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32.ダンジョン交易都市と熟練冒険者

 ここは辺境都市マカタ。

 昼過ぎの大通りは人々が行きかい活気で溢れている。

 そんな中、冒険者ギルドではゆったりとした時間が流れていた。

 元気のある冒険者は依頼をこなしているかダンジョンに潜っているかで払っている時間だからだ。

 中にいるのは休息中の地元の冒険者がほとんど。

 併設している酒場で、酒を飲んで談笑したり従魔のお世話をしたり、思い思いに過ごしている。


 ギルドの扉が開く。

 吹き込む風と共に凛とした声が響く。


 「マカタの冒険者諸君、ごきげんよう」


 ほとんどの者は動かない。

 たまに勘違いした新人か浮かれた他所のお調子者がこういうことをする。今回もそんな輩だろう。

 皆がそう思い、横目でちらりと確認する。

 その姿を見て固まる。浮かべる表情は驚愕だ。

 

 その人物はそんな視線もものともせずに受付へ歩み寄ると受付嬢へ話しかけた。


 「ギルドマスターはいるかい? アルブランチからレオンが来たと伝えてほしい」


 受付嬢は頬を赤らめ、上ずり声で返事をすると奥へ引っ込んだ。


 なんで〈百獣姫〉がこんなところに、近々アルブウッドへ遠征でもあるのか、とにかく大事件だ、冒険者たちがざわめく。


 男性貴族を思わせる装いと中性的で整った顔立ち、そして堂々たる立ち振る舞い。

 彼女のオーラに当てられてほとんどの者が動けない中、フクロウの従魔を従えたシスター服の女性が彼女へ近づく。


 「ごきげんよう、レオン。わざわざこんな田舎まで一体どうされたのですか?」

 「やぁ、アルメリア。息災かい。1年前の遠征以来だね。ギルマスの準備が整うまで一杯付き合ってくれよ」


 レオンは返事を聞く前に、シスター服の女性の手を取ると、彼女がもともと使っていた席へ向かう。

 流れるように店主に葡萄酒と軽食を注文し、シスターを座らせた後自分も優雅に席に着く。

 様子を見て、周りの女性冒険者から黄色い声が上がる。

 こういう対応に慣れているといった様子のシスター服の女性は平然と話を始める。


 「本日はお一人ですか?」

 「いや、ラファエルと一緒だよ。今は喫茶店に預けてたけどね」

 「従魔1匹と来るのは普通の人は一人と答えるものですよ。それにしても詠われるランクAモンスター連れですか……。もしかすると……そういうことですか」


 柔らかかった口調が真面目なものに変わる。


 「いやいや、違うさ。特命でも依頼でもない、ちょっとしたお使いだよ」

 「怪しいです。前回もそんなこと言ってアルブウッドの森に連れていかれたんですから」

 「知ってるかい。大陸中の主要都市は中層の<翼獣の螺旋渓谷>を経由すればいずれも1週間でいけるんだ。つまり、みんなが思ってるより世界は狭いんだよ」

 「答えをはぐらかさないでください。昨年のようにまた私を巻き込むつもりでしょう? 今回は依頼がありますのでお付き合いできませんわ」


 従魔のフクロウが翼を広げて威嚇する。

 レオンは苦笑いを浮かべる。


 「ちょっとからかっただけなのに、そんなにムキにならないでおくれよ。今回は本当に君を巻き込むつもりはないんだ。アルブロートの隠れ里……」


 アルメリアが唇の前に人差す指を立てる。

 

 「ここにはヒューマや若いエルフもたくさんいますわ」

 「失礼。ともかく安心してほしい。それにしても、依頼があるのにギルドに残っているのかい。いつもなら真っ先に飛んでいく君が珍しい」

 「今回はいつもとは趣が違う依頼ですの」

 「もしかして君のユニークな魔法絡みかい。普段は断ってるだろうに、やはり珍しい」


 アルメリアは頬を少し膨らませる。


 「成り行きですわ。昔馴染みからの依頼でして、断る前提で依頼料を吹っ掛けたらお支払すると言われました。ここの所、少々出費が多かったのでありがたいにはありがたかったのですが……こちらの対応を読まれてたようで癪に障りますわ」


 アルメリアは徐々に早口になっていく。


 「私は<共感者〉。情景共有(サイコメトリー)の魔法で、モンスターに襲われた人々の記憶を読み取って、その仇をとることを生業にしています。人々からの称賛の声が私の生きがいなのです。なのに、どうして私が誰からもちやほやされない裏家業のお手伝いなどしなくてはならないのですかっ。発売前の魔法薬のレシピが盗まれたなんて知りませんよ。しかも犯人が共同開発している魔法学院の学生だなんて。大方悪い大人にそそのかされたんでしょうに。記憶を読み込んだ後に消されるなんて事にならないでしょうね。仕事柄、お尋ね者の首をはねたことくらいありますが、子供は別です。そんなの後味が悪すぎますわ」


 アルメリアは止まらない。

 依頼主の情報漏洩は信用低下に繋がる。

 レオンは一瞬焦るが周囲に風の障壁が発生していることに気付く。

 他の冒険者たちには彼女の声は聞こえてない。

 繊細な魔法の扱いが得意なアルメリアにとってこの程度の魔法は造作もないことだろう。


 溜まっていたのだろうとレオンは思った。

 偽りのシスター服に身を包み清楚に振舞う彼女だが、その本性は目立ちたがりの冒険者だ。

 最近はよく活躍を耳にしたし、<共感者〉として依頼者の前で活動することが多かったのだろう。

 自分に助けを求める弱者に優しく振舞う一方で、懐の温かい依頼者に追加報酬を求めたり、吟遊詩人に金を掴ませ自身の英雄譚を作成させるなどの行動を起こしている。

 そのため、偽善者なんて陰口を叩かれることもよくあることだ。

 しかし、彼女が身内を殺されたり、村を潰された人々から身銭を切って格安で討伐依頼を受けることもまた事実。

 偽善だろうが弱者からしたら立派な英雄だろう、とレオンは止まらないアルメリアの愚痴を聞き流しながらそう考えをまとめる。

 

 受付嬢がこちらに歩いてくる。

 ギルドマスターの準備が整ったのだろう。


 「アルメリア、もっと聞いてあげたいがそろそろ時間のようだ」

 「あら、気付けば私の話ばかり。失礼しましたわ」

 「そうだ、最後に一つ、聞かせてくれ。半月程前に確認された世界迷宮の新エリアで亡くなった冒険者を知っているかい?」

 「直接的な知り合いではありませんが、話だけでしたら。確かランクC昇格目前の殿方だったと思います。この街では珍しく斥候(スカウト)技能を収めていたので記憶に残ってますわ」

 「王国の冒険者なら従魔にさせるからそれは確かに珍しい。貴重な意見、ありがとう。マスター、お代はここに。釣りはいらないよ」


 ランクA冒険者は黄色い声に見送られて、ギルドの奥のギルドマスターの部屋へと消えていった。

 

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