表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/95

58.アルラウネ

 助言者が訪れてた翌日。

 俺はリマロン、ピエター、ソイの3名を集めた。

 今後の話をするためにだ。


 「みんな、聞いてほしい。俺たちは危機的状況にあることが昨日判明した。仲間になったばかりの者も多いが、本日から本格的に敵ダンジョンの攻略に動く必要がある」

 「精霊様。どうゆうことなのさ」


 俺は新入り2人にダンジョンの生態の説明を行った。

 それに続いて今、俺がエリア期の戦いの真っ最中であること、現状、一人のダンジョンが攻略されて出遅れていることも話した。


 「助言者にまた会えなかった。今度こそ会えると思ったのにぃ」


 リマロンが膨れている。

 

 「リマロン君、そんな呑気なことを言ってる場合じゃないのさ」

 「ちょっと! これって負けたらどうなるわけ?」

 「負けた場合はここの支配域のダンジョンの意志が代わる。もちろん死ぬのは俺だけだ。しかし、それまでに発生する戦闘などで俺に所属するモンスターは命を落とす可能性は十分にある」

 「それってワタクシも死ぬかもしれないってことじゃない。せっかくやつらから逃げられたのに、なんてことに巻き込んでくれたのよ」


 騒ぎ立てるソイを()()で黙らせると俺は続ける。


 「ソイ、俺も死にたくはない。それはソイ以外のみんなも同じだと思う。だから今日は敵ダンジョンの攻略のための会議を行う。俺たちは連携して動く必要がある」


 ピエターは頷いているが、ソイが無言で両手を振り回し抗議してくる。

 命令で黙らせてるにも係わらず非常に騒々しい。


 「もちろん無料でとは言わない。特に君たち2人は半ば事故のような形で俺の配下になってしまった。成果を挙げれば君たちが望むものは俺が叶えられる限りは答えよう。例えば……ソイ。君は魔法薬学の学生だったと聞いたが、自分だけのラボは欲しくはないか? 研究材料にマンドラゴラが使い放題なラボなんて地上にもめったにないと思うのだが」


 ソイが動きを止める。目が爛々と輝いている。

 興味はあるようだ。


 「ボスぅ。私には何かないの?」

 「なんだ。山盛りのマンドラゴラ以外に何か欲しいのか?」

 「うーん。…………そう言われるとぱっと思いつかないかも」


 リマロンはポリポリと頭を搔いている。

 まぁ、彼女は普段からいろいろ渡しているし今更だろう。


 「よし。全員合意はとれたな。今から考えた作戦を話す。穴があれば指摘してほしい。今回は時間がない。この会議の後、すぐに行動を開始する」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リマロンが悔しそうに土を蹴っている。


 「もう、どうして私がお留守番なのっ! つまんないじゃん」

 「それはお前を一番信頼しているからだ。ボスを見つけ次第参戦させてやるから、それまではここのボスモンスターとしてどっしり構えていてほしい」

 「も~うしょうがないなぁ。ボスがそこまで言うならやってやろーじゃん」


 今回の作戦は二面作戦。

 東と南の両ダンジョンを同時に探索していく。

 戦力の分散は危険だが、ここから逆転するにはスピード感が大事だ。

 多少のリスクは受け入れねばなるまい。

 

 今回の作戦の第一目標は、どちらが攻略されたダンジョンか判明させることだ。

 今回、ダンジョンの規模に対して攻略スピードが異様に早かったように思える。

 ということは攻略したダンジョンは部屋を虱潰しに支配したわけではなく、ダンジョンの意志を狙い撃ちにしたに違いない。

 ということは部屋にはまだ攻略されたダンジョンのモンスターが放置されている可能性がある。

 部屋自体は攻略したダンジョンの支配領域になっているだろうが、もしそうであれば部屋の守りは元々いた攻略された側の意志のモンスターに頼っているはず。

 攻略された側の意志のモンスターそれ即ち、意志の支配から外れた野生モンスター。

 野生モンスターは身の危険が迫ると部屋は死守せずに逃げるはず。

 そんな様子は俺に巣くうサイズミンクで散々確認している。


 つまり、攻略されたての部屋は横取りしやすいはず。

 攻略されたダンジョンを確定させてそちらに俺が乗り込めば、簡単に乗っ取ることができるだろう。

 

 問題は攻略されたダンジョンがどちらか分からないと言うことだ。

 片方ずつ調べていてははずれを引いた際に、防御を固められる可能性が高い。

 なので東のダンジョンはピエターとコッコグリフ、南のダンジョンはソイとスカルバケマッシュに任せて同時に攻めることにしたのだ。

 彼らの実力は未知数ではあるが、ラビブリンたちを突っ込ませるよりはいい成果が上がってくると俺は信じている。

 

 「さて、リマロン。早速、仕事をしてほしいのだが……」

 「なになに~。それって面白いやつ? 頑張っちゃうよー」

 「あの魔法で変異したマンドラゴラ。あれを使って更なる兵力強化が出来ないか考えた」

 「あー確かに普通に使ってももったいないよね。おっきな方はすごそうだけど、すごすぎてコブン共の耳までやっちゃいそうだもんね。絶叫攻撃ならテノールのやつで十分な気がするし。食べるにもあんまり美味しくなさそう」


 ここに冒険者の魂を注いで変異させた特別なマンドラゴラがある。

 助言者の襲来で考察の機会を失っていた。

 

