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50.戦場に混乱を添えて

 標的を追ってきたマルコたちの目に移った光景は一見にして判断しにくいものだった。

 冒険も裏家業も一瞬のスキが命取り。戦場では即断即決がモットーである。

 普段であればすぐに指示を飛ばすマルコだが、そんな彼でもこの状況を前に一瞬固まってしまった。


 最初に目につくのは争い合う2匹の魔物。

 大型犬程の小さいグリフォンとアンデッド系と思われるドクロ型のモンスターが戦闘を繰り広げている。

 どちらも小柄だが、その戦闘跡からどちらも全員揃ってでなければ相手が出来ない程強いとマルコは判断した。チェックが合流するまで戦闘は避けるべきである。幸い、モンスターたちはこちらには気付いていない。


 その様子を見てうろたえて居る標的の女学生。

 その脇に立ち、モンスターの戦闘に巻き込まれないように守る生意気なエルフ。

 視線が合う。エルフはこの混沌とした状況でもこちらの侵入に気付いているようだ。

 相手は修羅場に慣れている。

 マルコは苛立つ気持ちを抑え、プラスに考えようとする。

 星の確保は生け捕りが絶対条件。

 全く邪魔なガキだが今はせいぜいボディガードとして働いてもらおう。

 そう思うことで、荒れかけたマルコの気持ちは落ち着きを取り戻す。


 そして、なぜがさきほどエルフと共に邪魔してきた獣人娘はモンスターの間に入っていた。

 この行動だけはマルコの持てる知識を総動員しても判断がつかなかった。


 それでもマルコは行動方針を決めた。

 星が逃げないように見張りつつ、後続のチェックを待つ。

 この状況での戦闘には魔法が得意な彼女の力が必要だという判断だ。

 一緒にきたハーフドワーフの戦士であるバッツにその事を伝えると、少年エルフが動かないギリギリのラインを読みつつ、じわりじわりとターゲットとの距離を縮めた。

 

 ドクロ頭の影から漆黒の触腕が伸びる。

 小型グリフォンはしなやかなステップでそれを躱しつつ、小さな翼をはためかせ突風を飛ばす。

 突風に飛び込み敢えて受け止める獣人娘。引きずる足から土煙が舞う。

 再度グリフォンへ伸びる触腕は手にした槍と見紛う長柄のシャベルで払い落とす。

 獣人娘は双方のモンスターになにかを必死に何か訴えかけている。


 その光景を見て冒険者たちは冷や汗を流す。

 モンスターも邪魔者も手練ればかりだと感じたからだ。

 全員がランクCである俺たちでさえも判断を間違えれば生きては帰れないかもしれない。

 マルコたちのパーティはシティーアドベンチャーを得意とするパーティで対モンスターより対人戦闘が得意である。エルフや獣人娘はともかく、このモンスターたちとは正面から戦ってはいけないとマルコは悟る。

 バッツが入り口を見る。人影が見える。チェックが追い付いてきたようだ。

 マルコはニヤリと笑う。

 脚力向上の補助魔法が切れてない事を確認すると一気に駆けて女学生とエルフの退路を塞いだ。

 バッツがエルフへ飛び込む。

 エルフは下がるが、回避先に小さな火の玉が飛んできて被弾する。

 チェックの火球は火が燃え移りにくい代わりにぶつかると小規模の爆発が起こる。

 その衝撃でエルフは吹き飛ぶが、すぐに起き上がり臨戦態勢を整える。

 ダメージを自ら転がることで減らしたようだ。

 技量だけじゃない、戦い慣れてやがる。

 マルコは舌打ちをする。


 「集合、いつもの陣形だ」


 今のうちに女学生の確保に動きたいマルコだったが、こちらに向かってくる魔物2匹と獣人娘を視界端に捉える。相手の意図は読めないが、おそらく戦闘回避は不可能。この猛攻を凌がなければならないだろうと判断した。


 前衛にバッツ、後衛にチェック。

 マルコは臨機応変に2人のサポートを行うのが彼らのスタイルだ。

 

 グリフォンの突進はバッツが盾で受け流し、マルコが短剣で反撃を入れる。

 ドクロから伸びる触腕はチェックの爆炎が弾き飛ばす。

 その隙を狙った獣人娘のシャベルのぶん回しは遠心力が乗る前に手首を掴まれたことで未遂に終わる。

 攻撃を止めたマルコは空いた手に持つ短剣を獣人娘の腹に刺すが、装備が存外優秀なようで刺さらない。

 只の作業服ではないらしい。慌てて身を引き、陣形に戻り距離をとる。


 攻撃は苛烈だがモンスターたちは好き勝手にこちらを攻めるだけ。

 そこに連携などはない。

 個別でなければ、パーティ戦ならば、なんとか戦える。張り合える。

 女学生を守るエルフが隙をみせるまで、なんとか粘り切ってみせる。

 マルコが気合をいれ直した時、ダンジョンが揺れた。


 草影から鶏のモンスターが一斉に顔を出す。

 そして一斉に鳴きだす。しかしそこからは予想した鳥の鳴き声は聞こえない。


 「「「ギャアアアアアアアアアァァアアアアァァアアア」」」


 人の声だ。

 鶏の嘴から人の、まるで断末魔のような恐ろし気な叫び声が上がったのだ。

 まるで指揮者でもいるかのように綺麗に揃った叫び声の合唱。

 一気に恐怖心が煽られて視界がぐらつく。

 マルコはこれが混乱の状態異常だと自覚していた。

 冷静に風魔法で耳にバリアを貼って深呼吸をする。

 すると景色が元に戻っていく。

 しかし、対処できなかったものもいるようだ。

 女学生とチェックの2名は奇声を上げながらダンジョンの奥の部屋へ向かってしまった。

 その後をアンデッドのモンスターが追う。

 マルコもそれに続こうとしたとき、横から木製の鉈がひらめく。


 「貴様を通すわけにはいかない」


 あのエルフだ。

 そして、さらなる危機を予感して横へ飛び退く。

 マルコのいた位置に突風が通る。

 小型グリフォンがこちらを睨めつけていた。

 傷口から血が流れている。さきほどマルコが切りつけた傷だ。

 攻撃を入れてしまっていたせいで、マルコは敵対心(ヘイト)を買ってしまっていたのだと気が付く。


 辺りを見渡すが、バッツの姿は見えない。

 さきほどの鶏の絶叫時に全員離れ離れになってしまったらしい。

 

 「まじかよ、こいつらの相手を一人ってのは骨が折れるぜ」


 マルコは自らを奮い立たせるように笑ってみせたのだった。

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