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43.ダンジョン大改築

 俺は有名冒険者の突然の告白に愕然とする。

 ダンジョンの意志だと名乗ったのだ。

 ただの冒険者ではない。王国でも有数のランクA冒険者が、だ。

 しかし、彼女が先ほど口にしたダンジョンの知識の数々を考えるとそれが嘘だと思えない。

 レオン改めグリフォンの意志はそんな俺の様子を見て言葉を続けた。


 「ああ、失礼。いろいろと説明が不足だね。まず、君は成熟したダンジョンたちがどのように暮らしていくか知っているかい?」

 「いや、知らない……です」

 「ならば教えよう。今の君たちの状況と違って、成熟したダンジョンは一人きりでは生きていない。他のダンジョンと力を合わせて冒険者を誘導したり、資源を交換したり、協力ながら生きているんだ。ダンジョンには協調性が必要なのだよ」


 ちょっと意外だった。

 今のバトルロイヤルのような戦いがずっと続くものだと思っていた。

 

 「しかし、それは生存競争がなくなったわけではない。むしろ、群れから外れ協調できないダンジョンから淘汰されていく。それはわかるだろう」


 理解できる。

 1対多数の戦いであればどう考えても1の方が不利である。


 「しかし、ダンジョンの中には敢えて孤独を好み、積極的に他のダンジョンを狩ることで強くなろうとするダンジョンがいるんだ。そう、未熟なダンジョンを喰って大きくなろうなんて考えている輩が……ね」


 弱肉強食は道理だ。

 しかし、同格同士の殺し合いに成熟ダンジョンが乱入してきたら俺たちエリア期のダンジョンは生き残れないだろう。

 スケルトン地下牢での出来事を思い出す。あの時は手も足も出なかった。

 

 「もちろん多くのダンジョンはそれをよしとしないさ。私は世界迷宮(ワールドダンジョン)の平穏を守る、言わば自警団のような組織にいてね。そういった狂暴なダンジョンが力を付けないように見張っているのだよ。そういうわけで君を私たちの庇護下に入れてあげようという提案しにきたんだ。でも、それはやめにするよ」


 グリフォンの意志は優美な笑みを湛える。


 「君は強くなれる素質がある。どうだい。私に弟子入りしないか?」


 非常に魅力的な提案に思える。

 先輩ダンジョンを師匠につけることで多くのダンジョン構築テクニックを学ぶことが出来るだろう。

 しかし、あまりに都合がよい話に聞こえる。

 即答で快諾したい気持ちを抑え、俺は少し探りを入れてみた。


 「返事の前に聞きたいことがある……ます」

 「ふふ。なんでも質問してくれたまえ。そして敬語なんて人の文化だ。しなくて結構だよ」

 「感謝する。では最初の質問だが、どうしてわざわざ俺をスカウトするんだ? 育成するとしたらフロア期からの方がいいだろう。わざわざ戦闘回数が多く負ける可能性が高いエリア期なんかに声を掛けたんだ」


 ははははは、と高々に笑い声を上げるグリフォンの意志。


 「それはその通りだね。さっきも話した通りこれは予定外のスカウトだよ。それだけ君が規格外ってことさ。さっきも言った通り、本来は君の保護に来たんだ。普通この時期のダンジョンは戦力を揃えるのに手一杯のはずなのに、君は既に冒険者の受け入れ態勢が整っている。本気で驚いたよ。それともう一つ理由はある」


 グリフォンの意志は芝居がかった仕草で続ける。


「もったいないからだよ。これだけのソウルアドバンテージがあるにも係わらず、それを十分に有効に使えていないのが。このままじゃ今のレース、負けるかもしれないよ」


 確かに戦力が弱い自覚はある。

 だが、それを見越して少ないソウルで多くの戦力が育てる土壌を作ったつもりだ。

 何がいけないのだろうか。


 「君の戦略は先のフェーズに進みすぎている。それが現状と合っていないと私は思うね」


 師匠はこの勝負が俺が思う以上に短期で終わると踏んでいるようだ。

 確かにその場合、今の防衛策では弱いかもしれない。


 「弟子になれば、ダンジョン防衛の戦略についても教えてもらえるのか?」

 「学ぶのが弟子の務めだからね」

 「ならば弟子になろう」

 「おや、意外と早く決断したね。もっと慎重に考えるものだと思っていた」

 「実は既に決めていた。少し、理由を聞きたかっただけだ」

 「ふふっ、それは重畳。では、今から私と君は師弟関係ということだ。さあ、我が弟子、早速始めるよ」


 グリフォンの意志が凛と響く声で宣言する。


 「ダンジョンの大改築だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 俺はグリフォンのアドバイスに受けつつ、今までにない規模でダンジョンの改造を行った。

 俺は先程までのダンジョンを思い返す。


   A B C

     ↑

 1 □…■-■

   |   | 

 2 □ □ ■

   | | |

 3 □ □ ■→

   | | |

 4 □-□ ■

     ↓


 ■:冒険者通行可能 □:冒険者通行不可

 ー:出入口  …:隠し通路 →:扉

 

 開発地

 A1:オリジンルーム A2:畑部屋 B1:放牧地


 害獣住処

 A3、A4:シーフラット、サイズミンク C4:ティアスパロー

 C1、B3:ソルトゴーレム


 今回は冒険者の流れが大事なのでこのような表記をしてみる。

 現状、冒険者はB2の扉からのみ流れてきている。

 グリフォン曰く、オリジンルームの入り口を隠し通路化したのはいい策だが、それだけでは腕利きの冒険者はオリジンルームへの侵入口が見つかってしまう可能性が高いそうだ。探索する気を無くさせることが肝心らしい。

