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6.ゴブリン

 走れ、マンドラゴラ。

 スケルトンが動き出す前に俺はマンドラゴラへ指示を出す。


 この部屋の床はいつもの石造りではなく柔らかい黒土だった。

 マンドラゴラの短い四肢ならば足を取られ動きが鈍ってしまう。

 どうしてこの部屋だけという思いを抱かずにはいられない。

 スケルトンを軸に回るように進むマンドラゴラだがそのスピードは亀のように遅い。

 このままロングハンマーを振り抜かれれば、避け切れない。


 スケルトンが正面に向き直し、横なぎにロングハンマーを振るおうと構える。

 俺はスケルトンの姿勢に違和感を覚えた。

 構え方がおかしい。ハンマーの頭が後ろ過ぎる。

 力を入れて振り抜くならもっと横にあるべきだ。

 そういえば土の床のはずなのにハンマーが降られた跡が残っていない。

 これはもしかして…。


 マンドラゴラ、回れ…止まれ。正面へ突っ込め。

 マンドラゴラは必死に土をかき分けスケルトンへ向かう。

 スケルトンは動かない。


 やはりそうだ。

 あのスケルトンはロングハンマーを振るうのに力が足りないのだ。

 よく考えれば、あのサイズの武器はヒューマもエルフも使わない大鬼(オーガ)サイズで重量はかなりのものだ。

 支える大腿四頭筋も、振るう上腕二頭筋もない脆弱な骨に扱えるわけがなかった。


 「アァ!」


 マンドラゴラはスケルトンに肉薄すると一瞬、叫び声を強める。

 音圧でスケルトンの左の大腿骨すっぽ抜ける。

 倒れたスケルトンは自身のハンマーの柄の重みで、腰と背骨の付け根を粉砕されると動かなくなった。


 よし勝った。筋肉の勝利だ。

 俺は思わずガッツポーズを取る。

 マンドラゴラを中心に明かりが部屋全体に広がる。

 対峙していた人影は明かりに押しやられて、やがて壁に付くとそのまま潰れて消えた。


 【迷宮スキルを獲得しました。】

 【忌土】

 【ランクD】

 【死体を分解しやすい黒土。配置した部屋の土のマナを少し高める。死体分解時に闇のマナを生む。】


 スキルの考察をしたいところが、今は時間はもったいない。

 俺はマンドラゴラとともに東の出口へ向かう。

 ゴブリンを操る人影が吹っ飛ばされた部屋だ。

 目的はゴブリンの主である人影モンスターの討伐。

 マンドラゴラの喉が枯れる前に、あいつも消しておきたい。

 あのゴブリンの主はかなり好戦的。

 一瞬とは言え、既に2回も遭遇している。

 攻撃対象として認知されてしまっているだろう。


 東口から入った部屋には生きているものはいなかった。

 あるのはゴブリンと蛇のモンスターの死体だけ。

 蛇の情報は頭に浮かんでこない。

 生きていないモンスターからは情報がもらえないようだ。

 出口は左側、つまり北側のみ。

 俺は一直線に出口に進み、そして障壁に弾かれた。


 マンドラゴラの先導なしに次の部屋にいけないのがもどかしい。

 マンドラゴラの声はどんどん弱々しくなっている。

 そもそもマンドラゴラなしで俺は戦えない。

 そもそも急いでるのはマンドラゴラの寿命のせいだ。

 焦ってもしかないと頭では分かってる。少し落ち着こう。…落ち着きたい。

 でも、間に合わない想像が完全に打ち消せずにいる。

 今はマンドラゴラを信じるしかない。


 こちらへ向かうマンドラゴラを待っているとカチリと音がする。

 マンドラゴラの足元から紫色の煙が噴き出す。


 【毒ガススイッチ】

 【ランクC】


 しまった。(トラップ)だ。

 ダンジョンの脅威は当然モンスターだけではない。

 むしろ冒険者の死亡要因は罠の方が上。

 モンスターよりも注意すべき存在だったのに忘れていた。

 ここに来てから変なことが起こりすぎて、当たり前のことが頭から抜けていた。


