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34.害獣

 俺とリマロンは急いで部屋を出る。

 外ではコッコたちがパニックで暴れ、ラビブリンたちが必死に攻撃魔法を飛ばしていた。

 その矛先はコッコを咥えたサイズミンク。

 イタチの魔物はラビブリンたちの攻撃をするりとかわすと、踵を返して逃げ去った。


 「あー。待てードロボー」

 

 リマロンの悔し気な声が響く。

 サイズミンクは尻尾が鎌状になっているイタチのモンスターだ。

 ランクはD+。素早くて風魔法を器用に使うなかなか厄介な相手だ。

 エリア期の戦いはまだ始まってはいない。

 ではこの敵性モンスターは何者かと言うと、前回のルーム期の戦いの生き残りが野生化したモンスターである。


 現在、この野生モンスターの害獣化が一番の問題になっている。

 食糧を求める野生モンスターが俺の畑やコッコを襲っているのだ。

 迷宮スキルのないモンスターはいくら俺の中に住んでいようが、俺の自由にすることはできない。

 これにより自ダンジョン内のモンスター同士の衝突があちこちで起こっていることが確認されている。


 とは言え、このまま好き勝手にやられたら堪らない。

 俺は対策のために行動を始めていた。

 俺は一人の時間を利用して、ダンジョン内を回り、野生化したモンスターを調べ上げた。

 大二波を生き残ったモンスターは予想外に多く、調べるのは大変だったがなんとか調査を完了できた。

 現在のダンジョンの地図を見ながら1種ずつ、解説していこう。


   A B C

 1 ◇-◇-■

   |   | 

 2 ◇ ■ □

   | | |

 3 ■ □ □

   | | |

 4 ■-□ ■


 ◇:本拠地・畑など ■:害獣住処 □:未着手地

 ー:出入口 


 分かりやすく場所を示すために番号を振ったので、活用しながら説明しよう。


 サイズミンク。A3、A4地点に生息。

 ハイドラットの草むらに穴を掘って生活している害獣。主食はグレーラットだが、コッコを狙ってくることがある。襲撃頻度は高くないが、単純に戦闘力が高くマンドラゴラの攻撃をかわせる手段を持つので今一番対策が必要なモンスターである。


 グレーラット。A3、A4地点に生息。

 ハイドラットの草むらから現れる害獣。何度マンドラゴラで殲滅しても湧いてくるため流石におかしいと思い観察を続けた結果、以前見かけたハイドラッドが魔草であり、グレーラットの召喚魔法を扱うという事実が判明した。今は大事になっていないが、将来的な脅威度は最も高いと言える。

 

 ティアスパロー。C4地点に生息。

 濁流河川周辺に巣を作っている害鳥。大群で現れてチビキビを中心とした作物を食い荒らす。

 巣から畑が遠いため、動きを察知しやすい。その上マンドラゴラで簡単に撃退できる。しかし、追い払うのが遅れた時の被害は一番酷い。


 ソルトゴーレム。C1地点に生息。

 塩の結晶の体を持つゴーレム。襲撃こそしてこないが、あちこち徘徊する。現状被害はないが隣接する部屋に入られると塩で植物が育たない土になる可能性がある。侵入を阻む策が必要だろう。


 ファイアアント。B2地点に生息。

 巨大蟻塚に住む虫のモンスター。蟻塚内に食糧があるらしくあまり外へでないため無害に近い。可燃性の酸は危険だが、蟻塚と畑は距離が離れているので現状対策の必要はない。


 「つまり、こいつらを根絶やしにすればいいんだね」

 「いや、根絶やしにしないぞ」


 リマロンがおおげさに驚く。


 「どうして? 本気になればできるでしょ」

 「こいつらも元はおまえたちと同じ迷宮スキルで生まれたモンスターだ。変異を起こせば迷宮スキルが手に入るかもしれない」

 「けど、支配してないモンスターじゃん。ホントに手に入るの?」

 「助言者は相性がよければ手に入ると言っていた。絶対獲得できるものではないが支配できれば戦略に幅が生まれる」

 「はぁ? じゃあ、手に入るまでどうするの?」

 「コッコや作物を守るための対策を考えるしかない」

 

