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49.追跡者との遭遇

 「むぅ、またここの探索か」

 「ちょっとマルコ。流石にもう星はダンジョンから出たんじゃないの」

 「普通はそう思うだろうな。それが星の狙いだろうよ」


 ここは世界迷宮(ワールドダンジョン)のマカタ西口から入った2つ目のダンジョン。

 ダンジョンの名はスケルトン地下牢。

 出現モンスターは低ランクのスライムとスケルトンのみ。

 これといった特徴もない典型的な上層の低難易度ダンジョンだ。

 熟練のパーティが長々と探索するような場所ではないが、この3人組はここ数日ずっとこの付近を探索していた。


 「いや無理があるでしょ。熟練の冒険者だってこれだけ経ったら物資が尽きるわ。補給なしにダンジョンに留まるなんてあり得ない」

 「もし、星が闇のカバンを持っていたとしたら」

 「そんな高価なもん、ただの子供に手に入れられるんか」

 「星の家が魔道具商を営んでいたとしたら、どうだ」

 「調べたの?」

 「なめんな。この程度の情報は簡単に調べられるんだわ。むしろお前らも知っとけよ」

 「だってそういうの、リーダーの仕事だし」


 闇のカバンとは闇の魔法によって容量増大と重量緩和をされた魔道具のカバンである。

 闇の魔法は通常人には扱えず、非常にコストがかかる儀式によって行われる。

 よって作製された魔道具は非常に高額となる。


 「地上工作員からの連絡だと星はまだマカタには入っていない。そろそろみつかるんじゃねーか……っとちょうどいいタイミングだ」


 ちちちち、という囀りと共に小鳥の従魔がリーダーの男の元へ戻ってくる。

 元きた道へ誘導するように飛び回る。

 本来の主人相手でもないのによく働くものだとリーダーの男は感心した。


 「こっちは立ち入り禁止エリアか。生まれたてのダンジョンは不安定だって聞いてたけど、こないだ入った時は思ったより安定してたよな」

 「私はあそこ好きよ。空があって、のんびりした雰囲気で」

 「むぅ。空があるのはある程度難易度が高いダンジョンと相場が決まっとる。油断はできんぞ」

 「とは言っても安定してたのは最初のエリアだけで少し進めばモンスターが山盛りだったけどな。まあ、そろそろ当たりくじを引いてもいい頃合いだろ」


 小鳥の従魔に従い、3人組はダンジョンの出口へと歩みを進めた。

 やがてスケルトン地下牢を出てダンジョン間を繋ぐトンネルに差し掛かる。


 コツコツコツ。

 3人の靴音がトンネルに響く。

 いや、3人以上の音がある。近くに他の人がいる。

 小鳥の従魔が見つけたのはきっとこの人物なのだろうと冒険者たちは理解する。


 「バッツ、見えたか」

 「ヒューマ、女、ローブ姿にカバン持ち」

 「ひょっとして、ビンゴってやつ?」

 「まだ分からない。慎重に近づくぞ」


 ハーフドワーフの男の証言から期待は高まる。

 3人の靴音は常人が気付かないレベルで少しずつとテンポが上がっていった。

 そして、ヒューマであるリーダーの目にも見える程に標的に近づいた。

 

 「間違いない。捕らえろ」


 リーダーの男の声と共に3人は駆ける。

 それに気づいたローブの女も走って逃げる。

 しかし、その差はどんどんと縮まっていく。

 

 捕まえた。

 リーダーの男がそう思った時、危険を察知しその場に留まる。


 横一閃。

 目の前で閃いた鉈は世にも珍しい刃が木製のものだった。

 金属と見紛う光沢が、それがただの木刀ではないことを知らしめていた。


 「おい坊主、お兄さんたちはそのお姉さんにちょっと用事があるんだ。そこをどいてくれないか」


 リーダーの男は先の攻撃を非難することもなく邪魔者に問いかける。

 その視線の先にはダンジョンに入るにはまだ若すぎると思われるエルフの少年がいた。

 しかし、その表情にはあどけなさなど残っていない。

 年季の入った装備と併せて只者ではない空気をまとっていた。

 ローブの女を後ろに庇い、冒険者パーティと対峙する。

 少年が口を開く。


 「大の大人が小娘一人に寄ってたかってか。貴様らどんな道理でこんな卑劣なことをしている」

 「なにこの子。可愛げない」

 「この子ではない。おまえたちより遥かに年上だ」

 「ふん。エルフのガキの先祖ごっこに付き合う気はないわい」


 苛立ちを隠さないハーフドワーフがこん棒を振るう。

 しかし、攻撃は予想外のもので弾かれる。

 それは足。

 何者かがエルフとハーフドワーフの間に割って入ったのだ。


 「おじさんを叩いちゃダメッ。ってなにこの状況。何の時間?」

 「人助けの時間だ、リマロン君。こいつらからこの子を守るぞッ」

 「えっ、よ、よくわかんないけど、りょーかい」


 農民風の格好の獣人の少女だ。

 その頭には兎耳。


 「エルフと獣人って、一体どんな組み合わせよ」

 「むぅ。いずれもなかなかの手練れ。これ以上邪魔するならこちらも本気を出さねばなるまいて」

 「坊主に嬢ちゃん、もう一度、言うぞ。その女を渡せ。そうすれば、君たちには危害は加えない」 


 少年エルフは首を横に振る。


 「そうか、残念だ。君たち二人は……そうだな、突如活性化した新ダンジョンの餌食になった。そういうシナリオでいこうか。……くっそ、おめぇら、大人なめんな!!!」

 「リマロン君、ひとまず引くぞ。このままの交戦は危ない」

 「えっ、でも、いや、だって、気まずいよ。さっきボスと喧嘩し……」


 爆炎。 

 女冒険者が放った火球が少年たちを襲う。


 「敵を前に談笑だなんてお馬鹿さん」

 

 手ごたえありと言わんばかりの笑みを浮かべる女冒険者。

 しかしハーフドワーフの表情は険しい


 「ダメだ、躱されとる。急いでおいかけるぞ」

 「噓でしょ」

 「チェック、補助魔法だ。俺とバッツが先に行く」

 「了解。私はマナポーション飲んでから行くわ。ほれ、脚力向上っと」

 「サンキュー。じゃあ、お先に。準備はいいか、バッツ」

 「むぅ、行くぞい」


 女冒険者を置き去りに補助魔法を受けた男冒険者二人は猛スピードで駆けていく。

 その先にはダンジョンの入り口。

 冒険者たちはその中へ吸い込まれていった。

  

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