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40.世界迷宮の洗礼

 「トンネル開通直後に攻めてくるとは威勢のいいことだなあ。ああん」


 俺とラビブリンたちは武装したスケルトンたちに囲まれていた。


 「下層上がりの蛮族風情が上層とパス繋げたからって調子づきやがってよ。おめぇあれだな、まだ若けーな。フロア数一桁のガキンチョだろが。あん」


 リーダーと思われるスケルトンの怒気を孕んだ声が響く。

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

 俺は数時間前の自分自身を恨んだ。

 俺はもっと世界迷宮(ワールドダンジョン)に繋がることの意味を考える必要があったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ダンジョン間の扉が消え去り、3日が経った。

 予想通り、敵ダンジョンに大きな動きはない。

 後先考えず電撃戦を仕掛ける奴が1人くらいいるかもしれないと思っていたので少し安心した。

 しかし偵察にすら来ないのはちょっとした想定外だ。


 冒険者もやってこなかった。

 これも予想通りだ。

 そもそも知名度がないので冒険者が来るにはまだまだ時間がかかるだろう。


 そんなわけでここ数日緊張が走っていたダンジョンの雰囲気は既に扉の開通前のものに戻っていた。

 見張りの仕事が増えた分、作物のお世話係だけは必死に働いているがその程度の変化だった。

 

 そんな気が抜けかかっているモンスターたちとは違い、俺は焦らされていた。

 敵の情報に飢えていた。

 戦況はどうなっているのだろうか。

 もしかしてたまたま俺が攻められていないだけで既に戦闘が勃発しているのだろうか。

 敵の情報が手に入れば、戦力増強と合わせて厄介なモンスターや罠の対策を練ることができる。

 情報は強力なアドバンテージとなる。

 少し冒険してでも取ってきた方が今後のためだ。

 ラビブリンを使うか。いや、ここはこういう経験がある俺が行こう。

 リマロンは畑の部屋でスカルバケマッシュの相手をしている。

 いまなら彼女に気付かれずにいける。

 見つかると面倒だ。絶対自分も連れて行けと騒ぐ。

 俺はこっそりと出発準備を始めた。


 自身でダンジョン偵察へ行く。

 もちろん冷静ならこんな判断犯すわけはない。

 しかし、元冒険者でスカウトをやっていた経験からきっと問題が起こってもなんとか対処できるだろうと高を括ってしまったのだ。結局のところ、俺もまた緊張感が欠けていたのだった。

 

 近場にいたラビブリン5匹に命令して偵察の準備をさせる。

 3匹にシャベル、2匹にマンドラ爆弾(ボム)を持たせた。

 人数が多く偵察が敵に察知されるかもしれないが、俺が参加する以上、確実に逃げ切れる戦力はほしい。

 準備が整うと俺はコッコの放牧地から北へダンジョンの外へと足を踏み出した。


 ダンジョン間をつなぐトンネルをラビブリンたちと行く。

 冒険者時代に散々通ったトンネルだ。

 つなぐダンジョンが違えど、このトンネルはどこも同じような造りになっている。

 その光景になつかしさを覚えながらも違和感を覚える。

 少し考えると、違和感の正体が自分の目線だと気付く。

 ああ、宙に浮いている分、見下ろして見えてるのか。

 そんなことを思いながら、ひたすらトンネルを進む。

 1時間程歩くと相手のダンジョンの入り口が見えた。

 ラビブリンたちに装備の再確認をさせた後、俺たちはダンジョンへと侵入していった。


 そして冒頭の状況に至る。

 その間、なにが起こったのか一切わからない。

 ここはダンジョンの入り口のはずなのに、いつの間にかスケルトンたちに四方を囲まれていた。

 入ってきたはずの入り口はなくなっていた。

 

 【スケルトンプリズンガーダー】

 【ランクC】


 【罪印の焼き(ごて)】 【雷罰の警棒】 【看守の大盾】

 【ランクC】    【ランクC】   【ランクC】


 看守を思わせる帽子を被った大量のスケルトン。

 驚くことにそれらの全てがランクCであった。

 しかも装備品が充実している。 

 全て魔法の武具であることが予想される。

 なんなんだこの戦力は。


 「なんで攻めてきた、答えな若造」


 【スケルトンプリズンチーフ・スライハンド(BOSS)】

 【ランクB】 


 言葉を扱える高い知能を持つ高ランクのボスモンスター。

 看守服を身に纏うそのスケルトンの片腕は巨大なスライムの塊と置き換わっていた。

 聞いたこともないモンスターだ。希少種であることを予感させる。

 これが今回の倒すべき相手なのか。

 モンスター、物資、そして戦略。

 明らかにいままでの相手と格が違う。

 いや、違いすぎる。


 「このスケルトン地下牢の副獄長イワン様に恐れをなしたってか。ああん」

 「もしかして()()()ダンジョン?」


 そうだ。

 世界迷宮につながったのだから、当然成熟した大人の、普通のダンジョンとも繋がるはずだ。

 扉と敵ダンジョンの数が一致しているから早とちりをしてしまっていた。

 そしてそれは最悪のミスに繋がってしまったのだ。


 「ほぅ、第一声がこれか。おめぇ度胸あんな。立場わかってんのか」

 「どうか聞いてほしい。俺はまだエリア期のダンジョンだ。今回の戦いの標的のダンジョンと勘違いして侵入してしまった。見逃してくれないか」

 「おめぇあれだな。嘘ならもっとマシなの吐けや!」


 緑色のスライムの巨腕を地面に叩きつける。


 「ガキにしてはモンスターの質が良すぎる。強さってわけじゃねぇ。ただのランクCくらいなら持ってる輩もいるかもしれねぇな。だが、ユニークモンスターを複数持てるのはおかしいだろ。俺にはわかるんだよ。このイワン・アイで! そのモンスターが希少種かどうかが! 苦しすぎるんだよ、おまえの言い訳はよぉ!!」