 【ダイオウマンドラゴラ】

 【ランクC+】

 【肥大化したマンドラゴラの希少種。原種より大声で鳴くことができる。魔力密度が低くなったため魔法材料としての価値は低下。】


 【アルラウネ】

 【ランクD+】

 【魔力の高まったマンドラゴラが知性と言葉を得た上位種。幻覚の魔法が得意。】


 ダイオウマンドラゴラが2本にアルラウネが1本。

 未だ土の中だ。

 アルラウネは未知数だが、ダイオウマンドラゴラはリマロンが言うように普通に抜いて運用するにはちょっともったいない。

 そこで考えてみた。狂草魔法は重ねられないかと。


 「というわけでダイオウマンドラゴラに【ラビブリン】は使えないか」

 「なるほどね~。ちょっとやってみますかー」


 リマロンは両手でダイオウマンドラゴラの茎を掴むと腰を落して、力を込めて飛び上がる。


 「じゃ、実験の時間だよ。どんと出てこい、我がコブン。【ラビブリン】」


 リマロンが手にしていたのはもはや植物の茎ではなく、獣の耳だった。

 その耳から下にあるものはリマロンの獣鬼の姿に酷似していた。

 ただし、本物よりは少し小柄である。それでも熊を思わせる強靭な肉体を持っている。


 【迷宮スキルを獲得しました。】

 【ホブラビブリン】

 【ランクC-】

 【ウサギ頭を持つホブゴブリンの希少種。ラビブリンがホブ特有の大きな体とパワーを手に入れた。その体は常時補助魔法で強化されている。】


 思った以上に有用そうなモンスターが生まれた。

 基本高火力低耐久のモンスターが多いうちのダンジョンでは貴重な前衛適性のあるモンスターである。

 リマロンの獣鬼の姿の活躍を知っているだけにこれは期待が高まる。


 「予想通り、上位のマンドラゴラを使えば強いラビブリンが生まれるようだな」

 「このコブンはガンジョーそうでいいね。よーし、もう一本、やっちゃうよー」


 リマロンはもう1本のダイオウマンドラゴラもホブラビブリンに変えた。


 「ウサッサ!」

 「ウゥ」


 1匹は元気に跳ねまわり、もう1匹は落ち着いている。

 個体による性格の差が激しい。ラビブリンではそんなことはなかったが、上位のモンスターともなるとその辺も変わってくるのだろうか。もしくは、冒険者の魂を直接入れ込んだからか……いや、考えすぎか。

 

 「ボスぅ。この調子でアルラウネもラビブリンにしちゃう?」

 「そうだな。能力は気になるが、今は少しでも戦力が欲しい。ホブラビブリン級のモンスターになるなら悪い選択肢じゃない」

 「ちょっと待ちなさいよッ!」


 聞きなれない声があたりに響く。

 リマロンと共に辺りを探していると、なんとアルラウネが地中から飛び出してきた。


 「こんな超絶かわいいアルラウネちゃんを別のモンスターにするなんて正気?」

 「わ、しゃべった」

 「なによ、私はアルラウネよッ。ただのマンドラゴラとは違うのよ」


 見た目はマンドラゴラと分かりないが、四肢を模した根を自由自在に動かしている。

 その自然な表情はこれが模倣ではなくれっきとした知性のある存在だと知らしめてくる。


 「……マンドラゴラよりランクが低いみたいだが」

 「ふんッ。ダンジョンのくせにわかってないわね。マンドラゴラのあれは資源としての評価なの。私はれっきとしたモンスター。わかる? 評価基準が違うの」

 「なるほど、ではランクD+のアルラウネ。お前がマンドラゴラに勝る点はなんだ?」

 「何って、それは……いろいろよッ。まず、可愛さでしょ。それに美しさでしょ、それから愛おしさ……」


 動ける、喋っても絶命しない。そんなことより他にアピールポイントがいろいろあるだろうに。

 というか、マンドラゴラの姿でそんなくねくね動かれても、正直、気味が悪いという感想しか思い浮かばない。知性を感じるという感想は過大評価だったか。


 「ねぇ。この子、ボスモンスターでもないのにボスと話してるよ」

 「確かに。普通のモンスターは俺を認識できないからな。ホブ達はどうだ?」

 「「ウサウサッ」」


 俺の問いに反応している。

 どうやら人草吸魂で生み出したモンスターは俺を認識できるらしい。

 指示を出しやすくなるのは非常に助かる。


 「そうよッ。私は特別なの。分かったらこんな土よりも上等な土の場所に案内しなさい」


 いや助からないかもしれない。むしろ問題が増える未来が見える。

 

 「もう、さっきからボスに対して態度がでかい。 生意気な新人はこうだ」

 「ギャー。このケダモノ、やめなさいよ。ほら、ダンジョン。かわいいアルラウネが襲われそうよ。助けなさい。もうこうなれば、誘惑の花粉ッ! どうよ、これで私にメロメロよ」

 「よく見るとあなたとっても素敵ね。じゅるり」

 「その目はなによ。そのよだれ。コワい、コワいわよ。まさか誘惑の花粉の効果が食欲に働いたの? ギャーこれホントにヤバい。ダンジョン! いや、ダンジョン様。助けてくださいお願いしますぅぅぅ、このままじゃ食べられてしまいますぅぅぅ」


 今は生き残りを賭けた瀬戸際でふざけている余裕はないのだが……。

 まぁ、常に気を張っていても持たないし、攻略組の報告を待つか。

 俺はモンスターたちのじゃれ合いを眺めながらそう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