24.ファイアリザードの意志3
俺様はファイアリザードの意思。
魔物の支配者たるダンジョン様だ。
俺様の魔物は最強だ。
炎の冠を頂くトカゲ、【ファイアリザード】。
ダンジョンの王者となる俺様に相応しい配下だ。
何せ近づく前にすべてを燃やしちまう。
燃えにくい物も【ファイアアント】の着火酸があれば、だいたい燃える。
更に【炎彩岩】で火のマナを高めれば、火力も上がり文句なしだ。
俺様はこの初期スキルだけで今まで勝ってきた。
泥の体のマッドゴーレムすら燃やし尽くせたのだ。
この布陣に燃やせない物はもはやあるまい。
今の相手は小賢しいトリ野郎だ。自陣から出てこない卑怯者野郎。
それでいてちまちまちょっかい出しやがるから、とっても煩わしい。
嫌がらせが減ったことを好機と捉え、攻め入ったが罠だった。
小癪なことに空に逃げて俺様たちの火の手から逃げたと思えば、空を壊して上空のモンスターをぶつけてきやがった。
部屋の真ん中までおびき寄せられたせいで撤退は間に合わずガチンコでぶつかるしかなかった。
もちろん敵は燃やし尽くした。俺様の魔物は最強だからな。
だが、最強の魔物でも傷の一つや二つは負うのだ。
守りが緩くなったと見た途端に奇襲とは、やつめ許せん。
それにボスモンスターを盾に撤退を選ぶその卑怯な精神もまた許せん。
あのトリ野郎、絶対に燃やし尽くしてやる。
だが今は火力が足りん。
ここは一旦引いて、おびき寄せて、一気に燃やす。
さっき手に入れたスキル【キススキ】。
いい燃料を手に入れた。意趣返しといこうじゃないか。
待ち伏せからの奇襲。こっちも罠に嵌めてやれ。
俺様は前室に罠を仕込みオリジンルームへ戻ると、残ったソウルを全て魔物の召喚に費やした。
クラクラくるがこんなところで王者は倒れない。俺様とその魔物は最強なのだ。
いくら鳥が飛ぼうとも、ずっと飛んでいられるわけがない。
キススキを燃やして部屋全域を火の海にして、下から攻撃を続ければやつらは地上に降りられない。
スタミナが尽きたところで反撃だ。
さらにオリジンルームからを援軍を出して、今度こそ残らず灰にしてやる。
思ったよりトリ野郎の動きが早い。
仕込みが終わった途端、突っ込んできやがった。
いや、早すぎる。あいつもソウルを大分失ってるはずだろうが。
ボスモンスターは燃やしたんだ。真っ当な魔物が残っているはずがない。
火の手が回り切る前に正面から突っ込んできやがった。
猪のように俺様の部屋に踏み込んできた魔物は獣人型だった。
後ろにはダンジョンが控えている。
【ボスラビブリン(BOSS)】
【ランクC+】
【アイアンシャベル】
【ランクD】
成程、簒奪か。俺様の獲物のトリ野郎を掠め取って、さらに俺様まで狩ろうってか。
しかし、残念だったな。お前はこのまま挟み撃ちだ。
罠部屋のファイアリザード2匹とファイアアント7匹がおまえの退路を塞ぐ。
さらに俺様の部屋にはファイアリザード4匹とファイアアント7匹に加えてランクC+ボスモンスターのサラマンダーリザードもいる。そんな小柄な魔物一匹で勝てると思ってんのか。
陣形を組む時間がなかったから、連携攻撃は出来ないがゴリ押しでいけるはずだ。
さぁ。さっさと燃えちまえぁぁッ!
