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53.戦場の舞台裏

 リマロンが家出した。

 このダンジョン史上、最大の緊急事態だ。


 俺は多少の危険は覚悟してダンジョンの外へ迎えにいくことを決意した。

 決意したのだが……。

 ダンジョン防衛に支配外モンスターを頼ったのは失敗だったかもしれない。

 俺はスケルトン地下牢への出口がある部屋にコッコグリフを誘導した。

 女好きのコッコグリフは雌鶏コッコで思ったりより簡単に誘導できた。

 しかしそこで想定外の出来事が起こる。

 スカルバケマッシュもまたリマロンを探してダンジョンを徘徊していたのだ。

 鉢合わせた両モンスター。

 俺は気付いてしまった。スカルバケマッシュとコッコグリフが初対面だということに。


 顔を合し硬直したモンスターたちだったが、示し合わせたかのように行動を開始する。

 振るわれる黒い触腕。

 吹き乱れる暴風。

 宙に舞うチビキビの穂。

 そして鳴き叫ぶコッコたち。

 部屋中がパニックに陥っていた。


 こんな状態でダンジョンは留守に出来そうもない。

 でも、もたもたしているとリマロンたちはトンネルを抜けてしまう。

 俺はダンジョンから出ようか出まいか葛藤していた。

 そんなときに目に飛び込んできたのは息を切らして戻ってきたリマロンとエルフの姿だった。

 いくら気分屋の彼女でも、こんなに早く怒りが引いたわけがないだろう。

 きっと問題が起こったのだ。


 リマロン、といつものように声をかけようとしたがうまく声が出ない。

 初めての大喧嘩の直後だ。どう接すればよいかわからない。

 俺が出方を窺っている間にリマロンはぶつかり合うスカルバケマッシュとコッコグリフを目撃し、慌てて割って入る。


 「こらぁ。二人ともケンカしちゃダメ」


 モンスターとの関係性を知らない少年エルフはリマロンを必死に止めようと説得している。

 しかし、リマロンが聞く耳を持つはずがない。

 友達同士が殺し合いをしているのだ。

 ただ、その事情をあのエルフに理解しろと言うのは酷なことだろう。


 気付くとエルフはヒューマの少女を連れている。

 服装からして学生だろうか。エルフよりは背も高く年上のようだが、かなり怯えている。

 冒険慣れしている様には見えない。

 リマロンたちが帰って来た一因なのだろうか。


 そのまま3匹の戦闘が少し続いた後状況が動いた。

 なんと例の監視者パーティの冒険者たちが入ってきた。

 冒険者たちは戦闘の様子を窺っていたが、遅れてきた女と合流した途端行動を始めた。

 パーティはモンスターではなくエルフに攻撃したのだ。

 攻撃の回避地点での着地狩り。火魔法での一撃だ。

 爆炎起こった轟音で3匹は冒険者の存在に気付く。

 一瞬の目線だけで全員が攻撃をやめ、各々で冒険者へ向かう。


 「もう! おじさんをいじめないでって言ったじゃん!」

 「ガシャシャシャシャ!」

 「クコケッケ!」


 冒険者に攻撃を始める3匹だったが、互いが互いの邪魔をしてしまいうまく動けていない。

 結果、熟練冒険者の連携力の前に言いようにあしらわれていた。

 個々の戦闘力は確実にモンスター側の方が高いのは明らか。

 技量だけでここまで戦闘力の差を埋めれるのかと感心しつつも、この状況が自分のダンジョンに不利に働くことを俺は理解していた。


 あっ、危ない。

 リマロンの腹部に短剣が突き立てられるが、オーバーオールが丈夫で刺さらない。

 肝が冷える光景だった。頑丈な装備をくれたスケルトンの意志に心の中で感謝する。


 そして吹っ切れた。

 監視者を殺せば、後で山ほどもっと強い冒険者が報復にくるだろう。

 でも、このままリマロンたちがやられるのを指を加えて待っているわけにもいかない。

 我がダンジョンの戦力はばれ、戦いは始まってしまった。リマロンもピンチだ。

 もう戦うしかない。

 俺は部屋中のマンドラコッコの命令を飛ばす。

 全力で叫べ。

 

