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52.外国冒険者の最期

 「おい、坊主。ここは一時休戦であの魔物をやらないか」

 「却下だ。貴様のような者、信用できるか」


 冒険者のリーダーの男、マルコの提案は断られた。

 それと同時に刃の風がマルコとエルフの少年の間を通る。

 鶏頭の小さなグリフォンが両者を交互に睨めつけていた。


 マルコは額の汗を拭う。

 なんとかグリフォンの敵対心を逸らし、2対1の状況は避けられた。

 とはいえ、この調子で3巴の戦いを続けるのは正直キツイ。

 そろそろ思いついていた作戦を実行するか。

 位置取りよし。魔力よし。

 算段がつくとマルコは密かに練っていた風のマナを放つ。

 

 「残念だ。じゃ、一人で頑張ってくれや」

 「なっ」


 マルコが放った風の刃をエルフが避けると直線状にいたグリフォンに向かう。

 翼を掠め、グリフォンは怒りの声を上げる。

 エルフは一瞬グリフォンに気を取られたが、すぐにマルコのいた方に振り返る。

 しかし、マルコはいなかった。


 マルコのパーティでの役割はスカウトである。

 それに加えて帝国のとある商会に属するスパイとして特殊訓練も積んでいる。

 その訓練は戦闘技能よりも生存に重きを置いたものだった。

 なので風魔法で自身の気配を薄くしつつ相手の目を盗んで草むらに隠れる事などは、マルコにとって造作もないことだった。

 小型グリフォンの察知力を計るのに時間がかかってしまったが何とかうまくいったと胸を撫でおろす。

 

 標的を1つ消失したグリフォンの矛先は当然もう1つへ向かう。

 グリフォンとエルフ、一対一の戦闘が始まった。

 このまま星の捜索に戻ってもいいが、こいつらには敵対心(ヘイト)を買いすぎた。

 殺しておいた方がいいだろうとマルコは判断する。

 どちらかが止めを刺した一瞬の隙、そこを狙って短剣で一突きだ。

 マルコは息を潜めて戦いの行方を見守った。


 「大人をなめるからこうなるんだ。せいぜい苦しめ。けひひひひ」


 エルフは飛んでくる風の刃をひらりと躱す。

 次々と飛んでくる風刃を躱し続ける。

 しかしだんだんと疲労は溜まってくる。

 刃に掠ることが多くなってきた。

 グリフォンの飛び掛かり。

 ついにエルフは得物である鉈を落した。

 ついにエルフもここまでかと思うマルコだったが、エルフは予想外の行動に出た。

 なんと横笛を取り出し演奏し始めたのだ。

 グリフォンの猛攻を避けつつ、心安らぐメロディーを奏でるエルフ。


 マルコは嫌な予感を覚える。

 なぜかは知らないが、この演奏を止めないと状況が悪化する。

 長年の冒険者としての勘がそう告げていた。

 咄嗟にエルフの手元に向かって短剣を投げた。

 風魔法の補正を受けた短剣は吸い込まれるようにエルフの横笛へ向かい、弾き飛ばした。


 「くっ、これまでなのか……」


 エルフの悲痛な声に暗い喜びを覚えるマルコ。

 

 「お兄さんの仕事を邪魔したお代は高くつくぜ。おっと、グリフォン。君も忘れてないぜ。後で相手してやるから大人しく待っててくれよ」


 グリフォンの風撃を避けつつ、予備の短剣を抜きエルフへと近づく。


 「なんだこれは。力が、力が……あ、ああ、ああああああああああああああああ!!」


 突如、輝きを放ち叫び始めるエルフ。

 尋常じゃない様子に思わず足を止めるマルコ。


 「お、おい坊主。どうした」


 輝きがおさまったエルフはだらりとして動かない。

 と、思った矢先に大声を上げて叫び出した。


 「最っ高の気分なのさ。……そうこれが『力』か。今なら何でもできそうなのさ」

 

 エルフのハイテンションな様子を見てマルコは不気味に思った。

 口調、動きの癖、マナの波長、いずれもいままでの奴とは異なる。

 まるで別人になってしまったようだ。


 時間を与えてはいけない。

 そう判断したマルコは一気に距離を詰めて短剣を振るう。

 腹部に衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 後ろ回し蹴り。突撃のタイミングに完璧に合わせられた。

