にも幻惑をかけてこの子に走ってもらうわ」

 「いい技を持っているな。じゃあ、パトロール始めようか」

 「えっ、どういうこと? あ、そういうこと! 私を試したの?」


 アウラウネは悔しいそうに喚いているがこれで準備は出来た。

 本気で【ラビブリン】のコストにすることも考えたが、なかなか面白い技を持っている。

 とは言え、活躍する場面はマンドラゴラの絶叫と毒が効かない精神的状態異常に弱いモンスター。

 嵌れば強いとはいえ活躍機会がかなり限定的に思える。

 本人の性格同様に扱づらさを感じるのモンスター性能だ。

 活躍させる場面を整えればいい働きが出来そうだが、今はそんなアイディアを考えている暇はない。

 

 「まずは南の出口側からいくぞ。情報が少ない分、襲撃が一番怖いのがそこだ」

 「いきなり本命に行くの? もっと敵がいな……そんな目で見ないでよ。わかったわよ。ほら、子羊ちゃん。歩いて」

 

 その日の襲撃はひとまず無かった。

 

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