 「「「ギャアアアアアアアアアアアアァアァァアアアァアァアアア」」」


 大絶叫の大合唱。

 冒険者たちは連携を崩す。しかし、流石は熟練者たち。

 混乱したは女冒険者一人のみで、戦士の男はダメージは負った物の何とか抵抗(レジスト)、斥候の男に至っては耳に風のバリアを張って無傷のようだった。

 混乱した冒険者が暴走しダンジョンの奥へ進み、それをきっかけに冒険者もモンスターもそれぞれに行動を始める。

 なんとか危険な流れを断ち切ったようだ。

 俺は急いでリマロンの元へ向かう。


 「おい。腹、大丈夫か」

 「あっ、うん。だ、大丈夫……。ほら、この服、丈夫だから」


 ばつの悪そうなリマロン。

 

 「エルフの事は俺に任せろ。そこの戦士は任せていいか」

 「えっ……うんっ! 任せてっ!」

 

 リマロンの声色に明るさが戻る。

 それを確認してから俺は笛吹きのエルフの元へ向かった。


 戦況は厄介だった。

 最初はエルフ、斥候、コッコグリフの三つ巴の戦いだったのが、斥候が姿を隠したためにエルフとコッコグリフの戦いになってしまっていた。

 俺としてはどちらも失いたくはない。

 エルフはリマロンに任せろと言ってしまったし、コッコグリフも師匠からもらった貴重なモンスターだ。

 隠れた冒険者の斥候が虎視眈々と漁夫の利を狙っている。


 ここで俺はなにをすべきか。

 エルフの鉈が弾き飛ばされる。

 戦闘レベルが高く、迷宮スキルでモンスターを出しても戦況は変わらないだろう。

 迷っている間にもどんどんエルフが弱っていく。

 エルフの横笛が地面に転がる。

 もう戦闘をとめるだけじゃダメだ。ダメージを負いすぎている。

 どうにかしてエルフに力を与えないと。 


 俺にふとアイディアが浮かぶ。

 冷静に考えればとんでもない博打だ。

 しかし、迷っている暇はない。

 コッコグリフの姿を見る。

 師匠は俺のモンスターを変異させた。

 俺だって似たようなことは出来るはずだ。


 俺は自身の心に意識を向けて光の球を取り出す。

 ダンジョンの遺志だ。

 それをためらいなくエルフの胸に叩きこんだ。

 エルフは絶叫を上げた後、今まで見たことない程緩んだ表情で叫び出した。


 「最っ高の気分なのさ。……そうこれが『力』か。今なら何でもできそうなのさ」


 【迷宮スキルを獲得しました】

 【ダークエルフ】

 【ランク-】

 【説明を取得できませんでした】


 エルフの言葉が分かる。

 傷ついた体が癒え、体力も戻っている。

 完全復活のようだ。


 エルフは冒険者とコッコグリフの攻撃を軽くいなした。

 いままでより動きが格段に良くなっている。

 エルフが一言声をかけるとなんとコッコグリフをテイムしてしまった。

 もとより素晴らしかったテイム技術も強化されたようだ。

 エルフが風魔法を使うと斥候はあっさりと宙に巻き上げられ、コッコグリフに追撃を決められて気絶してまった。初めてとは思えない見事な連携攻撃だった。


 「もしや君が僕に力をくれたのかい。リマロン君が言っていたダンジョンの精霊かい?」

 「精霊なんて上等な存在じゃない」

 「なるほど。(ソウル)で感じる。君は僕が仕えるべき相手なのは間違いなさそうだ。幸運だね。この僕がいれば君は最強のダンジョン間違いなしさ」


 自信過剰気味なのは気になるが、俺を主として認めているようだ。

 コッコグリフの顎下を撫でながら堂々とした表情でこちらを見ている。

 なにはともあれ、無事にエルフを無事救出できてよかった。

 今度はリマロンとの約束を違えずに済んだ。

 リマロンや他の冒険者の様子はどうだろうか。


 「そうだ、精霊様。少女がこいつらの仲間に襲われているのさ。助けに行かないと」


 そういえば、一緒に入ってきた少女がいたな。

 どうして監視官のパーティがその子を襲っているかは不明だがゆっくり考えている暇はない。


 「その子は俺が見てくるから、おまえはその冒険者を拘束しておけ」

 「お任せなのさ」

 