 

 「ぐわあっ。おいおい、満身創痍だったはずだよなあ。どうして傷が癒えている。どうして最速の攻撃に対応できるんだよ!」

 

 エルフが口を開く前にグリフォンがエルフに追撃を入れる。

 エルフは難なくそれを躱すとグリフォンの顎に下を撫でる。


 「君は僕のパートナーに相応しいモンスターなのさ。さぁ、一緒にこの卑劣ヒューマに制裁を与えよう」


 エルフがグリフォンにそう呼びかけるとグリフォンはそれに応じてコケッっと鳴いた。

 その後、真っ直ぐマルコを睨みつけてきた。

 どういうわけか、エルフはたった一言で完全にグリフォンを従えてしまった。


 「おい、それはおかしいだろ。もうそれはただのエルフが持てる力を超えている。なぜ一体今まで力を隠していた。何者なんだ、おまえは」

 「不快だろう。不可解だろう。実は僕もよくわからないのさ。でも今は気分がいいから自己紹介くらいしてやるのさ」


 エルフは咳ばらいをして続ける。


 「僕はピエター・アルブロート。由緒正しき根の氏族にしてアルブウッドの狩人。そして君を倒す者さ」


 エルフが手を翳すと突風と吹き荒れ、マルコの体が跳ね上がる。

 空中で無防備なところへ矢の如くグリフォンが飛び掛かる。


 「なめてたのは俺の方か……」


 マルコの意識はそこで途切れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 マルコが目を覚ます。

 なぜ意識を失ったのかを朧げに意識で思い出そうとすると手足が動ないことに気付く。

 どうやら縛られているようだ。

 そうだ、あの戦いの後、どうなったんだ。

 辺りを見渡すと同じく縛られた仲間の姿を見つけた。


 「おい、おまえら、起きろ」

 「んん~、あれ? なんで私縛られてるわけ?」

 「むぅ。頭がクラクラする」


 そして、自分たちをやっつけたであろうモンスターに囲まれていることにも気が付いた。

 ドクロの魔物、小型のグリフォンはもちろん、兎のような耳を持った小柄な獣鬼が大量にいる。

 なぜか、その一団の中に女学生とエルフもいた。いや、今はそんなことはどうでもいい。大事なのは逃げ場がないということだ。

 

 「じゃあ、新魔法お披露目の時間だよー」


 獣人娘が誰もいない空中に向かって何か喋っている。

 すると、目の前に3本の草が生えてきた。

 それが高級魔草であるマンドラゴラだとマルコには見抜けた。

 

 「冒険者のみなさん、貴方たちはいまからこのマンドラゴラの栄養になってもらいます。……ダメなの? ……でも、殺さないよ。それならいいんだよね。……もう、ボスってば早とちりだよねー」


 マルコは思い出した。

 エルフが別人になったと思ったらモンスターと共に襲ってきた光景がフラッシュバックする。

 つまり、妨害者たちはモンスター側だったということか。

 それにしては不可解なことあった気がする。

 マルコの思考はここで止まった。

 強い眠気に近い感覚に襲われる。

 それとともに致命的ななにかが自分から流れ出ていくのを感じた。

 必死に抵抗しようとするが、動かすのも覚束ない口から情けない声が漏れるだけだった。


 「どお? 最後の狂草魔法(マンドラマジック)【人草吸魂(マンドレイン)】は?」

 「ああ、あああ」

 「ああもう。この技コスパ悪すぎ。コブン共、じゃんじゃんマンドラゴラ持ってきてー」

 

 その光景は狂気の一言に尽きる。

 獣人娘は笑いながらマンドラゴラを生でボリボリと齧っている。

 マルコには恐怖の感情勝る眠気のおかげで正気を保っていた。

 その間も自分の大切ななにかがどんどん体から流れ出ていく。

 しかしその何か大切だったかマルコは思い出すことが出来なくなっていた。

 仲間たちがなにか叫んでいるがもう何も意味のある言葉として耳が拾ってくれなかった。

 仲間たちの名前を叫ぼうとするが、もう思い出せない。


 自分が体の中からいなくなるのを感じる。

 もうこれは自分の体ではない。

 そして、新しい体を手に入れた。

 辛うじてそれを理解したマルコの意識はそこで闇の底へと沈んでいった。

 

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