 リマロンが信じらんない、と呟き目から光は失せ絶望の表情をしている。


 「問題は多い。お前や子分たちにも知恵を借りたい」

 「いやいや、ボスが考えた方がいい案浮かぶでしょ」

 「手が足りないから各自で考えてやれと言っている」

 「じゃあ、いまから退屈な作戦会議?」

 「いや、いくつか既に考えてるからそれを実行する。いますぐ思いつけなんて言っても思いつけないだろう」

 「おー、ボスさすがぁ。で、何するの? 会議じゃないなら頑張っちゃうよー」

 

 リマロンの瞳に輝きが戻る。

 元々好奇心が強いので、新しい仕事への食いつきはいいのだ。

 持続さえしてくれればもっといいのだが。


 さて、野生化したモンスターと言えば、忘れていけない存在がいる。

 第一波からずっと住み着いているあのモンスターだ。

 影が薄くてリマロンは忘れているかもしれないが。


 「亀狩りだ。モストータスを捕獲する」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ボスー、穴掘りもう飽きたー」


 リマロンに任せたのは落とし穴作成だ。

 シャベルを使ってせっせこやっているが、既に集中力が切れている。


 最初は土魔法で何とかならないかと思ってたが、適性がないらしく駄目なようだ。

 土魔法の中でも系統があり術者に得意不得意がある。

 リマロンの適性は補助魔法だ。

 石弾でお馴染みの生成魔法や、土波でお馴染みの振動魔法は基礎魔法以外使えないらしい。

 俺は魔法の知識には明るくない。

 機嫌のいい時に少しずつ聞いてはいるが、今度しっかりとできる魔法を確認しておく必要が……


 「無視しないでよー」

 「すまん。考え事だ。穴はそのくらいでいいぞ。それだけ掘ればモストータスは捕獲できる」

 「で、捕まえてどうするの……いや、待った。私、わかっちゃった! ずばり甲羅ね。甲羅を使ってなんかすごい道具かなんか? を作るんでしょ」

 「確かに甲羅は便利そうだ。早速のアイディア提供感謝する。でも今回は違う、殺してはいけない。モストータスは生け捕りにする」


 今回の作戦のターゲット害獣はティアスパローだ。

 なぜ、それにモストータスが必要かはティアスパローの生態を知る必要がある。

 非力なモンスターの中には強力なモンスターに利益を与えることで守ってもらうものがいる。

 その典型例がティアスパローだ。

 ティアスパローは身体能力はただのスズメと変わらないが、その涙は即効性の治癒ポーション並みの回復効果がある。これを武器に強力なモンスターの庇護下に入るのだが、この共生関係にはもう一つの面がある。

 ティアスパローは大型生物の古くなった皮膚の角質などが主食なのだ。

 この涙も皮膚を食べる際に誤って本体を傷つけてしまった時のリカバーのためだという話を小鳥好きの喫茶店のオーナーから聞いたことがあった。

 ヒポポタマスという相棒が絶滅したダンジョンの環境下、ティアスパローは巨獣の皮膚に代わる食糧確保のため俺の畑を襲撃していると俺は睨んでいる。

 よって、ヒポポタマスの代わりにモストータスを南東の濁流河川のある部屋まで誘致することでこの害鳥たちの襲撃も収まるに違いない。

 モストータスにとっても、今の小さな池ではなく大きな水辺で暮らしたいだろう。

 この2種のモンスター、そしてもちろん俺にとっていい策だと俺は思っている。


 「でもさー。モストータスはホントにいるの? 私見たことないよ」

 「モストータスは臆病だ。おまえたちの活動時間には決して姿は現さない」

 「私、襲ったりしてないのに」

 「その気がなくても、おまえはマンドラゴラを抜きまくる立派な危険生物だ。やつらがこのダンジョンで一番警戒しているのはおまえじゃないか」

 「そんなー」


 一匹一匹捕まえるのは骨だが、現状、池に逃げ込んだ苔亀を捕まえる手段がない。

 地道に頑張るしかない。

 その後、俺はリマロンが用意してくれた穴を【忌土】によって塞ぐのに試行錯誤を重ねた。


 翌日、モストータスが罠にかからなかったこと、そして、スキルの扱いが上達したことでモストータスの住む【池】を分解し、苔亀たちを地上に出すのに成功したことはこの時の俺には知る由もなかった。


 迷宮スキルも上手に使いこなさねば、と後日俺は反省するのであった。

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