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5.スケルトン

 暗闇の中から現れたのは2匹の骸骨の魔物だった。


 【スケルトン】

 【ランクE】


 ダンジョンでポピュラーなモンスターの1種だ。

 いわゆる雑魚モンスター。

 筋肉がないため、力が弱い。

 持っている得物によってはリーチがネックになり注意すべきだが、今は2匹とも素手。

 本来なら何の問題なく処理できる。

 問題があるとすれば俺が直接戦えないこと。

 さらに俺の戦力が同ランクの雑魚モンスターのコッコとホーンラビットと言うことだ。

 

 2対2は問題だ。

 仮にモンスターが戦闘能力によってランク分けされているとすると、単純計算で互角。

 このまま戦えば共倒れになっていしまう。

 このダンジョンの全貌が分からぬ今、無駄にこっちの兵力を失うわけにはいかない。

 

 俺は2体ずつコッコとホーンラビットを召喚する。

 これで2体6。数で優位に立った。

 4体のモンスターを召喚したが、体感でマンドラゴラ1体よりも消費した魔力は軽い。

 ランクは召喚に必要なマナの大きさにも関係がありそうだ。


 召喚獣全体へ攻撃を指示する。

 幸い敵の認知はしっかりしていた。

 細かい指示を出さずともホーンラビットが次々と飛び出し、スケルトンに飛び掛かった。

 1撃目でよろけ、2撃目で転び、3撃目で頭蓋を砕かれる。

 1体のスケルトンを撃破後、間髪入れずにその連携攻撃が決まる。

 スケルトンたちは動かなくなった。

 筋肉がない魔物など、所詮こんなものだろう。

 あっけなく、戦いは終わった。

 興奮したコッコの鳴き声が響く。

 こいつらは仕事しなかったな。

 いや、ホーンラビットの機動力に追いつけず、出来なかったのかもしれない。

 興奮するのはわかるが、ちょっと静かにしてほしい。


 コッコたちに静まるように指示するが理解してもらえない。

 困った。確実にまだ近くに敵がいる。

 このダンジョンで起こっていることを思い返せば、このスケルトンを使役する人影のモンスターがいるはずだ。そして、それは俺の近くにいる可能性が高い。

 このまま騒ぎ続ければ敵を引き寄せてしまう。


 ゴブリンとホーンラビットの戦闘を思い出す。

 ランクD-のゴブリン1匹に対し、5羽のラビットでほぼ互角だった。

 ゴブリンの主もまたこのダンジョンに生き残っているはず。

 再戦するとなるとランクEモンスター6体じゃ足りないだろう。

 数を増やしてもいいが、もっと質の高い戦力を召喚した方が心強い。


 幸いなことに俺には、マンドラゴラがいる。

 ランクCのモンスターだ。あの叫び声さえあれば、大抵のモンスターは敵ではないはず。

 俺は【マンドラゴラ】の迷宮スキルを使用しようと試みる。

 以前に見た草が生える。魔法の真似事をせずとも問題なく召喚できた。

 考察通り、やはりこの力は迷宮スキルと言うことだ。


 ただ、気になることが1つ。

 迷宮スキルを使う度に感じる疲労が、一向に回復しないこと。

 生き物は息と一緒にマナを吸う。

 普通はゆっくりと魔力が回復していく。

 前にそれなりに時間が経ったのに、少しも楽になる気配がない。

 召喚の代償は魔力ではないのか。

 今はわからない。少し不安が残る。


 気を取り直して、俺はマンドラゴラに動くように指示を出す。

 しかし、魔草は動かない。

 何度念じても動かない。

 薬師のばあさんの話を思い出してみる。

 前回以上の情報は思い出せない。

 そもそも拠点だったマカタ周辺じゃこんな高級魔草は取れなかった。

 俺には縁遠い存在だった。そのため、話半分で聞き流していた。

 そんなことを思い出し、話を真面目に聞いてなかった過去の俺を恨む。

 もどかしいのはコッコの命令だけでお腹一杯だ。


 とりあえず生きているかだけでも確認したい。

 コッコが未だに騒いでいる。

 焦った俺はホーンラビットに突くように指示をしてしまった。

 角先が触れた瞬間、勢いよくマンドラゴラは土の中から飛び出した。

 呪いの叫びとともに。


 おまえ、やめろ。

 あっ、ダメだ。…あぁ。

 馬鹿か、俺は。選択を間違えた。

 少し考えればわかったはずだろうが。

 自分の迂闊さ腹立たしい。


 マンドラゴラの叫びは聞いた生物に狂乱と死を運ぶ。

 それは仲間である他の召喚獣も例外ではなかった。

 気付いたときにはもう遅く、俺は6体の自身のモンスターを失ってしまった。

 部屋に残ったのは声の主のマンドラゴラのみ。

 やってしまった。ただ、悲しんでいる暇はない。

 叫び出したマンドラゴラもまた、近いうちに倒れる運命にある。

 俺はマンドラゴラに指示を出し、スケルトンの来た南の出口を潜った。

 どうせすぐに費える命なら、有効に使わないとな。


 部屋では戦闘音が鳴り響いていた。

 壁も隔てない隣部屋にいたのになぜ聞こえなかったのだろうか。

 ゴブリンのこん棒をスケルトンが自身の体長と同じほどの長い槌で受け止めている。


 【ロングハンマー】

 【ランクD+】


「ギャアアアアァァァァァアアアア」


 マンドラゴラの悲鳴が部屋中に響く。

 モンスターたちが倒れ、真っ黒い土へ沈む。

 ゴブリンの主と思われる人影がまたしても吹っ飛ばされていった。


 一息つこうとした俺だが、目の前の光景に固まる。

 白い人影がこちらを向いている。

 その様子が恨めし気にこちらを見ているように感じた。

 まだ潰れていない。

 気付くと部屋は黒い塊に満たされていた。

 明るいのはマンドラゴラの周りだけ。それはまるで暗闇に揺らめく蝋燭の明かりの様だった。

 倒れていたスケルトンがロングハンマーを杖代わりにゆっくりと起き上がる。

 そうだ。スケルトンはアンデッド。生き物ではない。それ故に呪いの叫びが効くない。

 叫びが効かないとなるとマンドラゴラはただの歩く薬草に等しい。


 マンドラゴラの悲鳴は続いているため、スケルトンと相性のいいホーンラビットは召喚できない。

 マンドラゴラの悲鳴が途絶えるまで待った場合、ゴブリンの乱入を許してしまうと可能性がある。

 乱入されるとホーンラビットでは勝てない。

 追加でマンドラゴラを出せば勝てるだろうが、その時にスケルトンが残っていれば状況は振り出しだ。

 マンドラゴラ召喚のコストは軽くない。

 先の見えない戦いで無駄な戦力の消耗は避けたい。

 最善はマンドラゴラ一匹でこの局面を乗り切ることだろう。


 俺は黒い塊にに触れないようにマンドラゴラの傍に寄る。

 対峙した人影が手を上げる。

 それは攻撃命令だった。

 スケルトンの眼窩が妖しく光る。

 それは獣の眼光のように鋭かった。

 さんざん狩ったことのある雑魚モンスターの姿のはずなのに、今はそれが恐ろしく見えた。

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