31.ダンジョン交易都市と外国冒険者
1~2話くらいダンジョンの外の話をします。
「むぅ、やっと着いたか」
「私、お腹減った。まず食事にしましょ」
「馬鹿言え。最初は宿だ。深皿の都なめんな。あっという間に部屋埋まるからな」
ダンジョンの入り口前の検問所から3人の冒険者が出てくる。
世界迷宮は世界中にその入り口がある。
よって、入った冒険者が同じ場所から出てくるとは限らない。
むしろ、補給のために近場の出口から抜けたり、通路として活用されることから別の場所から出ることの方が多い。そして、それは国境をまたぐ場合もある。そのための検問所だ。
冒険者がたどり着いた地はブランチ王国の辺境都市マカタ。
王都から遠く、四方を山々に囲まれ、陸路のみで見れば来訪が困難な陸の孤島。
特産品もこれと言ってなく、本来であれば都市ができるような立地ではない。
しかし街には賑わいがあり、盛んにあちこちで商売が行われている。
ここはダンジョン路によって物が集まり商売で栄えたそんな商売の都市なのだ。
人々は山々を皿に例えてその底にあるこの街を深皿の都と呼んでいた。
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「見て、エルフがいっぱい。うちの国じゃほとんど見ないのに」
「辺境と言ってもここは王国領だぜ。いて当然さ」
「むぅ……落ち着かんな……」
宿を借り終えた冒険者たちは、近場の食堂に入り、久々の温かい食事を堪能していた。
3人は食事が運ばれると黙々と食事を続ける。最初の一人が食べ終わるまでそれが続いた。
「……いかんな。エルフに囲まれて食欲が湧かん。酒がないと食ってられんわい」
「夜まで待てよ、バッツ。ドワーフの血が流れてるっていってもおまえはちゃんと酔っぱらうだろ。今日はまだ仕事が残ってるんだ」
早々と食事を終えたハーフドワーフの男をリーダーの男が嗜める。
「食ってられんって、それだけ食ってよく言えるわね」
「むぅ、前衛は体力勝負だ。食わんとやってられんのだ。おぬしこそ、そんなんで足りるんか」
「いままでダンジョンに潜ってたのよ。ここ数日少量の携帯食だったのに、いきなりたくさん食べたら胃がびっくりするじゃない」
「俺もバッツに同感だ。だいたいチェック、食事いきたいって言ったのおまえだろ。腹減ってるなら普通はもっとがっつくわ」
「私はマルコやバッツより繊細なの。一緒にしないでもらえる?」
ヒューマの女が悪態をつくが、パーティの二人は気にしない。
いつものやり取りなのだろう。
「で、これからどうするの、マルコ。というか私は星がここに逃げこむってことも疑わしいだけど。魔法学院の学生さん、つまり子供でしょ。単独でダンジョンに入って国外逃亡なんてフツーやる?」
「フツーの学生じゃねぇからこんな事件起こしてるんだろ。やり手だぞ、今回のターゲットは。それに簡単に捕まる相手ならそもそも俺らに声はかからないからな」
リーダーの男が地図を広げて早口で説明を続ける。
「動向はおおよそ掴めている。星はロッドマ郊外から世界迷宮に入ったのを確認されている。あれだけのことをやった奴は逃亡に安全な道は選べない。そして、星の実力を鑑みてルートを計算すると、このマカタに来るルートで逃走した可能性が非常に高い。だろ?」
リーダーの男はウインクをするが、様になっているとは言い難い。
ヒューマの女の顔が歪む。
「なによ、実力もルートも推論ばっかりじゃない」
「チェック、動向の議論は終わっとる。それに他の道には他の追っ手が当たっとるわい。それよりも自分らの仕事だ。盗まれたのが情報故に、単純に捕まえて取り返せばいいというものでもあるまい。王国人にあの情報が渡っていないと証明する策はあるんか。マルコ」