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「さぁ、ボス戦の時間だぁ」
獣人の少女が不敵な笑みを浮かべてそう呟いた。
そしてこちらにちらりを目線を寄越す。
「てなわけでボス。あれ、お願いね」
俺は安堵する。
彼女がこのままの勢いで敵陣に突っ込んでいくかと思ったからだ。
暴走にも近いここまでの単騎行動は初陣で舞い上がっていると思っていたが、案外いろいろと考えてるのかもしれない。
敵のダンジョンの基本戦略が火責めであるように、うちにも十八番の戦略がある。
俺は相手の支配領域を押しのけて、いつものを召喚した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ」
リマロンは叫び声を上げるマンドラゴラを振り回すとそれーという掛け声とともに岩穴の1つへ投げ込んだ。
呪いの声が岩の砦に木霊する。
岩穴から顔を出していたファイアリザード全てがひっくり返った。
ボスのサラマンリザードは耐えているが、目から血を流している。
取り巻きトカゲは全滅。ボスにもダメージは与えたはずだ。
一方で蟻のモンスターは多少ひるんだ程度。
生き物だったとしても、耳がないモンスターには効き目が薄いか。
ただ、今は無視でいい。
俺様はさらに【コッコ】と【アンアンシャベル】を使う。
「新しい方がいいだろ」
「ありがと」
リマロンがぼろぼろになったシャベルを投げ捨て、新品を受け取ると血涙を流すサラマンリザード目掛けて駆けだす。
今回俺は追従しない。コッコがいるため支配領域は保てている。
俺をかばいながらだと彼女も暴れにくいだろう。
現に動きの切れが違う。
サラマンリザードは火の球を続けざまに放つが、リマロンの足跡を焦がすだけだ。
岩の柱まで辿りつくとそのまま外壁を駆けあがる。
最上の岩穴から身を乗り出してサラマンリザードが横薙ぎに火炎の息を吐く。
外壁を蹴り、空中へ逃れる。
今度は縦薙ぎに炎が迫る。
石弾を放ち、反動で横へずれる。
2発目を放ち、その勢いで外壁にシャベルを突き刺す。右手でぶら下がり、左手を外壁に付ける。
「これでどうだっ」
壁を伝って衝撃波がサラマンリザード目掛けて迫る。土波だ。
身を乗り出していたたサラマンリザードは衝撃波の直撃を受け、地上へ頭から落ちてく。
落下の衝撃で砂埃が舞う。
「隙ッありぃ」
リマロンが宙に舞う。
その先には白い人影。
自身のボスモンスターに気を取られていた人影は対応できずにリマロンと重なると、煙のように体が乱れた。部屋中の黒いオーラが霧散する。
白煙はまとまり玉となり、俺の体へ吸い込まれた。意志は遺志へ変化したのだろう。
【迷宮スキルを獲得しました。】
【火彩岩】
【ランクC】
【炎のような模様の岩塊。配置した部屋の火のマナをとても高める。火のマナを濃縮する性質がある。】
あいつ、ムチャしすぎだ。
俺は咄嗟にリマロンの着地点に【池】を使う。
瞬時に出来上がった池に獣人の少女が吸い込まれると、豪快な飛沫を上がった。
一瞬の静寂の後、ジタバタ浮かんでくる。溺れかれているようだ。
俺は咄嗟に手を伸ばすが、当然透明な掌は彼女をすり抜ける。
なんとか、自力で這い上がってきたリマロンの声は弱弱しい。
「げほっ、ごぇほ。ちょっとボスぅ、これはダメ。水ってホント苦手…げっほ」
「すまん」
「気遣いは嬉しいけど、次からはフカフカの怖妖土でお願いね」
水を吸ったせいで毛が重いのか、さっきの大立ち回りをした人物とは思えないのそのそした動きだ。
俺は素直に反省する。このことだけではない。
戦いに勝つため、ダンジョンを強化するため。
そんな考えで作戦ばかり練っていたせいで、俺はリマロンのことをあまり分かってあげられてないと気付く。
今回の戦いは俺の作戦が空回りで、彼女の判断が正解だった。
「もー、そんなに凹まないでよー、せっかく強敵に勝ったじゃんかー。ぶいっ」
笑いかけてくるリマロンの笑顔が眩しい。
何はともあれ、また1つのダンジョンを攻略することが出来たようだ。




