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27.ヒポポタマスの意志3

 俺たちはカバ獣人の退却していった部屋へと進む。

 部屋の中には白いゴーレムの残骸が転がっている。

 俺たち以外に生きている者はいない。

 ワーヒポポタマスはさらに奥の部屋に退却済みのようだ。


 作戦は立てた。装備も最低限だが整えた。

 リマロンの調子も悪くない。

 手負いと言えど相手は格上だ。傷が癒える前に攻撃に移りたい。

 ワーヒポポタマスの吹き飛ばし攻撃でラビブリンたちはダメージを負っている。

 鉄鉱岩の陰に逃げ込んだ者以外は戦闘できる状態じゃない。命の危機を迎えている者もいる。

 攻撃をかわした兎小鬼たちに救助や治療は任せてある。

 そのため、攻め手は俺とリマロンの2匹だけ。

 流石に手が足りないと思い、新たに2匹のラビブリンを召喚してもらう。

 戦闘経験がないのは些か不安だが、今回の作戦はリマロン単体で行えるものではない。

 作戦は理解できたようなので働きに期待しよう。


 本当のことを言えば、必要なタイミングで俺が直接召喚したいが、そんなことは出来ない。

 こういう時使い勝手の良いモンスターのスキルがあればよいのだが、ないものは仕方ない。

 ああ、戦いを重ねるほど欲しいスキルが増えていく。

 今の俺には足りないものが多すぎる。今回得たスキルも役に立つものあるが、戦闘前から欲しかったのは装備の【アイアンシャベル】くらいではないだろうか。モンスター系のスキルが1つも取れていないのも問題かもしれない。


 リマロンには特注のアイアンシャベルを渡してある。

 特注と言っても獣鬼姿の彼女が振り回せる程でかいだけではあるが。

 いいものと言うにはちょっと期待はずれかもしれないが、現状俺から渡せる唯一の大型武器だ。

 装備のサイズ変化にはなかなかソウル使うので大事に使ってもらいたい。


 相方のウサウサッ、という声でハッとする。

 いけない。これから一番激しい戦闘が待っているのだ。

 気もそぞろで臨んでいいものではない。気を引き締めよう。

 俺たちは次の部屋へと進んだ。


 次の部屋も大部屋だった。

 半数以上のダンジョンが防衛で役立つ仕切りを取っ払っているのは、やはり分解で手に入るソウルが美味しいからなのだろうか。

 先ほどの決意とは裏腹に意識が思考の渦に飲まれそうなるが、すぐ現実に戻る。

 目の前には毛がない奇妙な獣がいたからだ。

 牛なんぞ遥かに上回る巨体だ。そして、その顔は先ほど猛威を振るった巨人と同じ顔をしていた。


 【ヒポポタマス】

 【ランクC-】


 これが例の獣、カバか。こんなに大きいのか。

 獣鬼の姿のリマロンより大きいというだけで脅威なのにそれが4頭もいる。非常に厄介だ。

 更にその巨大な頭の上に小鳥、背の上にスライムがいる。


 【ティアスパロー】 【マッドスライム】

 【ランクD-】    【ランクE】

 

 おそらくは補助要員。ヒポポタマスの行動を助けるためにいるのだろう。

 そして、それらを従える白い影がこちらを睨みつけていた。

 輪郭のみのその体。当然瞳は見えないが、それでもわかった。

 影が地団太を踏むような動作をすると、2匹のヒポポタマスが横並びにこちら目掛けて突進してきた。

 あんな重そうな体をしているのに、スピードが速い。

 このままだと、あっという間に突撃されてしまう。


 く、また想定が外れた。

 ボスモンスター単騎で攻撃を仕掛けてきたという事実を基にある程度相手の戦力を予想していた。

 ボスモンスターの元となったメインモンスターの機動性が低いと予想を立てた。

 鈍重なパワータイプだったが、ボスが人型になったことでボスのみ機動性が高くなったためそういう選択をしたと考えたからだ。

 相手のモンスターの種類は少ないと予想を立てた。

 ボスモンスターのワーヒポポタマスなんて聞いたことがない。おそらくは希少種(ユニークモンスター)。よって、モンスター系の迷宮スキルをいくらか潰して召喚しているはずだと思ったからだ。

 でも、いざ蓋を開けてみるとこの結果だ。これはもう笑うしかない。結局作戦は台無しで、場当たりでいくしかないじゃないか。


 「リマロンっ」


 俺が叫ぶとリマロンの足元に草が生える。


 「ギャアアアアアアアアアアアアァアアアアアアァ」


 間髪入れずに草は引き抜かれる。もちろん、マンドラゴラだ。

 爆走していたカバはよろめき、血を吐いた。

 が、並走相手と寄り添い合って進むことでこちらへの前進をやめなかった。

 それでも勢いが削がれたため、兎頭の鬼たちは大小どちらもその攻撃をかわすことに成功した。

 

 相手側の影を見ると、ヒポポタマスの上にいたモンスターたちは全て床に落ちて動かなくなっていた。

 控えていたヒポポタマスにもダメージはあるが、十分ではなさそうだ。

 影が小鳥を召喚し直すと、傷ついたヒポポタマスの上に()()()()()()

 そう、囀るのではなく涙を流し始めたのである。

 涙が額に落ちるとヒポポタマスの顔色が和らぐ。

 まさか、治癒魔法の類か。

 これは……非常にまずい。

 今の戦況もそうだが、それ以上にここにいないボスモンスターが本当にまずい。

 せっかく、ダメージを与えたワーヒポポタマスが完全に復活してしまう。

 いや、既にしている可能性もある。


 「ボスっ!」


 いつの間にかリマロンが獣人姿に戻っていた。


 「新しい作戦は? さっきのダメになっちゃったじゃん」


 この子はさっきから失敗続きの俺をまだ信用してくれているのだろうか。

 俺はよっぽど痛ましい表情をしていたのだろう。そんな俺の顔を見て彼女は言った。


 「そんな顔しなくても大丈夫。自分で言ってたじゃん。失敗すること自体はいい。同じ失敗をしなければいい」


 下手糞な声真似の後、さらに彼女は続ける。


 「わかんないことを予想するのは誰だって難しいよ。でも、今は違うじゃん。相手の力がわかったんだから、今作戦たてちゃえば問題ないよね」


 二度目だ。

 どうしてピンチ中の彼女の言葉にはこんなに勇気がもらえるのだろうか。

 

 「おっ、いつもの顔だ。私やコッコたちに無慈悲な命令する時の、いつもの悪い顔だ」


 失礼な。

 そんな感想を覚えつつも、必死に頭を回転させる。

 ここから俺たちが勝つ方法をなんでもいいから手繰り寄せる。

 そして、一案、思いつく。


 「リマロン、この部屋の敵を全部相手取るのに、どのくらいマンドラゴラがいるか?」

 「んー、わかんない。とにかくいっぱい」

 「わかった。いっぱい用意する。その代わり、死ぬなよ」

 「ひひっ、ボスも気合たっぷりだね。りょーかい」


 そろそろ敵も立て直して動き始めそうだ。

 俺は速やかに行動開始した。

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