リーダーのヒューマの男がニヤリと笑った。
「なめんなよ。策はあるぜ。ここの冒険者に今回の件に打ってつけの魔法を使える奴がいるんだ。雇い主からはこっちの冒険者ギルドに既に指名の依頼を出してもらっている。今から依頼者代理としてその冒険者に会いに行くぞ」
「その冒険者って誰よ」
「ランクはB級、〈共感者〉のアルメリアだ」
「むぅ、大丈夫なんか。〈共感者〉の逸話は聞いたことがあるが、こういう仕事を受ける人物とは思えん」
「ああ吟遊詩人の歌を聞いたのか。けひひひひひ。バッツ、おまえ本物見てびっくりすんなよ」
下品な笑い声と共にリーダーの男が席を立つ。
仲間の2人もその後に続いた。
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交渉を終えた冒険者一行は冒険者ギルドから出てきた。
「あー、おまえらもうちょいフォローしろよな」
「なによ。交渉事はリーダーの仕事でしょ」
「むぅ、国外で歌われる程の英雄にあんな一面があったとは。これだからエルフは信用できん」
「まあ依頼は受けてくれたんだからいいだろ。追加の依頼料は雇い主持ちだしな。これで俺たちは星を捕まえることに集中できるってわけだ」
冒険者一行はとある店の前で止まる。
店の看板には「桃色の止まり木」と書かれていた。
「ここがアルメリアの紹介してくれたお店? ただの喫茶店に見えるんだけど。本当にここで従魔を貸してくれるの?」
「むぅ。王国人は国民の7割が魔物使いだ。大きな街には必ず従魔の種類ごとに預かり場がある。ここでは情報交換のために喫茶店が併設してるのだろう。ここは鳥専門か」
「厳密に言うと小~中型の果実を食べる鳥類専門だ。小型肉食専門、大型肉食専門、珍しいところで特殊技能を修めた鳥類専門なんて店もあるぞ」
「なにそれ? 分類細かすぎ」
そんな話をしながら一行は店の中に入っていった。
店の中は鳥の集会と言えるような大騒ぎだった。
リーダーの男が店員に聞いた話によると、さっきまで王都のランクA冒険者が来ていたそうでそのファンたちで混みあっているそうだ。
そのほとんどが女性で冒険者が去った今も黄色い声が飛び交っている。
「ランクA冒険者って確かに珍しいけど、こんなに騒ぐことかしら?」
「〈百獣姫〉のレオンを知らないのか? 帝国の酒場でもよく噂されてるんだけどな」
「むぅ、ランクAのモンスターをテイムしたという女傑か。ああいう人気者気取りは好かん」
「チェック、せめて表の情報くらいは自分で集めてくれよ」
めんどくさい、という女にリーダーの男が声を荒げる。
「なめんな。雇い主と調整したり、情報の裏とったりでこっちは忙しいだよ。少しは手伝え。ていうか情報取集は冒険者の基本だろうが」
「でも、そういうのはリーダーの得意でしょ」
ヒューマの女は悪びれもせずそんなことを言う。
店員が鳥かごを持って現れる。いつの間にか話をつけていたリーダーがそれを受け取る。
「これでここ周辺のダンジョンは格段に歩きやすくなる。せっかく先回りしたんだ、やっかいな地上に出られる前に星をダンジョンで捕えるぞ」
「ふぅん。王国の冒険者の斥候は従魔に任せちゃうんだ。私も従魔の作り方、習おうかしら。ま、下準備はこんなもんでしょ。明日は早いんだし、さっさと宿に戻りましょ」
「むぅ、やっと酒が飲めるか。長かった」
「補欠といえど格上の冒険者の従魔を貸してもらったんだぞ。なめすぎだろ、おまえら」
冒険者一行はそんなやり取りをして喫茶店を去っていった。
夕焼けの街はまだまだ活気で溢れていた。




