59.現状確認
攻略が始まって3日目。
双方ともに連絡は来ない。
何かあればラビブリンたちからこちらに連絡を届く手筈になっている。
連絡がないと言うことは順調に攻略しているということだと信じたい。
この間、ただぼけっと探索組の帰りを待っていたわけではない。
他のダンジョンが攻略にきたときのための準備、すなわち迎撃態勢の強化を行った。
各部屋の防衛力強化、害獣の調査、迷宮スキルの確認などやることは山ほどあった。
防衛力強化はいままでの比にならないほど施した。
今やいつどちらのダンジョンから攻められてもおかしくない状況だ。
もはやいつくるかわからない冒険者の目など気にしてられない。
対戦相手の出口がある東と南の出入り口には多くの農具で武装したラビブリンを配備した。
テノール種入りのマンドラ爆弾も山ほど準備した。
これで高ランクのモンスターが攻めてきたとしてもある程度の時間稼ぎは出来るはずだ。
しかし、これも気休めだろう。
リード中のダンジョンがもう1つのダンジョンを攻略してしまえば、ソウル量で圧倒的な差を付けられる。
そうなればどれだけ守りを固めようが物量で踏み潰される。
やはり、こっちも攻略して部屋を勝ち取り支配領域を伸ばしていかなければ勝利には繋がらないだろう。
害獣の調査では面白いことが判明した。
なんとラット系を除く害獣の被害が激減していたのだ。
その理由は師匠と行った大改築にあった。
改築前、対策したティアスパローの襲撃が増えた時期があったが、あれはあの鳥たちの天敵がいないせいで増えすぎたことが原因だった。モストータスの苔では食糧が足りず、食いはぐれたティアスパローがチビキビを奪いに来てたのだ。
しかし、大改築でコッコの放牧地へ行けなくなり、代わりにハイドラットの草原と繋がった。
ハイドラットの草原にはサイズミンクがいる。
当時のサイズミンクはスカルバケマッシュやコッコグリフのせいでコッコを狩りに行けず、かといってシーフラットだけでは餌が足りない状況だった。
その結果、増えすぎたティアスパローはサイズミンクの標的となった。
そして現状、モストータスに守られているティアスパローのみが安全を勝ち取り、残りの小鳥たちはイタチの都合の良い食糧となっていた。
おかげでティアスパローもサイズミンクもいつの間にか畑部屋までやってこなくなっていたのだった。
ティアスパローの数が減ったら状況も変わるだろうが、それまでの間は害獣のことを気にせずダンジョンの攻略に専念できる。余計なことに気を回さなくてよいのは本当にありがたい。
迷宮スキルの確認はいつでもできると思ってついつい先延ばしにしまっていた。
いい機会なのでスキルも種類ごとしっかりと分類して、正確な把握に努めた。
なにせ、持っていても使っていないスキルの心当たりが結構あった。
変異したがスキルは手に入れたかどうかあやふやなものもあったりもした。
こんな状態で敵ダンジョンとの決戦に臨むのはよろしくない。
俺は地面に召喚した怖妖土で文字を書きながら1つずつ自分のスキルを確認していった。
〇ボススキル
【ボスラビブリン】【ダークエルフ】【ダークヒューマ】
〇ユニークスキル
・モンスタースキル
【ラビブリン】【ラビブリンファーマー】【ホブラビブリン】【ダイオウマンドラゴラ】
・資源スキル
【四季土】
〇コモンスキル
・モンスタースキル
【マンドラゴラ】【マンドラゴラ・アルト】【マンドラゴラ・テノール】【アルラウネ】【コッコ】【マンドラコッコ】【マッドスライム】【フルーツバロメッツ】
・装備スキル
【アイアンシャベル】
・資源スキル
【怖妖土】【ヨモギー】【シロヒカリゴケ】【鉄鉱岩】【針砂利】【チビキビ】【火彩岩】【マポテージョ】
・環境スキル
【池】【青空】
意外とこんなものか、と俺は思った。
もっとたくさん変異が起こっていたと思った。
よくよく考えるとスキル獲得に至らなった変異が大半を占めている事を思い出した。
スキル外戦力はまずは置いておいてスキルがある戦力の確認を行おう。
やはり前の戦いからの大きな変化はボススキルやユニークスキルが増えたことだろうか。
これらはダンジョンとしては大きな戦力増となっているが、一方で普通のソウルでは召喚することはできないことがデメリットとして存在している。
よって俺が直接戦闘するような緊急を要する場面では頼りにならない。
思えば、第二波ではリマロンと別れての戦闘するケースもそれなりにあった。
ここは召喚済みモンスターやユニークモンスターが戦力にならない場面を想定して、コモンスキルのモンスターのみでの戦闘方法を考えてみよう。
第二波より増えたモンスターのコモンスキルは【マンドラゴラ】の変異種の3つと【マンドラコッコ】、【フルーツバロメッツ】。【マッドスライム】もそうか。これは第二波の最期のダンジョンから手に入れたスキルだったから戦闘で活用した機会はなかったはずだ。
まず、戦闘に不向きなスキルを除外しよう。
原種より戦闘力が下がった【マンドラゴラ・アルト】とそもそも戦闘力が低い【マッドスライム】。
これらは戦闘でわざわざ召喚して運用することはないだろう。
戦闘で有用そうなのは【マンドラゴラ・テノール】【マンドラコッコ】【フルーツバロメッツ】の3種だ。
【マンドラゴラ・テノール】は攻撃性が強化されたマンドラゴラの変異種だ。
代わりに持久力がなく叫び声を放つと原種よりも早く力尽きてしまう。
現在、既にマンドラ爆弾用のマンドラゴラとして運用している。