 しかし、マンドラゴラは全く気にしない様子でこちらへたどり着いた。

 猛毒を持つ魔草のマンドラゴラには効かない罠だったのだろう。

 これが落とし穴や串刺しのトラップならマンドラゴラを失っていた。

 今回は幸運だったが、次にこんなミスはいけない。


 「…ァア。アアァ。」


 マンドラゴラも限界に近い。

 感傷に浸っている場合じゃない。

 早くゴブリンの影に止めを刺さないと。

 俺はマンドラゴラとともに先の部屋に進んだ。


 いたのは2匹のゴブリンと白い人影。

 マンドラゴラが断末魔を聞いた小鬼たちは泡を吹いて倒れる。

 癇癪を起した子供のように暴れる白い人影だったが、縮む黒い塊に逆らえず潰れて消えた。


 【迷宮スキルを獲得しました。】

 【ゴブリン】

 【ランクD-】

 【醜悪な姿の小人型モンスター。力は弱いが知能も高く、とても器用。武具や群れの大きさなどを条件に多様な変異を起こす。】

 

 ひとまず、危機は去ったと考えていいだろう。

 しかし、【ゴブリン】か。

 贅沢を言うと別のスキルがよかった。

 新人時代にいろいろと嫌な思い出があるので、俺はゴブリンが嫌いなのだ。

 気を取り直そう。最初の部屋に戻って情報を整理しよう。


 スケルトンの部屋まで戻ると部屋の異変に気付く。

 土に埋もれたゴブリンの死体が既に骨になっていた。

 獲得したスキルを思い出す。


 【忌土】

 【ランクD】

 【死体を分解しやすい黒土。配置した部屋の土のマナを少し高める。死体分解時に闇のマナを生む。】


 おそらくこれだ。

 スケルトンの主を倒したときに手に入れたスキル。

 奴が持っていたということなのだろうか。

 おそらくここは他の部屋と同じく石材の床だったのをスケルトンの主が置き換えたのだろう。


 そういえば最初の部屋には死体の山があることを俺は思い出した。

 情報整理はここでやってしまおう。

 ここに来てから情報量が多くて、どうもいろいろな事が頭からすっぽ抜ける。

 俺はいままでの記憶を基に忌土の床に地図を描いてみた。

 俺は土に触れられないので、【ホーンラビット】を使い、召喚獣を筆代わりにした。

 

 ?-□-□

   | |

   □ □

   | |

 ?-■-□ 


 ■:現在地 □:探索済み

 ?:未探索 ー:出入口

 

 今の攻略情報をまとめるとこんなところだ。

 ゴブリンの主に止めを刺した部屋。地図の中段目の右端。

 その部屋の北側はホーンラビットがいた部屋だった。

 その部屋同士が繋がっていたのだ。


 現状では地図の左、つまり西側の探索が出来ていない。

 これからそこを探索していくことになる。


 方針は決まった。

 俺は短い葛藤を乗り越えてゴブリンを召喚した。

 醜悪なモンスターが忌土をかき分けてはい出てくる。

 正直、こんな魔物は使役したくないが、所持スキルで最も探索向きなのはこのモンスターだ。

 プライドなんぞ命に比べてずっと軽い。

 俺はゴブリンに他の部屋からこん棒を取ってくるように命令する。

 確かゴブリンの主の部屋には未使用のこん棒が残っていたはず。

 武器の有無は戦闘に大きな影響がある。

 最短ルートには罠があるので、北側から回って取ってきてもらおう。


 ゴブリンはいままで指示したモンスターたちより賢い。

 簡単な指示で問題ないだろう。…本当にか?

 

 俺はいままでこのダンジョンで起したミスを思いかえす。

 結構やからしている。念のために俺も着いていくか。


 しかしゴブリンと一緒にダンジョン探索とは…。

 俺の頭は現実逃避のために情報の整理の続きをし始めた。

 やっぱりゴブリンは好きになれない。

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