 俺は戦闘音の響く場所へ向かうと信じられない光景を目にした。

 例の少女がスカルバケマッシュに命令している。

 そのまま冒険者の一人を倒してしまった。

 これは……スカルバケマッシュをテイムしたということか。

 しかしこいつはそれなりに格の高いモンスターだ。

 専業テイマーでも念入りに準備しないとテイムなんてとてもじゃないだろう。

 例えば、こいつの好物の闇のマナをたっぷり与えるなんてしないと人の技量のみじゃ絶対に無理だ。


 いや、そんなことより大事なのはスカルバケマッシュが獲られそうだということだ。

 忌土の問題は解決したが、こいつもリマロンの友達だ。

 いなくなられるとまたリマロンが悲しむ。

 それにキノコ地下帝国の子分バケマッシュたちが主を失って害獣化でもしたら甚大な被害が想定される。

 この子の素性はわからないが、このままバケマッシュを連れてダンジョンを去られては困る。

 非常に困る。


 俺は胸に手を当て光の球を取り出す。

 最後の遺志。まさかこんな短期間に全て使う羽目になるとは……。

 少し勿体ない気もするが、しょうがない。

 決意を固めると俺は光の球を少女の胸に注ぎ込んだ。


 少女は絶叫を上げた後、すぐに落ち着きを取り戻す。

 同時に怯えた様子はなくなった。

 いや、それどころか妙に落ち着いている。


 【迷宮スキルを獲得しました】

 【ダークヒューマ】

 【ランク-】

 【説明を取得できませんでした】


 「おお、力が燃え上がる。これが俺様の……、オレサマ? いいえ、ワタクシの力なの? ごい火力だわ。……ってアナタ、何者? その体、もしかしてオバケ?」

 「違う。お化けではない。俺はこのダンジョンの意志。言わばこのダンジョンそのものと言っていい存在だ」

 「それで、そんなモンスターの親玉のような存在がワタクシに何の用?」

 「君は今から俺のダンジョンのモンスターとなった。これからよろしく頼む」

 「はァ? どういうことよ。どうせ言葉巧みに取り入ってくるゴーストの戯言でしょ。いいわ、燃やしてあげる」

 「命令する。攻撃魔法は禁止だ」

 「……って、どうして魔法が使えないのよ。このっ」

 「あと、少し黙ってほしい」

 「あっ、ムグムグ……」


 俺はスキルの力で命令して少女を黙らせると頭を抱えた。

 エルフの少年とは違いモンスターに変化した自覚はないし、俺に対して反抗的だ。

 それになんだろう。この少女にはもっと気弱な印象持っていたが、直接話してみると随分と想像していたイメージと違う。

 これからどうコミュニケーションを取っていけばよいだろうか。

 とりあえずどこかでこの状況を説明してあげないといけないだろう。


 ダンジョンに戦闘音は響いていない。

 リマロンはうまくやったようだ。

 そういえば、この騒動は一体どういうものだったのか俺は一切詳細を知らないことを思い出す。


 「そういえば、おまえとエルフはどういう関係なんだ」

 「さっき黙れって言ったじゃない。そもそもオバケの質問には答えな……知らないわ。通りすがりで助けてもらっただけよ。勝手に口が……。ちょっとさっきからワタクシに何をしているの? 一体どんな魔法よ? 答えなさいッ!」


 これは全員を集めて情報共有が必要だろう。


 「みんなを集めてくる。その冒険者を捕縛しておけ」

 「ワタクシに命令しないでちょうだい。……なんで逆らえないのよ、これ。もうっバケマッシュ、そいつ縛っといて」

 「ガシャシャ」


 ドクロの魔物を使役する少女を背に俺は二人を呼びにいった。

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