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42.冒険者、続々

 少年エルフの来訪の数日後。

 次の冒険者はすぐにやってきた。

 北口から現れたのは人間(ヒューマ)の男女2組だ。

 ギルド規定を知らないのか、はたまた知った上で来てるのか。

 真新しい装備をチャカチャカと揺らしながらチビキビの原っぱを歩いている。

 歩き方がなっていない。これはギルド登録したばかりの素人、ランクEの冒険者だろう。

 あーあ、索敵もそこそこに深い草むらなんて歩くものではない。

 モンスターに襲われても文句は言えないだろう。例えばこんな風に。


 男が肩に乗せている猿の従魔が叫ぶと2人は慌てて飛び退く。

 そこにマンドラゴラコッコが現れた。


 男は剣を抜き、女はマナを練っている。臨戦態勢だ。


 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 マンドラゴラコッコが人の悲鳴のような声を上げる。

 男は剣を落し尻もちをつく。

 女が魔法で作った水の球を霧散させて、へたり込む。

 男は呆然とする女の手を引いて、出口付近で振り返り全力で走り去っていった。

 その様子は無様として言いようがない。


 マンドラゴラコッコは俺が冒険者時代には聞いたことのないモンスターだ。

 希少種ではないが、うちの固有種なんて表現をしてもいいくらいには珍しい。

 初見のモンスターが未知の攻撃をしてきた。

 無様に逃げることは新人の対応としては正しい。

 死んだら元もこうもない。

 その様子を巣穴から監視していたラビブリンが出てきて、落としていった剣を拾って喜んでいる。

 まぁ、未確認ダンジョンは危ないと教えてあげた授業料としてありがたく頂くか。


 おや、また北口から来客だ。

 次はヒューマは2人、ハーフドワーフが1人と小鳥の従魔が1匹のパーティだ。

 従魔に索敵させた後に安全な道を選んで歩いていく。

 経験は豊富そうだ。ランクCくらいはあるのかもしれない。

 コッコたちには出ていかないように命令する。

 おそらくギルドから派遣された監視者のパーティだ。

 彼らには半年程、無害なダンジョンアピールをしないといけない。

 コッコやマッドスライムはいいとして、マンドラコッコは遭遇させないように気をつけて対応しよう。


 パーティは東側の部屋に進み、そのまま順当に東口に抜けていった。

 途中でソルトゴーレムと戦闘になったがあっさりと倒していた。

 ソルトゴーレムはランクD-のモンスター。

 少なくともあのパーティを相手にするには相応の戦力が必要なようだ。

 ラビブリンたちが見つかったら、一方的に狩られる可能性が高い。

 監視も気付かれないように十分に警戒することを再度リマロンから周知させよう。


 そんなことを考えていると先ほどのパーティは戻ってきた。

 そして、足早に北口から帰っていった。


 あのパーティは東側のダンジョンで何を見たのだろうか。

 彼らで対処できないモンスターがいたなどとは考えたくはないが……。


 しかし、冒険者が二組来ただけでも大きな成果だ。

 獲得できたソウルは大したことはないが、情報は大きい。

 俺のダンジョンは俺の出身国である王国に近いのだと思う。

 理由は従魔だ。

 帝国や聖国の冒険者はあまり従魔を使わない。

 2~4人のパーティに従魔を加えて探索するスタイルは王国冒険者特有のものだ。

 王国式の冒険者パーティが多いということは、ここの最寄りの世界迷宮の入り口は王国領にあるということだろう。


 さらに言うと新人が来れるということは上層に近いのだろう。

 先程の2人組は下層に行く許可も下りなければ、実力もないはずだ。

 しかし同時に、疑問も湧き上がる。

 俺の北口に繋がるダンジョンは武装したスケルトンたちで溢れるスケルトン地下牢というダンジョンだった。

 新人があのランクCモンスターを抜けてきたというのはおかしい。

 いや、あれはよそのダンジョンである俺を見つけたからの特別な措置だったのだろう。

 普段は上層のありがちな低難易度のダンジョンを装っているが、有事の際には強力な戦力が対応すると考えると辻褄は合う。


 ん? となるとスケルトン地下牢は上層ダンジョンで王国領。

 もしかしたら俺は冒険者時代に行ったことがある?

