表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/95

36.ホネイミダケ

 リマロンに呼ばれた俺は肥料作成用の岩テントに到着した。

 そういえば久しくここに訪れていなかった。

 既存の畑の世話はラビブリンたちに任せっきりだった事を思い出す。


 うわ、なんだこれは。

 テントの中は異様な雰囲気に包まれていた。


 【ヤミオチゴケ】

 【ランクD】


 【忌土】でモンスターの死体を分解し【シロヒカリゴケ】で闇のマナを抜き肥料を作っている場所だ。

 本来であればシロヒカリゴケの明かりで夜でも明るいはずなのに、今は闇の覆われていた。

 入り口から差す日の光も弱いように思える。

 なるほど、この苔のせいか。それにしても保有スキルの変異種でもスキルを獲得できないこともあるのか。


 「苔もそうだけど、あれを見て。あのキノコだよ。なんかやばいやつかなーって」

 「これはホネイミダケか? リマロン、触れてないよな」

 「さわってないよ」

 「それで正解だ。なんかどころかかなりやばいやつだ」


 忌土から生えているのは萎びた白いキノコだった。

 傘の形が特徴的で遠目にみるとヒューマの腕の骨が土に刺さっているように見える。

 ホネイミダケはとても珍しいキノコだ。

 闇のマナが濃くアンデッドが発生しない環境下で生まれることはわかっているが、そんな特異な環境は滅多にないため生息地は限られている。

 大地から闇のマナを吸い上げる働きがあり聖職者が土地の浄化に使うことがある一方で、闇の魔法を行う儀式の供物として使われることもある。

 高級魔法資源であることには間違いないが、普通の資源すら満足に扱えない今の俺には持て余す。


 言うなれば瘴気の爆弾。

 何かの拍子に破裂して闇のマナを振り撒かれては敵わない。

 闇のマナは瘴気とも言って普通の生き物が吸うと魔法不全に陥る。

 俺のモンスターたちには漏れなく毒だ。

 畑のない部屋まで運んで土に埋めよう。

 ラビブリンに命令して、触れないように土ごとシャベルですくい、指定した廃棄場所へと運ばせた。


 どうしてこうなったのかをリマロンに聞き出した。

 内容は予想通りだった。死体の入れすぎである。

 忌土が大量の死体を分解したせいで、シロヒカリゴケが浄化できる許容量を超えた闇のマナが発生。

 それにより、シロヒカリゴケが瘴気の多い環境に適合するため変異。

 その後、テント内の闇のマナの濃縮が進み例のキノコが発生したのだろう。


 聞けば、大二波の戦い時点からいままで退治したグレーラットは全てここに放り込まれていた模様。

 しかしラビブリンたちは責められまい。

 知識を与えずに指示していたのはこっちだ。むしろ害獣ばかりに目を向けて既存施設が機能していると思い込んでいた俺の責任だろう。この後、全施設の見回りをしよう。他にも似たようなことが起こっているかもしれない。

 

 それにしても、もうこの肥料は使えないか。

 いや、シロヒカリゴケを再召喚したらまだいけるか。

 いずれにせよ、試してみて経過観察か。時間がかかるな。

 ボスを含めたラビブリンたちへ修理や点検の大切さを教育しないといけないな。

 一度道具を作る苦労を知るとその辺りの意識も改善していくだろうが、その前に知識として教えておくは大切なはずだ。どこかで時間を作ろう。


 この時の俺は浅はかだった。

 俺の中ではこの事件は既に終わったこととして捉えていて、再発防止策考える段階へ進んでいた。

 しかし、このキノコ事件は終わっていなかった。

 俺は今しがたの反省した思い込みをまたやっていることに気付いていなかった。

 運ばせたラビブリンたちが実はラビブリンファーマーに変異していたこと、捨て先の土に怖妖土が混じっていたこと。

 危険なキノコの変異を促す危険な状況であることに気付かなければならなかったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 害獣対策は日に日に形になってきてる。