緊急時でもいままでのマンドラゴラの運用方法で問題ないだろう。
最近手に入れた【アルラウネ】もあるが、検証する時間が足りない。
……それに正直今あの個体をあれこれ検証するのは非常に疲れる。
特にあの口うるさい性格が個体的なものではなくアルラウネ自体の性質だった場合が大変だ。追加召喚した際にあれが増えると思うと少し気が重い。この戦いが終わって時間があるときじっくりと検証することにしよう。
【マンドラコッコ】はマンドラゴラの特徴を引き継いだコッコの変異種だ。
スキル獲得時に検証した通り、猛毒の爪と混乱の叫び声が武器のモンスターだ。
この前の冒険者戦でもこの叫び声は有用に働いていた。
マンドラゴラの声の単純な下位互換ではなく、使い分けが出来る場面があるだろう。
過去に使用した戦法として、コッコを使って無理やりマンドラゴラを起動させるものがあった。
その際、起動したコッコはマンドラゴラの攻撃に巻き込まれて犠牲になってしまっていた。
しかし、マンドラコッコはマンドラゴラの叫びに耐性があるため、この戦法をしても死ぬことはない。以前より積極的にこの戦法を使えるのは非常にありがたい。
唯一劣る点はマンドラコッコの召喚に必要なソウル量がコッコよりも多い点だが、俺の保有ソウル量は昔に比べて格段に増えている。
もうソウルが欠乏してランクDモンスターすら出せない場面は訪れないだろう。
マンドラコッコは間違いなく戦闘時に最も召喚するモンスターとなるだろう。
コッコが戦力外な時代もあっただけにこの出世は俺としても非常に嬉しい。
最初に獲得した迷宮スキルとして、思い入れがあるのだ。
【フルーツバロメッツ】は本来戦闘向きではないモンスターだ。
小柄な羊で力に優れているわけでもなく、素早さも早くない。
特に魔法も使えず、特殊な効果を発揮する特技もない。
では、なぜここで名を挙げられるかと言うと、防御力にある。
フルーツバロメッツは本家バロメッツにも劣らない魔力の籠った羊毛を持っている。
貴重な魔法素材で加工すると強力な装備になり得るが、加工をしなくてもその耐久力は健在である。
他のモンスターや自身を守るために召喚する場面も出てくるかもしれない。
ちなみにハイドラット対策でダンジョンで繁殖させる計画があったが、その食事量から見合わせとなった。大量に飼うとあっという間にハイドラット草原が禿げ上がることが判明したのだ。
うちのダンジョンでは感じないかもしれないが、本来ダンジョン内で草は貴重品だ。
草のスキルを多く持つうちのダンジョンだってわざわざソウルを使って餌のために草を召喚するのはナンセンスだと思っている。
そんなわけでハイドラット草原を侵食を止めれる程度の少ない個体数を保つようにフルーツバロメッツを飼育している実態がある。
そんなわけで、心苦しいがこのモンスターを使う場面では昔のコッコのように捨て駒になる可能性が高いだろう。どうにかうまく立ち回り、こいつらの活躍する機会を減らしたいものだ。
スキル調査から派生していつの間にか戦術の研究となってしまった。
俺のとれる戦法は、増えてはないがより洗練された動きが出来そうだということが分かった。
なので弱点は変わらずだ。
マンドラゴラの攻撃が効かないモンスター。
ゴーレムのような魔導生物系やゾンビのようなアンデット系。あと、虫系なんかも効き目が薄かったはず。
弱点のモンスターとはソロで戦わないことを心がけようと俺は思った。
最後に防衛強化の過程でダンジョン内を見回った結果、面白いものを見つけた。
それはいままで見たことない卵。
それも1つや2つではなくそれなりの数が見つかった。
見た目はコッコの卵に近いが、コッコが生んだにしては大きすぎる。
何の卵かと思って調べてみると、それは紛れもなくコッコの卵だった。
普段より大きな卵を産んだせいで体調を崩した雌鶏コッコが多くいたためすぐに判明した。
心当たりが一つある。
俺の頭に鶏頭の小さなグリフォンの姿が思い浮かぶ。
おそらくはそういうことだろう。
グリフォンと交わった馬はヒッポグリフを産むというが、コッコグリフと交わったコッコは何を産むのだろうか。卵が孵るのが楽しみだ。
また畑部屋でも見慣れないものを見つけた。
俺はマンドラゴラを種の状態で召喚し成体まで育てることでソウルの節約を図っている。
他の方法を模索しようと実験的に実がなるまで育てたマンドラゴラがあった。
基本的に育ったマンドラゴラはリマロンのごはんになるかラビブリンにするかだったので種が出来るまで育てたことはなかったのだ。
マンドラゴラの実は初めて見たが、丸くて地味で意外に普通の実のように思えた。
まだ熟れてなく青々した色をしているがその中に一つだけ明らかに周りより大きな実があった。
隣の畑を見るとマコットンが植えられていた。
マンドラゴラとマコットンは植物の種が違うため普通は交配はしない。
しかし、ここはマナ濃度の高いダンジョン内であり、畑の土は強大な魔力を秘める怖妖土や四季土が含まれる。絶対に交配しないとは断言できなかった。
まさかあのフルーツバロメッツの亜種か変異種でも生まれようとしているのだろうか。
コッコの卵と共に非常に興味深いと思いつつも今はのんびりと成長を待っている暇はない。
これらの新たなモンスターの芽を守るためにもまずはこのエリア期の戦いで勝ち残らなければなるまい。
「ボスぅ、ピーターが戻ったよー」
どうやらピエターが探索から戻ったようだ。
俺は彼を迎えに東の部屋へと向かった。