 どうやらこちらの言い分は信じてもらえてないようだ。

 そして骸骨に瞳はないという突っ込みが出来るほど弛緩した空気でもなかった。

 リマロンの【ラビブリン】の存在を知らなかったら、召喚に遺志が必要なユニークモンスターがたくさんいるのはおかしなことなのかもしれない。でもダンジョン間の常識などこっちは分からない。

 客観的におかしいかどうかなんて判断できるわけがない。

 ただ、このまま敵と勘違いされて殺されたくない。

 なにか、なにかこの状況を打破できるてがかりはないだろうか。

 会話と態度から得られた情報はいずれも突破口にはなり得そうにない。


 「こら、イワンくん。やめなさい。その子はホントに子どものダンジョンよ」


 ボスモンスターの脇に看守服の女性が現れた。

 大人と言うには背が低く小柄で、子どもと言うには曲線的な体型の女性だ。

 ドワーフなのだろうか。それにしては綺麗にひげが剃ってある。文化的におかしい。

 注視しているはずなのに、脳に情報が流れてこない。擬態しているモンスターというわけでもなさそうだ。そもそもどうして人が割って入ってきたのだろうか。

 

 「でもよお、ママ様。こないだ下層の連中の動きがきな臭いって言ってただろぉ」

 「もうイワンくん、その一つ前の話題は忘れちゃった? 最近ダンジョンの卵が孵ったから気を付けるようにって言ったじゃない~。あらら~、こんな事ならガイドーやムキャクに任せればよかったわ……」


 乱入してきた女性がおっとりとした仕草でこちらに向き直る。

 いかつい看守服との印象の差が激しい。


 「ごめんね~。ケガはなかった?」

 「ああ、大丈夫だ。貴方は……」

 「私はこのダンジョンの意志。スケルトンの意志よ~。ボク、お名前は?」

 「ボ……? お、俺はス……いや、マンドラゴラの意志だ。助けてくれて感謝する……します」


 生前の俺より年下であろう女の子に子供扱いされている。

 いやドワーフならば年上もあり得るか。

 俺は未成熟のダンジョンで彼女は完成したダンジョンなのだから不自然なやりとりではない。

 頭ではわかるのだが、ヒューマ時代の感覚が残る俺には少し屈辱的なシチュエーションだ。

 突然のことに感情が追い付いていない。少しどもってしまった。

 そして状況が改善したとは言えない。

 なにせ、敵対行為と捉えられても仕方ないことを既にやっているのだ。

 生身の肉体があるのは疑問だが、相手は正真正銘このダンジョンそのもの。

 言わば俺の先輩だ。

 ここから一気に責め立てられる可能性がある。

 

 「うんうん、とってもいい子ね。わざわざにあいさつに来てくれたのよね。手土産まで持参でとっても礼儀正しい。お姉さん、感激だわ~」


 その視線にはラビブリンに持たせたマンドラ爆弾があった。


「ご近所さん同士助け合いは大事よ~。そういう姿勢なのはお姉さんも助かっちゃう。ほら、イワンくん。手土産を受け取らないのは失礼よ」


 これはそういうことだろうか。

 言外にマンドラ爆弾を渡せば今回は見逃してくれると言うことか。

 俺はラビブリンにマンドラ爆弾を渡すように命令する。


 「うちで育ててるマンドラゴラです。土から顔を出すと呪いの叫び声を上げ始めるので注意して扱ってください」

 「ま~素敵ね。あとでじっくり楽しむことにするわ」


 マンドラ爆弾の中身はより攻撃性の高いテノール種を入れている。

 万が一、鳴かれたら今の茶番を台無しにしかねない。

 注意喚起は必要だろう。

 それに楽しむとはどういうことだろうか。このダンジョンは牢獄。

 捕らえた冒険者の拷問でにも使うのか……。


 「うん、ホントに素敵な品ね、ありがと。ホントはいろいろおもてなししてあげたいところだけど、子どもが長くダンジョンを空けるのはめっ、よ。出口まで送るから今日はもう帰った方がいいわ~。改めてお姉さんが遊びに行くから、その時ゆっくりお話ししましょうね~」


 気付くと俺たちはダンジョンの入り口にいた。

 ダンジョンになってから一番の危機だったかもしれない。

 油断大敵、その言葉がこの半透明の身にもしっかりと染みた出来事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「イワンくん。隣で孵った子、いい子そうでよかったわね~。仲良くやっていけそうだわ~」

 「ママ様、あれじゃ脅しですぜ」

 「ん? なにがかしら~」

 「いやだから……説明してもムダか。これだからうちのママ様は……」


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