 先日は一部のソルトゴーレムを蟻塚方面へ誘致することに成功した。

 観察によってソルトゴーレムは原理は不明だが増殖していること、群れが大きくなること活発に行動することが判明している。

 なので応急策として群れを二つに分けた。

 とりあえずはゴーレムが畑へ侵入する可能性は抑えられたはずだ。

 誘致方法に妙案が思いつかず、1体ずつリマロンに運搬させるという力技を行った。

 仲間意識の低い魔導生物でかつそこそこの小型だったため可能だった荒業だ。大変な仕事だったと思う。

 いつも以上にマンドラゴラを差し出すことにはなったが、必要な投資だったと考えよう。

 幸い、最近のリマロンは上機嫌でよく働いてくれる。


 その理由は食事の質の向上にある。

 この間生まれた変異種のマポテーショとマンドラゴラ・アルトは両方とも原種より美味らしい。さらにソルトゴーレムの破片から岩塩をとることができるため調味料を獲得できた。

 未だラビブリンたちの食事はヒューマ基準で料理というレベルには達してはいない。

 初期は野性味溢れる生食だったのが、現在ではポイズンダガーで食べ物をカットしたり、塩をまぶしたりなどの手間をかけるように調理技能が進歩している。

 ちなみに毒耐性のある彼女たちにとってこのダガーの毒液は調味料感覚らしい。

 元ヒューマの感覚からすればなんとも言えない気持ちになるが、ひとまず毒を食べても食中毒にならないことはいいことだろう。


 ただ、問題も起こっている。

 リマロンが調子にのって塩を取りすぎているということだ。

 塩分過剰摂取は健康を損ねる。それに安定供給できるか微妙なラインの塩を無駄遣いしたくない。

 まあボスラビブリンの生態には分からないことが多いからあれが適正量かもしれないし、ソルトゴーレムが全滅しなければまた塩は取れる。

 大した問題ではないと思っていたが、ある事実に気付き無視はできなくなってしまった。

 俺以外にリマロンに強く発言できる者がこのダンジョンにいないという現状が浮かび上がったためだ。


 現状、俺とリマロンの関係は良好である……と俺は信じている。

 いままでも、彼女の気分屋的な性格に悩まされてきたことも事実だ。

 なぜそれが今更問題になるかというとダンジョンの規模が大きくなったことが関係してくる。

 計画的に食糧や物資の配分を決めなければならないのだ。

 もともと気分屋で多くの物事に関心がいかない彼女にそのすべてを任せるのは些か不安がある。

 単純にキャパシティーオーバーという面もあるが、気分で指示がコロコロ変わることはこれから長期的な戦いに挑む上で不利に働くだろう。


 スキルで支配している以上、俺が考えて命令するという方法もあるが、あまり無理やり聞かせて信頼関係が壊れるのも困る。それに俺も視野が広い方ではないと自覚している。特に戦闘中は彼女の直感に助けてもらった。せっかく考えられる頭を持つボスモンスターを指示待ちの駒にしたくはない。

 

 かと言って、相談だけだと不安だ。

 俺が肉体を持たない以上、物資を管理するのはリマロン本人かリマロンに逆らえないラビブリンのだれかになる。彼女が暴走した時に物理的に止める手段がない。これはダンジョンが発展していくにつれてどんどん大きな問題になるのは明確だ。

 せめて、肉体を持ち彼女の配下でない知的なモンスターがいれば……そう思ってやまない。


 そろそろ使うべきだろうか。

 俺は体の中にある3つの力の塊に意識を向ける。

 大二波で手に入れたダンジョンの遺志。

 これがあればボスモンスターを追加で召喚できる。

 ボスはダンジョンに1体とは限らない。

 大型のダンジョンにはエリアボスやフロアボスといった存在は冒険者時代の知識で確認している。

 遺志を使えば、暴君予備軍のリマロンをしっかり管理してくれる副官ポジションの中ボスが召喚できるはずだ。


 現状召喚してない理由はちゃんとあるのだが……それを語るにはなんだか辺り騒がしくなってきた。

 ラビブリンたちが慌てている。緊急事態か。

 少なくともサイズミンクではない。撃退だけなら問題ないはずだ。

 そう考えているとリマロンが叫びながら走ってやってくる。


 「ボスぅ、ハイドラットの草原で新種のモンスターが暴れてるー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