28.ヒポポタマスの意志4
なんて恐ろしい攻撃なの。
私は怖くてたまらなくなった。
ウサギが地面からニンジンを引き抜くと、ニンジンが叫んだ。
その恐ろしい声を聴くと私のモンスターたちは次々と倒れてしまったの。
なによ、あんなの反則じゃない!
私は【ティアスパロー】を使ってスズメを呼び出すと、なんとか持ちこたえているヒポポタマスへ癒しの涙流させた。
私の側のヒポポタマスたちの顔色がよくなる。
突っ込ませた子たちはまだぐったりしている。
急いで助けないと。
いや……ダメ。
【マンドラゴラ】
【ランクC】
私の目の前にはいつの間にかニンジン畑が出来ていた。
白い影の仕業ね。
だったら、あのニンジンの攻撃を防ぐ方法を見つけなきゃ。
また引き抜かれたら今度こそあの子たちが立てなくなっちゃう。
どうしよう。耳を塞げば大丈夫かしら。
でも、ヒポポタマスたちには耳を塞げる手がないわ。
視線を落とすと、倒れたスズメとスライムが目に入る。
気になってよく見ると、スライムは動いていた。
もしかしてスライムには効いてないの? びっくりして落ちただけかも……。よし、決めた。
ごめんね、と一言言って、私はヒポポタマスの耳に【マッドスライム】を使う。
これでどれだけ防げるか分からないけど、ないよりましよね。
怖いけど、時間をあげちゃうとどんどんニンジンを収穫されちゃうわ。
突っ込みましょう。
私はスライム耳当てをしたヒポポタマスたちに攻撃を指示した。
今度は私も後ろからついていく。
耳当てを狙われてもすぐに召喚し直せば、なんとかなるはず。
予想通り、ウサギはニンジンを引き抜いた。
そして、脇から出てきた小さい兎もニンジンを引き抜いた。
一気に二本も! なんて卑怯な。
ヒポポタマスたち、頑張って!
走り続けるヒポポタマスたちは大口を開けて、ニンジンに負けないくらい叫びながら走り続ける。
大丈夫。勢いは落ちてない。
スライムも張り付いたまま。
敵はこっちより小さい。もう避けられない。
苦し紛れにニンジンを投げつけているようだけど、もう遅い。
小さいウサギは踏み潰し、大きいウサギは弾き飛ばした。
これで残るはモンスターを操る影だけ。
さぁ……ってあれ。影はどこ?
さっきまでいたはずなのに。
イヤな想像がよぎる。
まさか……ムーちゃんのところ。ムーちゃん!
後ろを振り返る。
そこには倒れたモンスターたち以外なにもいなかった。
そう、誰も私のオリジンルームへの出口を守っていなかったの。
ニンジンに気を取られて、守りのことが頭から消えていた。
もしかして、影は既にオリジンルームに?
ムーちゃんが危ない!
さぁ、ヒポポタマスたち急いで戻りましょう。
しかし、ヒポポタマスたちは動かなかった。
どうして?
さっきまで元気だったのに。
顔を覗き込む。
なんだか表情がおかしい。見開かれていたその目は正気とは思えなかった。
わっ、急に暴れだした。
どうしたの? もう敵はいないよ。止まって。お願いだから止まってよ!
ついに2頭は互いが敵同士かのように攻撃し合い、弱り、最後には胃の中ものを吐き出し力尽きた。
私の叫びは届かず、あの子たちの奇行を見守るしかできなかった。
吐き出した物の中にニンジンがあった。
まさかぶつかる直前に口に放り込りこまれたの?
体の中で叫ばれたからか、ニンジンに毒があったのか、理由はよくわからない。
頭が真っ白になりかけた。でも、そこでムーちゃんの顔が浮かぶ。
ヒポポタマスたちはまた召喚すればいい。
でもムーちゃんは違う。
私は全力で私のオリジンルームへの出口へ飛ぶ。
そこからなんとムーちゃんが現れた。
ニンジン攻撃を受けたのか目から血を流し、身体はふら付いているけど、ちゃんと生きている。
よかった。本当によかった。
ムーちゃんが何か叫んでいる。
どうしたんだろう?
やっぱりあのニンジン、毒なんだわ。そうだ、こんな時のために【ドクダミ】のスキルを手に入れたの。これで毒を抜けるはずよ。
【ドクダミ】を使おうとしたとき異変に気付いた。
あれっ。私の体、崩れてる?
そこで私はダンジョンが消える条件を思い出す。
そっか、狙われたのはムーちゃんじゃなくて、私だったかぁ。
オリジンルームに支配領域がなくなればダンジョンは生きられないもんね。
ムーちゃんが部屋から出たのを最後に私の支配領域がなくなっちゃったんだね。
ムーちゃんの表情を見ると分かる。
あれは私を助けにきたんだ。私の叫びが届いたんだ。
助けを求めた結果、自分で自分に止めを刺すなんて私って本当に馬鹿だなぁ。
でも私が死ねば、ムーちゃんは敵のダンジョンさんと争う理由がなくなるのでは?
ダンジョンである私が消えてもボスモンスターは生き残る。きっとこれでいいんだ。
私にはダンジョンの意志なんて務まらなかったんだ。
ムーちゃん。本当に不甲斐ないダンジョンでごめんなさい。
これからは自由に生きてね。
なんだかとっても眠い。
最後のプレゼントはムーちゃんに届くかなぁ。
そんなことを思いながら私の意識は薄れていった。