 そのために部屋ごとの環境の差を減らすことが重要だそうだ。

 確かにC2、C3以外の部屋は全て違うモンスターが生息している。

 このままだと侵入した冒険者はより警戒心を覚え隅々まで探索を行うとのこと。

 冒険者時代の記憶でも確かにそんなダンジョンはほとんどなかったことを思い出す。

 あえてダンジョンの情報量を絞る、これは意図的にダンジョン側が行ってきたことなのだと悟る。

 それを踏まえて変更したダンジョンがこちらになる。

 

   A B C

     ↑

 1 □…■-■

   |   | 

 2 □ □ ■

   | | |

 3 □ □ ■→

   | | …

 4 □-□-□

     ↓


 ■:冒険者通行可能 □:冒険者通行不可

 ー:出入口  …:隠し通路 →:扉

 

 開発地

 A1:オリジンルーム A2:畑部屋 通行可能部屋全域:放牧地


 害獣住処

 A3、A4:シーフラット、サイズミンク C4:ティアスパロー

 B3:ソルトゴーレム


 変更箇所を一つずつ解説しよう。

 最初はコッコの放牧地の拡大だ。

 思い切って冒険者が侵入できる部屋全域に広げた。

 生息モンスターは変異種を含むコッコとマッドスライム。

 監視役のラビブリンの配置は継続で、もしもの為に巣穴の近くにマンドラゴラを生やした。

 チビキビに隠れているので簡単には見つからないだろう。

 部屋の入り口から出口まではチビキビの生えてない曲がりくねった道でつながっており、基本的にそこを通れば戦闘が避けられるように設計してある。

 それに加えて、冒険者の道は低く、モンスターの生息地は高くし、地形に緩やかな高低差をつけることで自然と冒険者が戦闘を避けるようになる工夫も施した。

 俺としては敵モンスターも攻めてくる部屋にしては戦力が少ないと不安に思うが、グリフォン曰くは敵はスケルトン地下牢へ流れるから問題ないらしい。


 放牧地拡大に伴い、C1のソルトゴーレムは全滅させた。

 今後はB3一か所で生息してもらう。

 取れた岩塩は大量で取っておくとリマロンが余計に食べるといけないのでソウルに変換した。

 

 C4地点は出入り口を大きく変更した。

 C3への出口をA1-A2間のようにトンネルで隠し通路化し、新たにB4への道を開通した。

 一本道にすることで通路として認識させることで冒険者の探索意欲削ることが目的だ

 本当はグリフォンからは迷い込んでは困るのでティアスパローも滅ぼすように言われたが、拒絶した。

 スキルなしのモンスターの全滅は取り返しがつかない。ティアスパローは現状は害獣であるが、その涙が魔法薬の材料になるためうまく使えば将来的にダンジョンに利益をもたらす可能性もある。いくら師匠のアドバイスと言えどここは譲らなかった。

 それならばと妥協する形で隠し通路化の案を採用することになった。


 ん?

 ダンジョンは大幅に改築したが、なんというか防衛力が上がったとは思えない。

 フェーズと合っていないなどと言うからてっきりもっと戦闘を意識した構築にすると思っていたのだが、蓋をあければ今までの方向性を維持しつつ順当に改良される形となっている。本当にこれでいいのだろうか。


 「教え子の自主性を重んじた結果さ。ただ、今回はあくまで厄介な害獣がいない部屋に絞って変更したから、後でもう少し改良を加えた方がいいね」

 

 今回の改築はここまでだが、後でやるべき課題を貰った。

 冒険者可能エリアでの緊急事態に備えて、C2へいく隠し通路を作ることだ。

 そのためには放置していたB2の蟻塚で作業する必要がある。

 以前ファイアリザードの意志と戦って以降、ほとんど訪れていない。

 ファイアアントたちの反応次第では久々に集団戦が発生するかもしれない。

 勝ったことのある相手と言えど準備を怠らずに臨みたい。

 また、今の構築だと敵モンスターがスケルトン地下牢へ流れていきやすいため、スケルトンの意志へ一言を断っておく必要があるようだ。あの(ダンジョン)は例の事件もあったし、少し苦手だ。気を強く持てるときにお邪魔しよう。


 結果として、ダンジョンの構築が分かりやすくなったと思う。

 やはり歴戦のダンジョンから受ける恩恵は大きかった。

 今後も仲良くしていきたい。だが、やはり弱点へのフォローがないのが引っかかる。


 「なかなかよさげになったんじゃないか。後は自力で頑張ってくれたまえ。それじゃ私は……」

 「ちょっと待った。帰るのは早いじゃないか。師匠が指摘した弱点。結局ダンジョンが現状の戦況と合っていない点は変わっていない」

 「その通りだね。ちゃんと自分で考えているようで安心したよ」


 帰りかけたグリフォンの意志は足を止めると振り返る。


 「ただ君は勘違いをしているね。君に足りないのは防衛力じゃなくて攻撃力。私からはそんな君にぴったりなモンスターをプレゼントしよう」

 

改築後のC3-C4の地図の表記がおかしいですが仕様です。見にくくて申し訳ありません。

いい表現が思いつかずあんな表記になっております。

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