 喉元まで出かかっている気はするが、結局肝心な部分は思い出すことが出来なかった。


 あれこれ考察を重ねているところにまたも冒険者がやってくる。

 俺が冒険者やっていたときはギルド規定は守られていたと思っていたのだが、隠れてダンジョンに入る輩は意外と多いのかもしれない。

 入ってきたのは2人組。いや、1人と1匹だった。

 俺は思わず身構える。

 入ってきた冒険者のことを俺は知っていたのだ。

 知り合いというわけじゃない。有名な冒険者だ。


 彼女の名はレオン。

 〈百獣姫〉の異名を持つランクAの冒険者だ。

 隣にいるのは彼女の武勇を轟かしめたモンスター。鷲の頭と翼を持つ大猩々(ゴリラ)の魔物だ。

 漆黒の体毛と黄色に光る鱗を持つ前足の対比は鮮やかで真っ先に目を奪われる。

 その鍛え抜かれた四肢で大地を踏みしめる。大迫力のナックルウォーク。

 圧巻。圧巻の一言だ。

 このモンスターを黒き天使などと呼ぶ者もいると聞いたが実物を見て納得する。


 【ウッホグリフ】

 【ランクA】


 「す、素晴らしい……。なんという筋肉美……」


 言葉に出さずにはいられなかった。

 

 「どうだい、素晴らしいだろう。私の相棒、ウッホグリフのラファエルは」

 「ああ。通常の戦闘訓練だけでは鍛えにくい部位まで鍛えてある。特に上腕三頭筋は俺が見たゴリラ系モンスターの中でも圧倒的に綺麗な形をしている」

 「君、着眼点がいいね。そうさ、戦闘がない日でもしっかりと部位ごとトレーニングを積ませているんだ。大抵の人は大胸筋を褒めてくれるのだけど、一番気を付けているのは四肢の筋肉のバランスなんだ」

 「腕に気を取られ気付かなかったが、なんだその下半身は。こんな神々しいハムストリングスは見たことない」

 

 そうだろう、と満足げに頷くレオン。

 彼女の従魔に興奮が隠せず、すっかり筋肉談義に花を咲かせてしまった。

 おかげで今の不可解な状況に気付くのが遅れてしまった。

 彼女は冒険者にも係わらず俺を認識している。


 「それで、なんで貴方は俺が見えるんだ。百獣姫さん」

 「驚いた。君こそどうしてそっちの名前を知っているのかな」

 

 和やかなムードは消え去っていた。

 相手がランクAの冒険者。常人を逸脱する英雄だ。

 彼女がもし、ダンジョンを傷をつける武器を持っていたりしたら……。

 いや、そんなものなくたってランクAモンスターと一緒に彼女が暴れたらうちのダンジョンはお終いだ。

 どう動くべきか。まずはリマロンに……。


 「まぁそれはおいおい聞こうか。安心してほしい。今日は君を攻略に来たわけじゃないんだ」


 彼女が部屋を見渡すとなるほど、と呟いた。

 どうやら隠れているラビブリンやコッコたちはお見通しのようだ。


 「君は環境や資源系のスキル中心のダンジョンみたいだね。それにしてもだ。モンスターは非戦闘向き。罠はなし。そんな構築でここまで生き抜いている戦略のセンス。エリア期初期にも関わらず、変異発生を重んじた先を見据えたビルド。生態系(バイオーム)ダンジョンに必要な手札(スキル)を既に揃えられている運。これはただ庇護下に置くにはもったいないな」


 一体、何を言っているのだろうか。

 いや、最近生身の肉体を持つリマロン以外の者と話したことを思い出す。

 看守服のドワーフの女性だ。すると、レオンの正体は……。


 「改めて自己紹介しよう。私の名はグリフォンの意志。今日は君の勧誘に来たんだよ。マンドラゴラの意志君」


 冒険者レオン改め、グリフォンの意志は堂々と宣言した。

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