37.スカルバケマッシュ
俺はリマロンの案内に従い、南に2部屋進む。
ハイドラットの草原のある以前スカイホークの意志のための防衛陣を張った部屋にたどり着いた。
「ガッシャッシャッシャ」
そこにはキノコの笠をかぶったドクロのようなモンスターが笑うような鳴き声を上げ、サイズミンクを襲っていた。
お化けキノコにその白い体とは対照的な漆黒の腕を根元から伸ばしてイタチの魔物の首を絞めようとしている。
【スカルバケマッシュ】
【ランクC-】
サイズミンクが最後の足掻きで放った風の刃を放つ。
スカルバケマッシュの笠を掠め、傷をつける。
そのことに気付き、激高したバケマッシュが喚き散らす。
叫び声と同時にサイズミンクは幾度も地面に叩きつけられて、やがて動かなくなった。
バケマッシュとはキノコが魔物化したモンスターであり、一般的にはその毒性が高いほど強力なモンスターとなる傾向にある。
その骨ような白い笠は嫌でも先日処分したホネイミダケを連想させた。
瘴気が漏れるのを恐れてそのまま埋めたが、念を入れてソウルに分解すべきだった。
判断ミスが悔やまれる。
ランクはC-。
ラビブリンたちよりランクが高く、弱点でもつかない限りリマロンしか相手できないだろう。
スカルバケマッシュはサイズミンクの死体をおもちゃのように振り回して遊んでいた。
こちらに気付くと、興が削がれたかのように唐突に落ち着きを取り戻し、死体を投げ捨てた。
漆黒の腕が根元に引っ込むと、黒い靄に変化する。
そして草原を滑るようにリマロン目掛けて寄ってきた。
リマロン、迎撃だ。
「りょーかい」
「ガシャ、ガシャシャシャ」
「え、ホント?」
リマロンの動きが鈍り、止まってしまった。
どうしたんだ。
キノコ頭のドクロはもう目の前だ。
先ほど見た漆黒の腕がリマロンの下腹部へ伸びる。
危ない。
リマロンの腹に漆黒の腕が根を張るように張り付いた。
なんからのエネルギーがバケマッシュに流れていくのがわかる。
なぜだ。どうして動かない。まさか動けないのか。
俺は必死に呼びかけるが、リマロンに反応はない。
エネルギーの吸収が終わり、バケマッシュが腕を引っ込める。
辺りが静寂に包まれた。
「あー、なんか楽になった。体の中のつっかえがとれた感じ。なにしたの」
「ガシャ、ガシャシャ」
「へぇ、すごいじゃん! だったらコブンたちにもお願いしちゃおうかなー。いっぱい吸えちゃうよー」
どういうことだろうか。
リマロンが敵モンスターと親し気に話している。
理解が追い付かない。
「ボスぅ。いいでしょー?」
「リマロン、なにがどうなっている。説明してくれ」
「あっ、わかんない感じ? えっと、この子、闇のマナがほしいだけみたいだから、分けてあげようかなーって。私もため込んでたみたいで、吸ってもらったらすっきりしたよ」
「大丈夫なのか? かなり狂暴なモンスターに見えるのだが」
「根はいいヤツっぽいよ。で、さっきはどうして暴れてたの?」
「ガシャシャ」
「闇のマナを貰おうとしたら逃げられたからお仕置きだって。うんうん、わかるよー。弱いくせに言うこと聞かないやつって、とっちめたくなるよね」
バケマッシュのような魔物に知性があることは驚きだ。
思い返すと、いままでの言動は野蛮というよりは幼稚だ。
そしてリマロンよ。このダンジョンのボスとしてそんな幼い精神の相手と同じ感性なのはどうなのだ。
しかし困った状況だ。
スカルバケマッシュは幼い故にきまぐれだ。
暴れ出す可能性がある以上、ダンジョンの中枢部に入れたくない。
しかし闇のマナをわけるという提案を既にしまっているので、ここで追い返せば機嫌を損なう。
高ランクモンスターとの正面戦闘は避けたい。
ただ、闇のマナの除去が魅力的なことも確かだ。
忌土により闇のマナを体に溜めやすい俺のモンスターたちにとって貴重な闇のマナの排出手段になる。
リマロンにも闇のマナが溜まっていたことを考えると、他のモンスターや作物なども闇のマナに汚染されている可能性が高い。そうであれば由々しき事態だ。瘴気に侵され魔法不全になればモンスターたちの戦力は激減してしまう。
「リマロン、バケマッシュを畑まで案内してあげなさい」
「うん、りょーかい」
監視は怠るな、と小声で伝える。
「わかってるって。じゃあ、キノコさん、案内するからついてきて」
一つ隣の部屋、第二波後に作った全面が畑の大部屋へ案内させた。
闇のマナの被害はオリジンルームの畑の方が酷いだろうが、いきなり大事な場所に入れるわけにもいかない。
ここの畑の多くは忌土を使ってある。
闇のマナがほしいのであれば最適の場所だろう。
あと、手隙のラビブリンたちも呼び寄せてた。
とりあえず、これで様子を見てみよう。
大人しく闇のマナを吸って帰ればよし。
もし暴れられても、被害は最小限に抑えられるはずだ。
スカルバケマッシュは狂ったように頭を震わせて喜びを表現すると、漆黒の腕をあちこちに伸ばして闇のマナを吸収しだした。
土は脈打つように光り、ラビブリンたちの表情は緩んでいる。
やはり体に不要な物が取り除かれるのは気持ちいいのだろうか。
バケマッシュは腕を引っ込めると上機嫌に笑い声を上げている。
どうやら満足してくれたようだ。
気は抜けないが、こちらにもいい取引だった。
その様子を遠目に眺めているとバケマッシュがリマロンにしきりに話しかけている。
リマロンは笑顔だ。どうやら意気投合したようだ。
しばらく話し込んでいたがとあるタイミングでリマロンの表情が驚きに変わる。
ぴょいとこちらに飛びよってひそひそと話してきた。
「あのキノコさん、ここのこととっても気に入っちゃったみたいで住みたいって」
ただでさえリマロンの補佐の召喚を考えているタイミングなのに、こんな危険なモンスターの面倒を見るだと。
しかし、あの様子ではテコでも動くまい。受け入れるしかないか。
漆黒の手をパチパチと叩いて無邪気に笑うバケマッシュを見て俺は頭を抱えた。




